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第三十八話 誘い


「よう!」

「今度一緒に飲まないか?」

「俺達とパーティー組まないか?」


 悠斗が冒険者ギルドに入ると、他の冒険者が話しかけたり勧誘を始めたりする。


「熊を倒した英雄だ!」

「わぁ~!!」

「この街を守っていただき、ありがとうございました」


 さらに街中でも老若男女問わず、悠斗へと話しかけてくる者達は多い。特に子供達には英雄だ何だと人気だった。

 マザーグリズリーの討伐者として名前が刻まれた悠斗は、他の討伐に参加した冒険者と同様に有名になった。

 彼はマザーグリズリーの討伐者の一人としてギルドでも評価され、報酬をもらった際にCランクに昇級している。

 討伐者は全員この街の冒険者であり、その中でも上から数えた方が早いレベルの猛者達だ。すでに街でも認識されており、元々街の高ランクパーティーとして有名だった。

 そんな中で、悠斗だけが異常だったのだ。今はCランクだが、当時はDランク冒険者。さらにこの街に来たばかりであり、それどころか冒険者になったばかり。

 そんな彼が、今ではすでにCランク冒険者だ。これは異常な速度での昇級であり、それも相まって余計に噂が大きくなっていった。

 冒険者の中でも、かなり噂されている。彼が討伐隊に参加していないのは、冒険者の殆どの者達は知っている。しかし、その代わりに彼が一人でマザーグリズリーに立ち向かい、深手を負わせたことも知っているのだ。

 そのことを証言する…証言できる者達もいる。彼が助けた冒険者達だ。彼等はCランク冒険者であり、そんな彼等が逃げ切ることすらできなかった。

 そのマザーグリズリーをソロの冒険者が追い返した。冒険者として活動している者達にとって、それがどのようなことかは一般人以上に理解できる。

 悠斗は渾身の一撃を、マザーグリズリーの意識外から与えただけ。しかし彼等はそれを知らない。知っているのは実際に助けられた者達だけだ。

 そして助けられて恩を感じている彼等は、より良い印象となるように証言しても、決して印象が悪くなるようなことは言わない。

 なので、噂が自身の実力以上に肥大化していた。

 だからぜひ自分達のパーティーにと皆が躍起になっているのだ。単純にお近付きになりたいと思っている者達もいるようだが。


(……動き難い)


 悠斗は街の状況に辟易していた。

 彼は自分の実力を把握している。マザーグリズリーと正面から戦えば、間違いなく殺されていたということも理解していた。

 だからこそ、マザーグリズリーに一人で深手を与えられると噂されている今の状況が、彼にとっては微妙だった。

 それに何より、今の彼はこの街ではかなり注目されている。

 何かをしようとすればすぐに噂となり、さらにそれに尾ひれが付いて広まっていくのだ。

 勇者を秘密裏に探している彼にとって、行動を監視されているも同義だった。

 そして最近は勇者の情報を得るどころか、それらを行うことすらできずにいた。


(そろそろリベアから移動するか)


 勇者の情報を得られないのであれば、次の街で情報を集めた方が良い。この街に拘る必要も、その気もない彼はそう考えていた。

 そして次の街へ移動することを伝えるために、冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者は依頼以外で他の街へと向かう際に、冒険者ギルドへと伝えなければいけないルールがあった。これは何処へ向かうというよりは、その街を出ると伝える必要があるということだ。

 冒険者は依頼等で街の外へ出ることが多い。そして依頼の際はギルド側で把握しているが、勝手に外へ出られては把握できない。

 もし何処かで事故や魔物に襲われて死んだ際に、何も情報が得られないのだ。

 その街にまだいるのか、それとも別の場所へ向かったのか。それを把握しておくためのルールだった。


(ん? あれは……)


 冒険者ギルドへと入った悠斗が見つけたのは、リベアへ来る際に救った者達。その中でも、ランクが低かったパーティーの者達だ。

 女の子が二人、ギルドの隅で話し合っている。助けた時とは異なり、薄汚れてやせ細っていた。稼ぎが少なく、生活もかなり辛いのだろう。

 冒険者は高ランクの依頼を達成できる力があれば、かなり良い稼ぎとなる。しかし、低ランクの依頼すら苦戦するレベルでは、満足な生活費を稼ぐことすらできない。

 ここはそんな場所であり、誰もがそれを知っている。高ランクの稼いでいる冒険者ですら、昔は苦労しながら地道に強くなってきた。

 弱肉強食とまではいかないが、力がないと生きていけない職業であることは間違いない。

 冒険者という職業を選び、冒険者として活動しているのは自分達の意思だ、だからこそ、誰も彼女達を助けない。

 そんな中、悠斗は彼女達に視線を向けていた。


「!? ……いい能力を持ってるじゃないか」


 鑑定を使い、能力を確認する悠斗。

 そんな彼の目には、彼女達が宝石のように映っていた。


(収納箱って、間違いなくアイテムボックスみたいな能力だよな! 異空間に物を入れたり出したりできるやつ。収納箱は内部の時間は止まるのか? その辺りは本人に聞いてみないと分からないか……)


 彼は珍しく興奮していた。鑑定やアイテムボックス。それは様々な異世界転生ものの小説で出てくる、チートスキルにもなり得る能力だからだ。


「少し話しをいいか?」

「えっと……はい」


 悠斗が二人組に声を掛ける。声をかけられた二人は、訝し気に悠斗のことを見た。それはそうだ。片や英雄と言われている存在、片や低ランク冒険者で生活にすら困っている存在なのだから。

 何故自分達に声を、となるのは当然だろう。


「二人は…」


 悠斗は二人から色々と話を聞く。いきなり能力のことを聞いて、その内容を答えてくれるとは思っていない。

 なので、当たり障りのないところから質問を始める。

 その結果、彼女達の状況が色々と分かっていく。

 彼女達は幼馴染三人で家を飛び出し冒険者となってパーティーを組んでいた。そして先の魔物の襲撃で死んだ仲間、その者がリーダーとして二人を引っ張っていた。

 リーダーも能力を持っていた。そして攻撃系の能力だった。なので、今はかなり戦力が落ちたのだと言う。

 そのリーダーがいなくなり、だからと言って今から他の職業に就こうとは思えない。なので、今でも冒険者として頑張っている。

 しかし二人では依頼をこなすのが困難であり、生活費が満足に稼げていないと。


(家族の反対を押し切って冒険者になった。今更家にも戻れないと。だから冒険者として稼ぐしかない……か)


 悠斗は二人の話を聞き、この者達は馬鹿だと思った。冒険者は夢のある職業だ。しかし、それだけ稼ぐことができるのは冒険者全体からみれば少数。

 つまり、殆どの者達は生活していくのに苦労しているのだ。

 彼女達はそんな過酷な道に考えもなしに飛び込んだ。能力持ちがいたのならば、成功するという確信があったのかもしれないが……。

 そして少しのアクシデントでパーティーが崩壊した。

 残った二人はまともに依頼で稼ぐことすらできない。しかし、冒険者を諦めたくないと言う。さらには、家を飛び出したのに今更帰り難いとも。

 だがそれと同時に、彼はチャンスだとも感じていた。


「俺とパーティーを組んでみるか?」


(俺は今Cランク、それも話題の英雄だ。冒険者を諦めたくない彼女達にとって、絶好の機会だろう。必ずこの誘いに乗ってくるはずだ)


「……え?」


 そんな彼の誘いに出た言葉は、戸惑い混じりのそんな言葉だった。

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