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第四話 第五部隊

 

 第五部隊の寝床は戦争によって放棄された小屋を使っているようで、どう見ても廃村のようにしか見えない。それに急造されたらしき建物も全て、明らかに暮らし難そうな造りをしている。大工のような職人ではなく、素人が建てたのが一目で分かるというものだ。


「ここに第五部隊の者達が…」

「ああ」


 今日からここで暮らすのか…と呆然とする悠斗に、隣にいる簡潔にシャクナが答える。

 そもそもどの部隊の者達も皆、決まった居住地を持っていない。理由は簡単で、人間が攻めてくるせいである。徐々に人間に圧されている魔族達は、後退する度に新たな居住地を探している暇がないのだ。そのため、すぐに動けるように簡素な寝床のみを用意する。

 居住区があるのは魔王領でも魔王城の近くに住んでいる者達と、四天王やその側近くらいだ。四天王はそれぞれの部隊からの報告を受け取る必要があるため、滅多に自分が守る都市から動くことはない。


「これから、ユウトの寝る場所を用意する。その後に建物前に部隊の者達を集めるから、大人しく待っていてもらう」

「分かりました」


 悠斗は早速一つの建物へと案内される。そこは前隊長が暮らしていた建物のようで、他の建物に比べると立派だ。


(周りの建物と比べるといいが、それでも最低ランクの建物だな…)


 彼は建物の中を見て回る。かなり埃っぽいが元々存在していた小屋のようで、造り自体はしっかりとしていた。

 シャクナが部隊の者を集めに出て行った後、すぐに彼はそう時に取り掛かる。


(家具も少しは揃っているな。最低限の生活はできそうだ。あと心配なのは、食料か…)


 食料はこの小屋には一つもない。前隊長が亡くなってから食べ物は一切運ばれていないので、当然と言えば当然である。

 冷蔵庫等がないこの世界では、食料の保存は日除けをした風通しの良い倉庫を用いる。小屋に食べ物を放置していては、数日で殆どの物が腐ることとなっただろう。

 そもそもここにいるのは農民ではなく、戦争に出る戦士達だ。そのため、この周辺には畑等が一切見当たらない。何処かから補充していなければ、すぐに食料は尽きるだろう。

 最低限の寝床の確保ができた彼は、次にそこを心配していた。


「ほう、感心したな。まさか少し間に、ここまで綺麗になるとは…」


 戻って来ていたシャクナが、少し綺麗になった部屋を見て声を上げる。掃除道具等が見当たらなかったので、悠斗は要らない物を片付ける等の本当に些細なことをしただけだ。

 だが自室にずっと引き篭もり、その間自分で掃除をしていた彼は、この程度では綺麗になったと思えなかった。そもそも時間もなかったので、本当に邪魔な物を隅に除けただけなのだ。


(これで綺麗になったって、どれだけ魔族の住処は荒れてるんだよ…。だが、ヘル様の屋敷は綺麗だったよな)


 彼は呆れたような考えを浮かべるが、全ての魔族がそれほど大雑把という訳ではない。結局は個人によるものなのである。


(そう言えば日本でも、ごみ屋敷のような部屋に住んでいる人もいたっけ…)


 側近の中に優秀な者がいるのだろう。シャクナが掃除に疎いだけだ、彼はそう考えることにした。


「ここに全員を集める訳ではなかったのですか?」

「全員を集める必要はないだろう。今回は新たな隊長の顔見せだ。リーダー格の者達だけ集まってもらえばいい」

「そうですか? 顔見せこそ、皆に見てもらった方がいいのでは?」

「馬鹿な事を言うな。どうせ全員集まっても、皆と話せる訳ではない。それならば、それぞれのリーダーからユウトの印象を話してもらった方がいいだろう」


(なるほど…確かにそれは一理ある。信頼できる者からの情報の方が、ただ顔を見るだけよりもいいか)


 悠斗は集まった者達を見回す。


「話はすでにシャクナ様から聞いている。俺はゴブリン達のリーダー役であるジョンだ」


 最初に彼に話しかけて来たのは、体は小さいのに筋肉が盛り上がったアンバランスな体をしているゴブリンだった。このジョンという男はゴブリンという弱い種族でありながら、戦場を生き抜いて来た猛者だったりする。

