表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/42

第三十五話 新米冒険者2


 冒険者となった悠斗は、早速情報収集を始めた。

 新人冒険者が現れ、今は歓迎ムードとなっている。彼が少し媚びを売る感じで情報を聞こうと接触すると、皆は先輩風を吹かせながら話していく。

 悠斗も上手いこと聞いており、特定の人物の情報を得るような質問は決してしない。魔物の情報や美味しい狩場の情報、新人冒険者として気になる情報を得ながら、その中に高ランク冒険者やその他の強者の情報を探っていく。

 冒険者達も、流石に全ての質問に答える訳ではない。自分達しか知らない美味しい狩場。取られたくない狩場等の情報は出し渋る者もいる。だが、悠斗は出し渋った者達にそれ以上追及することはない。

 本当に欲しい情報ではないというのもあるが、彼等も冒険者として生計を立てている者達。そういった情報は重要な武器でもある。

 それを知っているので、それ以上の追及をしないのだ。

 そして冒険者達はそれらの質問に答えられなかった代わりとして、答えられそうな質問には進んで答えてくれるようになる。


(これ以上は意味がないか…)


 結局得た情報の中に、気になる情報はなかったようだが……。


(また後日話を聞きに来るか)


 まだリベアに来たばかり。それに、情報は日にちが経つごとに更新されていくものだ。特に日本とは違い、口頭や手紙等といった直接情報を得ないといけないこの世界では尚更。





「また一人で依頼を受けるのですか?」


 悠斗が持って来た依頼書を見て、受付嬢がため息交じりに尋ねる。


「ジョディさん、この程度の魔物なら一人で問題ないですから」


 一週間リベアで依頼をこなしてきた悠斗。冒険者として依頼をこなすことに慣れてきた悠斗であったが、未だにソロで活動をしていた。

 理由は単純。彼がパーティーを組むことを拒んでいるからだ。彼は自ら単独で動こうとする。そのため、周囲はパーティーを一緒に組もうと言い難い雰囲気となる。そして彼自身も、パーティーに加入しようとはしない。

 元々ある程度の実力はあるため、一週間でDランクへと至った。そして彼の実力ならば、Dランク程度の魔物ならば一人でも問題なく狩ることができる。

 Cランク冒険者達が苦戦していたアーマーリザードを、殆ど一人で倒していったのだ。それを聞いた受付嬢も、Dランク程度ならば大丈夫だと知ってはいる。

 知っていはいるが、それはそれこれはこれだ。依頼を受け、魔物退治へ向かった先で依頼された魔物だけを狩る訳ではない。別の魔物と出くわし、戦闘になることはかなりの高確率で起きる。

 それも、高ランクになればなるほど遠出が多くなるため、確率は嫌でも上昇していく。受付嬢はそれを危惧していた。

 実際、Eランクの魔物の討伐に向かった冒険者がDランクの魔物と戦闘になり、大怪我を負って街へと帰って来るようなことは珍しくはない。


(確かにジョディさんの助言は有難いけど、勇者を探す旅で来ている手前、パーティーに入り難いんだよな……)


 パーティーは基本的に一緒に行動する。それは当然だ。別々に依頼を受け、別々に行動するのであれば、パーティーを組む意味はない。

 そして情報を得るために他の街にも行く必要がある悠斗は、迷惑となるため無暗にパーティーに入ることができないのだ。


(放浪パーティーに入ってもいいけど、それはそれでじっくり情報収集できないんだよな…)


 彼が考えている放浪パーティーとは、次々と他の街へと移動しながら依頼をこなす者達のことである。彼等は金を得るために冒険者として依頼をこなしてはいるが、旅が好きな者達の集まりだ。そのため、転々と移動していく。

 中には自分に合ったホーム(活動拠点となる場所)を決めるために放浪している者達もいる。


「無事に帰って来てくださいよ」

「分かっています」


 渋々といった様子でジョディが許可を出す。


(今日はオーク狩りだ)


