表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/42

第三十話 海賊退治


 悠斗の目の前には、胸を短剣で貫かれたシアいる。


(何処から現れた!? シアが刺されるまで、全く気付かなかった!!)


 彼は一人、内心で焦っていた。確かに気は緩んでいたが、彼等は決して全く周囲を警戒していなかった訳ではない。それなのに影人シャドウの存在に気付けなかった。それも背中から刺される程近付かれてもだ。

 だがそれもシアが反撃し、彼の腕を斬り飛ばすまでのことだった。


(勝てない相手ではないか…。海賊の者か?)


 目の前で仲間が、背中から胸を貫かれる。影人も悠斗の動きが一瞬止まると思っていた。実際に彼は思考が停止していたし、その隙に影人はその場から逃げようとしていたのだ。

 シアがスライムでなければ……暗殺対象が悠斗であれば、彼の暗殺は今回も無事に達成できていただろう。プロの暗殺者である彼も、胸を貫いた相手から反撃が来るとは予想できなかった。そしてその一瞬の隙が、彼に大きなダメージを負わすこととなった。


(ここまで近付けた理由が何かあるはずだ。鑑定…!?)


 悠斗が影人を鑑定し、彼のステータスを確認する。そして彼の能力、影に潜む者の存在に気付いた。


「さっさとやるぞ!!」


 それだけ言って、影人へと接近する。シアもその声を聞き、すでに駆け出していた。鑑定を使ってすぐの行動。悠斗は再び能力を使われ、逃げたり襲われたりすることを恐れた。それほど危険な能力だと感じたのだ。


「流石に逃げることは無理か…」


 影人は覚悟を決めた表情を浮かべ、悠斗の方へと駆けて行く。彼の能力は、自身を認識されている状態では使うことができない。そのため、逃げることは困難だと考えたのだ。


「暗殺者を舐めるなよ」

「俺だって、自分の身くらいは守れる!」


 懐から取り出したナイフで首元を狙う影人。だがその攻撃は、寸でのところで回避されてしまう。


「くっ!?」


 さらに悠斗は剣の柄でナイフを持つ影人の手を打つ。影人はその衝撃で、左手からナイフをこぼしてしまう。


「終わりだ!!」

「舐めるなと言っただろう?」


 悠斗の追撃。能力を使わせないためにさっさと始末しよと考えた彼の一撃は、しっかりと影人の首筋を狙っていた。しかし、だからこそ読み易い。

 暗殺者という職業柄、自身を殺そうとする一撃は何処を狙ってくるかが読める。迫って来る刃を回避した彼は、そのまま地面に落ちたナイフへと手を伸ばす。


「私を忘れてもらっては困る」

「しまっ…」


 咄嗟に回避行動に移ろうとするが、すでに遅い。影人の体に、シアの剣が突き刺さる。


「がはっ!」

「今度こそ終わりだな」


 血を吐き、崩れ落ちる影人を見て勝利を確信する悠斗。


(奴は暗殺者と言っていたな。周囲を嗅ぎ回る俺達が邪魔で、海賊達が依頼したのか?)


 影人は暗殺者ということ以外、自身の情報を何も残さなかった。

 悠斗は彼を拘束し、情報を吐かせることを一度は考えたが、能力を見て危険だと悟った。そのため、情報を得られなくてもこうするしかなかったのだ。


(まあ、暗殺者ならば口を割らない可能性はあったがな。どの道、海賊退治を急がないといけないな)


 本当はレジトワ国の戦場での兵士の生き残りが依頼したのだが、それを知ることができなかった彼等。海賊達は知らぬ間に、悠斗達からさらに危険視されることとなったのだった。






 そして暗殺未遂が起きた三日後。


「それでは頼みます」

「任せてくれ」


 海の上を漂う漁船に、護衛の冒険者として悠斗とシアは乗っていた。ヒュリンはここにはいない。結局彼は、船酔いを克服することができなかったのだ。

 暗殺未遂の件で、海賊退治が急がれたというのもあるが…。

 漁船はいつも通りのルートを通り、いつも通りの漁を行う。海賊が現れるまでは、悠斗達は何もやることがない。そもそも必ず海賊達が現れるという訳でもないのだ。


「現れませんね」

「そうだな」


 漁は町から離れて行われるが、地球の船のように高性能ではない。なので、せいぜい数日で町へと戻れる距離までしか進まない。


「そろそろ帰ります」


 漁師がそう言い、船を町へと旋回させる。まだ町まで、一日もあれば戻れる距離しか進んでいない。しかし海賊が現れるようになって以降、これが普通となっている。

 漁師達からしても、できるだけ海賊に遭いたくはないのだ。だが近場だけでは、獲れる量に限界があった。その結果がこのルート。

 そして今回も、海賊達に怪しまれないよう同様のルートで町へと帰る。


「シア、気を抜くなよ」

「はい!」


 悠斗の声に、完全に暇を持て余していたシアが気を引き締め直す。


(海賊にとって、一番狙いがいがあるのは町へと戻る漁船だ。町から出たばかりの船を襲っても、精々船に積んだ物資しかない。漁を終えて戻るところを襲う方が成果が出る)