 他のゴブリン達とは違ってかなり筋肉質な身体つきであり、前線に出て他のゴブリンを引っ張っていくのが得意だったりする。簡単に言えば脳筋である。


「私は奇襲部隊を指揮する、ハーピィのユヤです」


 こちらはジョンとは正反対で、全体的にかなり細い身体つきをしていた。腕の代わりに生えた翼を重ね、礼儀正しくお辞儀をする。その際に重力で下に流れた鮮やかな緑の髪が、さらに彼女の所作を流麗に見せる。

 彼女は奇襲部隊という名の空襲部隊を指揮する、この部隊にいる飛行できる殆どの魔族のリーダー役だ。大雑把な者が多い魔族では珍しい慎重な性格で、敵に見つかることなく近付くのが得意だったりする。しかし、惜しいのは彼女が魔王軍にいることだ。

 いくら彼女が優れているといっても、他の者達も彼女のように慎重に動ける訳ではない。そのため彼女の素晴らしい指揮には反して、奇襲が綺麗に決まることは少ないのだ。


「歩兵部隊、オーガのヒュリン」


 言葉が少ないこの男はジョンをさらに大きく、さらに厳つくしたような大男だった。歩兵部隊(ゴブリンを含む)を指揮する彼は、第五部隊の歩兵の中で最も強い。

 その強さに惹かれて歩兵は彼をリーダーと認めているが、常にこのように言葉が足りないため、あまり指揮をすることには向かない。なので部隊の中で一番数が多いゴブリンは、ジョンが纏めていたりする。


「遠距離部隊を指揮する、アラクネのデリスよ。よろしくね」


 妖艶な響きを纏った声を出すデリス。彼女は下半身は蜘蛛、上半身は人間の見た目をしている。声にあった身体つきをしており、その双丘はヘルザードと互角と言ってもよいくらいだ。蜘蛛である下半身はかなり大きく、二メートル近い体高の七割近くを占めている。

 彼女は種族特有の粘度の高い糸を出す他、弓の扱いにも秀でている。遠距離部隊は弓や魔法、さらに種族特有の遠距離攻撃を扱うことを得意とする部隊であり、部隊の攻撃力から支援までを幅広く行う部隊だ。


「斥候部隊を指揮する、ピクシーのナノなのです!」


 元気な声でそう言ったのは、斥候部隊のリーダー役であるナノだ。彼女は十センチ程の大きさしかなく、悠斗の目線の高さに合わせて背中の羽を羽ばたかせていた。

 斥候部隊のピクシーは彼女以外にあと三人。それ以外は飛べない種族で構成されている。

 ピクシーという種族は体の大きさと通りの力しかなく、魔法に関しては同じような姿をしている妖精と比べて拙い。というよりも妖精は魔法が得意だが、ピクシーはそうではないのだ。遠距離部隊の魔法と比べてもかなり威力が弱かったりする。

 なのでピクシーは飛べるのに奇襲部隊でもなく、魔法が使えるのに遠距離部隊でもないのだ。地上の者達も皆、戦闘力に関しては話にならない。


「俺は悠斗という。ヘル様から直々にこの部隊の隊長を任命された。これからよろしく頼む」


 悠斗はそれぞれのリーダー役と話し始める。自分がどのような存在かを知ってもらうために、そしてヘルザードに任せられたこの部隊を強くするヒントを得るために。

 部隊の強みはあまり聞くことができなかったが、弱みは沢山出て来た。その中でも一番の問題は、やはり人員不足だろう。


(軍の兵士とまともに戦える者が殆どいないとは…)


 彼は聞いた話を思い出し、困った表情を浮かべる。第五部隊はたった百人と少しの小さな部隊だ。そしてその半数近くをゴブリン達が占めている。

 元々は五百人近くの部隊であり、ゴブリン以外の他種族も大勢いた。だが度重なる敗戦で人数は激減し、ここまで小規模な部隊となったのだ。そして今いるゴブリンの殆どは、失った戦力の補充要員として送られてきた者達だ。戦いを禄に経験もしていない、ただの数合わせのような存在だった。

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