 最近リベアの近くで目撃されるオークの群れを狩る。それが今回の依頼内容だった。

 オーク単体ならば、Eランクの討伐依頼となる。今回は十頭近くの群れが確認されたため、Dランクの依頼となった。

 いくら弱い魔物でも、数が増えれば増える程討伐難易度は上昇する。最弱のゴブリンでも、数十という数の群れになればDランクの依頼となったりもするのだ。


「流石に慣れてきたな」


 悠斗は早速近くの森へと分け入っていく。

 一週間毎日のように入っている森だ。初めの内は迷うのを恐れてそれほど奥へは入り込まなかったが、今では当たり前のように入り込んでいく。

 森の中は確かに迷い易い。だが、この森は街の近くにある森だ。当然他の冒険者達が何度も訪れており、彼等が残した目印のような物がいくつか存在する。それを頼りに他の冒険者達も森の中を迷わずに進んでいくのだ。


「見つけた」


 オークの群れ。悠斗の見える範囲にいる数は全部で六頭。


(他のオーク達はどこにいった?)


 見つかった数のオークを討伐しなければ、依頼達成とはならない。今いる六頭を倒したところで、他のオークが見つからなければ森の中を探し回る必要があるのだ。

 勿論魔物なので例外はある。他の魔物や他の冒険者に狩られることもあるからだ。その場合は数日間群れが見られない、という状況が続けば依頼達成となる。つまり依頼達成までに、達成が確認されるまでにかなりの時間が掛かるということだ。


(面倒なことになったな…)


 悠斗はしばらくオークの様子を見ていたが、一向に他のオークと合流する気配はない。


(あそこにいるオークを倒して報告してもいいが……)


 他にオークはいなかった。その報告では、依頼報酬の満額をもらうことはできない。オークの討伐報酬として一部は支払われるが、残りは依頼達成となってからだ。

 さらに達成が確認される前に残りのオークが見つかった場合、誤報告としてペナルティを受けることになる。

 だから近くを隈なく探し、いないと自信を持って言い切れるようでなければならない。


(兎に角、今は目の前のオークを討伐しておくか)


 悠斗はそう考え、茂みに隠れたままサブウェポンとして携帯している短剣を取り出す。

 近付いてくるオーク、その先頭のオーク目掛けて力一杯投げつける。


「「「グゥ」」」


 見事眼球の辺りに命中し、短剣が突き刺さったオークは背後へと倒れる。突然仲間のオークが倒れたことで、残りのオーク達は短剣が飛んできた方向を警戒した。


(まさか、綺麗に命中するとは…)


 悠斗は別に、短剣の投擲を極めたといったことはない。飛び道具を欲して少し練習した程度。顔に当たって戦闘が困難になれば上等程度の一撃だった。


「行くぞ!」


 茂みから飛び出し、オーク達の側面から襲い掛かる。


「「「グォ!?」」」


 短剣が飛んできた前方ばかり気にしていたオーク達は、とっくにその場から移動していた悠斗に気付くのが遅れた。

 奇襲を受け、二頭が悠斗の剣によって斬られた。


(残りは三頭)


 ここからは純粋に一対三。先ほどとは違い、しっかりと剣を構える悠斗。


「……何だ?」


 しかし、オークは一頭だけが前に出るだけ。残りの二頭は後ろで悠斗を威嚇しているだけだった。


(よく見れば怪我をしているな)


 後ろの二頭のオークは、すでに深い傷を負っていた。そのため戦闘には参加しないといった様子。


「グォォォ」

「舐めているのか?」


 咆哮を上げながら、悠斗へと突撃していくオーク。

 だが、オークは単体ではEランク相当の魔物。

 一対一で彼に勝てるはずもない。


「グガァァ!!」


 振り下ろす拳を右へ躱し、そのままカウンターでオークの胸へと剣を突き刺す。

 オーク自身の勢いもあり、その一突きで刃が背中から突き抜けた。


「「グゥア」」


 残った二頭のオーク。怪我をしている以上、逃げ切れるということはない。野生の本能と言うべきか、目の前で他のオークが全員殺されたのに、逃げるという選択をすることはなかった。


(すでに他の何かに襲われていた。だから数が少なかったのだろう。報告はこれでいいな。一応他に逃げ延びていないか探す必要はあるが……)


 深手を負ったオーク二頭など、悠斗の相手にはならない。彼は別のことを考えながら、死にもの狂いで向かってくるオーク達を切り捨てたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