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第三十四話 新米冒険者


「良かった! 助かった!!」


 九死に一生を得た護衛対象の商人の男が、嬉しさのあまり声を上げる。死にかけたのだから仕方がないことだが、冒険者達は浮かない顔をしていた。


「どうして…」

「ちくしょう!!」


 動かなくなった者の側で泣き崩れる者。負った傷の深さを見て絶望する者。

 十一人の内、三人が死んだ。そして四人が負傷。その内三人は、冒険者生命が絶たれるほどの重傷を負ってしまっている。


「早くリベアへ!」


 護衛の冒険者達の隊長だと思われる人物が、崩れ落ちた者達を急かす。あれだけ暴れた以上、戦闘音や血の臭いで他の魔物が寄ってくる可能性が高い。戦力がかなり低下している今、すぐに移動した方がいいのは間違いない。

 それでも、彼のように気持ちをすぐに切り替えることができる者は少なかった。





「運んでもらって申し訳ない」

「いえ、私もつい喜んでしまって……少し不謹慎でした」


 リベアへ向かいながら、商人と隊長が話し合っている。

 傷を負って動けない者は、商人の馬車へと運び込んでいた。商品が沢山積み込んであり、それほどスペースは空いていなかったが、商人の好意であの場に荷物の一部を置いて来たのだ。そのおかげで、全員がリベアへと到着しそうだった。


「あんたも助かった」

「偶々通りかかっただけだ」


 隊長の言葉に、悠斗が応える。彼も商人達と共にリベアへと向かっていた。彼は元々リベアへ向かうつもりだったし、隊長や商人に頼まれたのだ。護衛の戦力が減ったので、付いて来てほしいと。

 そこまで言われて、別行動をするほど悠斗は薄情ではない。そもそも冒険者に恩を売るつもりで助けた以上、断るという選択肢を持ち合わせていなかった。


「へえ、冒険者になるためにリベアに来たのか…」


 そう。悠斗は冒険者になる予定だった。冒険者になれば、色々な街や国に移動することが多くなる。勿論受ける依頼を選べば、そういったことはなくなるのだが…。

 勇者が軍と行動していない以上、情報を得るためには冒険者になるのが一番可能性があると予想していた。


(勇者はまだ、魔王領には入っていない。踏み込めば、魔王様が放った部隊が補足するからだ。魔王領にいない以上、まだこの周辺にいる可能性が高い。冒険者や商人から情報を得るのが早いだろう)


 自分一人で探し回るよりも、外から来る者達から情報を集める方が効率的。彼の考えは正しくはあったが、リベアに着くまでに隊長から聞いた話により、さらに冒険者へなろうとする気持ちが強まった。


(高ランク冒険者か……)


 隊長の話により、高ランク冒険者の特権を聞いたのだ。高ランク冒険者には、依頼を斡旋する冒険者ギルドとしても、より働いてほしいと考えている。

 そのため、いくつかの特権を設けているのだ。その一つに、情報の開示というものがある。

 冒険者ギルドが各地から集めた情報(中には機密に近い情報まで)を、尋ねれば開示してくれるというものがある。

 特に冒険者ギルドはその仕事柄、強者や魔物等の情報が入って来ることが多い。その情報の中に、勇者に繋がる情報もあるかもしれないのだ。

 商人達とともに、悠斗はリベアへと入る。町に入る際に冒険者でも商人でもない悠斗は不審がられたが、護衛してきた商人が彼の身元を保証するという形で簡単に入ることができた。

 そして報告へ向かうという冒険者達と共に、ギルドへと向かう。


「ここが冒険者ギルド」


 悠斗がギルドを見て、感嘆の声を上げる。ギルドの中には沢山の冒険者がいた。


(この者達が俺の敵)


 冒険者は仕事柄魔物の討伐を得意とするため、ある意味では一番悠斗達魔王軍の敵になる可能性が高い者達だ。


「だから言ったでしょう!!」

「「「……」」」


 受付へと向かい護衛依頼の報告をしていた冒険者達が、受付嬢から怒られていた。

 彼女が声を荒げる度に、怒鳴られている者達はしゅんとして俯いていく。

 実は彼等は、このクエストを受ける際に一度止められているのだ。

 彼等はCランク二つ、Dランク一つの混合パーティーだった。護衛の依頼はCランク以上の者達が受けることを推奨されており、強制的に止められることはないが注意を受けるのだ。ギルドとしても、依頼を斡旋する側として依頼者の命が掛かった護衛依頼を低ランクの者達に任せたくはないのだろう。

 それに、護衛は対象を守る必要がある。ただ魔物と戦う依頼よりも、当然難易度は上がってしまう。

 今回も受付嬢から注意を受けたが、彼等は問題ないと無視した。

 その結果がこれだ。負傷した四人は治療を受けるために医院へと向かっており、この場にいない。そして死んでしまった三人も、当然のことだがこの場にいない。

 受ける時は十一人いた者達が、報告に来てみれば四人になっている。それも、商人は一部の商品を置いて来たのだ。当然依頼は完全な成功とはいかない。

 それに今回は、さらなる問題を抱えていた。

 Dランクパーティーは、冒険者登録をして間もない新人達のパーティーだったのだ。四人中二人が能力持ち。そのため、下駄を履いた形でDランク冒険者となった。Cランクパーティーは、能力持ちがいると護衛が楽だと考えて彼等を誘った。

 新人パーティーだと知っていた受付嬢は、いつもよりも強く注意をしていた。


「全く…貴方達は降格処分を受けることになります」


 それを押し切る形で依頼を受けた以上、重い罰を受けるのは当然のことである。特に死んだ三人の中に、その能力持ちが一人混じっていたのだ。

 能力持ちは貴重であり、重宝される。それは国の兵士でも冒険者でも同じことだった。

 誰も言い返さない。いや、言い返せない。

 悠斗が助けに入らなければ、あのまま全滅していたのが分かっているのだ。


「それで、そちらの方は?」


 受付嬢は言うだけ言うと、意気消沈した冒険者達を放置して悠斗へと視線を向ける。


「冒険者登録をしたいんですけど…」


 仲間を失い、自身も死ぬ思いをして生き残った冒険者達に理路整然と攻め立てていた受付嬢が怖かったのか、何故か丁寧な口調で言う悠斗。


「冒険者登録ですね!」


 先ほどのことは何もなかったかのように、彼の対応をし始める受付嬢。


(どう考えても魔族より怖いだろ)


「何か?」

「いえ! 何もありません!!」


 受付嬢の対応を若干引きながら見ていると、受付嬢からプレッシャーと共に笑顔が…。

 咄嗟に彼が言葉を返すと、再び登録作業へと戻っていった。


「登録完了です」


 そう言い、冒険者の身分を示す冒険者カードを差し出す。


「ありがとうございます」


 それを受け取り、悠斗はカードを確認する。

 そこには最低ランクのEと書かれていた。

 彼は能力持ちだと伝えなかったのだ。冒険者ランクはE~A、そして一番上にSとある。


(早くランクを上げたいが、能力を明かしても所詮はDまでしか上がらないからな。それならば、隠しておいた方がいいだろう)


 戦いにおいても鑑定は目立たない。それならば、隠しておいた方がいいだろうと考えたのだ。


「~~~~、以上となります」


 冒険者になったことへの注意点を話していた受付嬢。事務的な声で最後まで告げ、話を終えると悠斗を見て微笑む。


「ようこそ、冒険者の世界へ」

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