 悠斗の考えは、見事に当たっていた。


「海賊だ!!」


 漁師の声に反応し、そちらを見る悠斗。


「どうなっている……?」


 そして彼が目にしたのは、海を走るようにして漁船へと近付く一隻の船だった。

 漁船と比べて海賊の船は小舟だから、速度も速く小回りが利いて追いつかれる。そう悠斗は思っていたのだが、実際は全く異なっていた。


(小舟だからで済ませられる問題ではない。あの動きはどう見てもモーターボートだぞ。この世界にエンジンはないはずだぞ!!)


「速い!!」


 シアも悠斗程ではないが、その速さに驚いていた。


「あれは?」


 近付くにつれ、どのようにして船が動いているかが分かった。

 海賊の船は、海流に乗って近付いて来ているのだ。


「シア、能力者がいる」

「そのようですね」


 明らかに海賊の船を、漁船へと導くようにできた海流。海賊達は海水を操り、海流に乗せて船を運んでいたのだ。


(魔物の問題も、海流を作って逃げれば問題はないか…)


 海賊の船は、かなりしっかりと補強されている。初めから能力だよりで動く船なので、船としてではなく筏のように海に浮いていればいいのだ。

 そして海流に乗って速度が出ても壊れないよう、かなり頑丈に作られている。魔物の攻撃でもすぐには沈まないし、そのまま逃げることも可能だった。


「乗り込まれます!! 頼みますよ!」


 漁師の悲痛な声。彼が殺されることはないが、それでも獲ってきた成果と積んだ物資奪われるのだ。必死になるのは当然のことだった。


「今回の護衛は二人だけか」

「そろそろ諦めてるんじゃないですか?」

「そうだぜボス。何隻襲って来たと思ってんだ?」

「まあそうだな。ガハハハッ!!」


 ボスを含め、海賊は全部で五人。本来ならば、護衛として冒険者が数人いれば返り討ちにできる人数である。

 だがそれができていないのは、やはり海賊達が海の上での戦闘に慣れているからだろう。そして、能力者の存在。


「くっ! 足場が全く安定しない」

「どうした?」

「その程度か?」


 海賊二人に、悠斗達は防戦一方だった。

 ボスは指示を出すだけで高みの見物。そして残りの一人は能力を使っていた。


(今まで冒険者が勝てなかった理由はこれか!)


 悠斗達の船は、大きく揺れていた。勿論これは、海賊の一人が能力で波を作っているからだ。

 これだけの揺れでも戦えるように、しっかりと訓練したのだろう。海賊達は大きな揺れを気にすることなく、悠斗達を追い詰めていく。


「俺達を討伐することなんて、無理なことなんだよ」

「そうだぜ。諦めて死にな」


 悠斗達は何とか防衛に徹して切り抜けている状態。声を発する余裕さえないようだ。

 このままではスライムであるシアは兎も角、悠斗は殺されてしまうのも時間の問題だった。


「ぐあっ!?」

「ボス!?」


 悠斗達を追い詰める海賊達の背後で、そのような声が上がる。


「遅いぞ」

「波が邪魔で、なかなか近付けなくてな」


 そこにいたのは第四部隊の隊長、リザードマンのベルニドだった。彼の握る槍が、海賊のボスの胸を貫いている。


「そこの男を頼む」

「心得た!!」

「がはっ!!!」


 指示を受けたベルニドの行動は速かった。

 突然ボスを殺されて放心していた能力者の男へ、ボスの胸から引き抜いた槍を突き刺す。


「こちらも終わりです」


 ベルニドが男を突き刺している間に、シアは二人の海賊を切り伏せていた。ベルニドが現れた時点で能力が切れて波が治まっていたため、海賊二人では彼女の相手にならなかったのだ。


「海賊の船には、他に誰もいなかったか?」

「いなかったぞ。恐らくこれで全員だ」


 ベルニドに確認を取り、海賊の討伐を終えたことを確信する悠斗。


(たとえ生き残っていたとしても、能力者は始末した。これ以上好き勝手にはできないだろう)


 海賊問題は、こうして幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