第三十二話 四天王集結
海賊討伐から三か月近くが経過した。
その三か月の間に新たな海賊等が現れるといったこともなく、ソウェルは順調に大きくなっていた。小規模な港だったのが、別大陸から沢山貿易船が来ることにより、大きな港へと工事されている。
「幕舎がかなり増えたな」
「仕方ないですよ。港の工事で手一杯だったのですから」
「工事もかなり急いで、何とか間に合ったといった様子だったしな」
漁師の男と漁港で働く男の二人が、目の前に広がる幕舎だらけの光景を見て話し合う。
現在では町よりも港付近で生活している人の方が多い程だ。今現在、港を大きくすることに力を注いでいたため、町中はそれほど大きく変わっていない。
レジトワ国の他の街や別大陸から人が流れてくるため、人口に対して町の大きさが合っていないのだ。
そのため、仮住居として簡単に設置できる幕舎を用意されてる。
町を大きくするため、住居や外に新たな柵を設置する作業は日中のみ行われていた。町の外は魔物が現れる可能性があるため、暗い中での作業は絶対に行わない決まりだった。
これらの工事は全て、第四部隊の副隊長であるヒルビーが担当している。彼女はレジトワ国を治めるにあたり、その大部分を悠斗から任せられていた。
彼はある程度落ち付かせた後は、元々第四部隊に任せようと考えていたのだ。そして脳筋気質の隊長ベルニドには任せられないと思い、彼女に統治を任せていた。
彼女は悠斗と共に行動して知恵を得た第五部隊の者と比べれば、知恵が回らないと言わざるおえないだろう。だが、それでもすでに落ち着いた国を治める程度ならばできると考えたのだ。
それに何より、彼女が国を回しているという訳ではない、彼女は情報を拾い集め、それぞれに許可を与えたり指示を出すのみ。全てはレジトワ国の国民が自発的に考えて動いている。
悠斗が住民から代表を選び、町や村の統治を手伝わせていたのは魔族に統治されていると思わせないようにするためだけではない。こうして自分達で町を回せるようにするためでもあったのだ。
これにより、ヒルビーの負担は殆どないに等しい状況となっている。
ここまでの状況を作った悠斗達は、大変そうだったが…。
そして悠斗はというと現在、魔王城にいた。
隣にはヘルザードもいる。
その反対には四天王の一人であるルートルード。
(まさか俺が呼ばれるとは…)
魔王ルキナから四天王へと招集がかけられ、魔王城へと四天王達が各自集まって来ていた。その中にある悠斗の姿は異質ではあったが、彼もヘルザードと共に呼び出されていたのだ。
現在魔王がいる部屋に集まっている四天王は、ヘルザードとルートルード。魔王は退屈そうにしており、部屋を満たす空気はかなり重苦しいものとなっていた。それを見て、流石に誰も言葉を発することはない。
集まるまでに呼吸困難になって死ぬのでは、と悠斗が考え始めたタイミングで扉の開く音が。
「遅くなりました」
「かまわん」
入ってきたのは全身が植物に覆われた女性。アルラウネである彼女は、自身の体も植物でできている。そして大樹の周囲で植物が芽吹くかの如く、沢山の植物が彼女を覆っているのだ。
四天王の一人である彼女は、魔王領の西方の守護を担当している。
「それでは、招集した理由から話すとしよう」
「お待ちください」
魔王の言葉を受け、ルートルードが声を上げる。
「どうかしたか?」
「まだ一人。レオンハルトが来ておりませんが…」
「分かっている」
四天王を招集した。そしてその四天王の一人が来ていない。それなのに、魔王は気にせず話を始めようとする。
それを見た悠斗とヘルザードは、レオンハルトに何かがあったのだとすぐに察した。
アルラウネも何の話かを察したような表情をしている。未だに分かっていないのは、ルートルードくらいのものだ。
(四天王が一人集まっていないのに、普通に話し始める。その時点で、その四天王に何かがあったのは明白。さらにようやく攻撃に転じ始めたところで、最大戦力である四天王の招集。恐らくその四天王は…)
「四天王、レオンハルトが討ち取られた」
「何ですと!?」
「奴の部隊も壊滅状態となっている」
「そんなバカな!!」
「「…………」」
大げさに驚いているのはルートルードのみ。ヘルザードとアルラウネも、魔王の雰囲気でそこまで考えられたのだろう。
しかし、二人は信じられないといった気配を浮かべている。
それはレオンハルトの部隊の力を知っているからだ。
四天王の中で最も戦闘に秀でた部隊であり、その部隊が壊滅まで追い込まれたことが信じられないのだろう。
「敵はたった一人でレオンハルトを含め、部隊を壊滅させたらしい」
勿論部隊が壊滅したと言っても、全滅した訳ではない。生き残った者達もいるのだ。魔王はその者達からの報告を受け、すぐに四天王を招集した。
生き残りもごく僅かしか残っていないという。
「まさか…勇者かの?」
ヘルザードが魔王へと問う。一人で四天王含め、部隊を壊滅させることができるほどの人物。まず初めに浮かんだのは、勇者の存在。
「そう思って調べさせたが、あまり分からなかった」
魔王も真っ先にその思考へと行きつき、部下に調べさせたようだ。だが結局、足取りを掴むことはできなかったらしい。そもそも、四天王すら倒してしまう存在。調べている魔族はレオンハルトよりも強いはずもなく、深入りすれば確実に殺される。そのため、大々的に調べることができなかったのだ。
「討伐軍が組織されたと聞いたから、そちらも調べさせた」
次に魔王が調べさせたのは、南方で組織されたという討伐軍。
「だが、こちらでも四天王を倒したという情報は出ていなかった」
討伐軍が知らないということはレオンハルトを倒した存在、クロムは彼等と接触していないということでもある。
「勇者は人類の希望となる存在。ならば討伐軍と動くか、少なくとも倒したという情報は伝えると思うのだが……」
魔王はレオンハルトを倒した存在が、いまいち分かっていない様子だった。
「勇者の可能性が高いが、行動が合っていないか…。この情報だけでは、全く分からんのう…」
ヘルザードも考えることを止めた。どうやら諦めたようだ。
「攻勢に出始めたところ悪いが、情報を得られるまで其方らには防衛に徹してほしい」
当然の話だった。魔王軍の中でレオンハルトの部隊が最強だったのだ。その部隊が敗れる存在に、他の部隊が勝てるとは思えない。
このまま攻めていては、四天王が一人ずつ討ち取られるだけ。
それならば守りを固め、時間稼ぎをしつつ相手の情報を集めた方が良いだろう。特に相手が一人というならば、居所さえ把握できていればそれほど脅威にはならない。
「そしてユウトよ」
「はい」
(ようやく来たか…)
悠斗は四天王と一緒に呼ばれたが、今までの話だけならば彼を呼ぶ必要はない。つまり、これから彼には別の話があるのだ。
「其方には、レオンハルトを倒した者の情報を集めてきてもらう」
「「「!?」」」
四天王が防衛に回されたのに、悠斗を向かわせる魔王の言葉に四天王三人が驚愕の表情を浮かべる。
「危険だろうが、人間である其方なら我々よりも情報を得やすいだろう」
「精一杯努めさせていただきます」
(俺ならば、他の街に入って堂々と情報を集めることができる。リスクはあるが、最悪討伐隊に潜入することも可能だろう。魔王軍の者と勘付かれなければ、危険もそれほどないだろう)
人間だからこそできること。魔王の言葉を受けた悠斗は、自分が動くのは当然だと考えていた。




