第二十七話 港町ソウェル
悠斗はヒントをもらった後、フィロキアを発っていた。
一度レジトワ国の北部で一番大きな港町、ソウェルの現在の様子を確認するためだ。ヘルザードや第一部隊、そして第五部隊もまた、王都を陥落させるとフィロキアまで戻って来ていた。
一度統治のためにヘルザードが第一部隊を連れて向かったが、その後はすぐに退き返してしまったのだ。
それと入れ替わるように第四部隊が派遣されたので、現状悠斗はレジトワ国の北部の様子を把握できていない。
一応第四部隊をレベル上げに行かせる前に、先に第五部隊の何人かを派遣している。だが港町はレジトワ国の最北、往復で何日もかかってしまう。
いずれは向かった者達より報告が来るだろうが、やはり自分の目で確認するのが一番なのだ。
「私も連れて行ってもらえるとは…感謝いたします」
悠斗の隣を歩くシアが彼に礼を言う。何度目かになる礼だった。
彼がソウェルへと向かうにあたり、誰がついて行くかでかなり揉めた。彼の護衛だ。第五部隊の隊長を、一人で向かわせる訳にはいかないからである。
彼はそこらの兵士よりも強い。それは確かであるが、今は戦争を終えたばかり。兵士崩れの盗賊等が多いのが現状だ。
そして、彼等は悠斗を知っているかもしれない。その場合、間違いなく彼は命を狙われるだろう。いくら彼が強いと言っても、兵士数人を一度に相手にするのは分が悪い。
何より、四天王ヘルザードの第五部隊の隊長として、部下も連れずに一人で歩くのは体裁に関わるとシャクナに言われてしまったのだ。
そこで彼が選んだのが、スライムのシアである。
「まさか、いつの間にかスライム全員が人間の姿になれるようになっているとは…」
「フィロキアでの作戦、その活躍を聞き、皆一生懸命に頑張っていましたから」
スライムは下級種族の雑魚。そう思われていたが、悠斗のレベル上げとシャクナの特訓によって戦えるようになった。
しかし、それは他の者達も同様。皆が一様に成長したため、今まで以上に強くなったとしても、差が縮まることはなかった。
そこに来て、フィロキアの作戦である。
同族のシアが活躍した。それも、スライムである彼女にしかできない方法で。
さらにその上、レジトワ国との戦争の際にも活躍した。シアは敵兵に擬態し、仲間同士で争わせることに成功したのだ。それをスライム達は、今度は目の前で見せ付けられた。
他のスライム達は同族が活躍して嬉しい反面、自分達が人間に擬態できないことを悔しがっていた。そして影で特訓を続けていたのだ。人間の姿に擬態できるように。次こそ自分達が活躍できるようにと。
「そうか。それは申し訳ないことをしたな」
それらをシアの口から聞き、申し訳なさそうな表情を浮かべる悠斗。
(色々な者達が俺について来ようとした中、特にスライム達の勢いが強かったのはそれが原因だったのか…)
彼はスライム達のやる気が特に高いことに気付いていた。
だが、一度一緒にフィロキアへと向かったことのあるシアをつい選んでしまったのだ。
「私に謝る必要はありませんよ。他のスライム達には申し訳ありませんが、私はこの名誉を誰にも譲るつもりはありませんから」
「名誉って…」
ただ連れて行くだけだ、と彼は苦笑を浮かべるが、シアの表情は真剣そのものである。
やはり今まで活躍の機会が少なかった下級種族だからこそ、こうして役に立てる、実績を残せることが嬉しいのだ。
「それに何より、人間の街は興味深いですから」
そう言って少し表情が柔らかくなる彼女。
(特に今回は港町。海や船等、見たこともない物が多い。さらに海産物も豊富だ。余計に楽しみなんだろう)
悠斗は気付いていたが、それを指摘するほど意地の悪い人間ではなかった。
少人数での旅。一人旅や二人旅は盗賊達に狙われやすいものだ。しかし今回は無事に何事もなく、悠斗達はソウェルまで辿り着くことができた。
「これが海ですか! 独特の臭いがしますね!」
眼前に広がる町よりも、さらにその奥にある海を見て騒ぐシア。
(いつもは堅い印象のあるシアが、これほど感情を表に出して騒ぐのは珍しいな)
悠斗はそんな彼女を横目で見ながら、町の様子を確認していた。
(取り敢えず荒れた様子はない。派遣した者が上手く治めてくれているのか、元々何も問題がなかったのかは分からないが)
町の外から見た限りでは、何も問題は起きていない様子。
「そろそろ行くか」
「はい」
シアの興奮が治まるのを待ってから、彼は町の中へと歩みを進めていく。
(確かここに派遣したのはヒュリンだったか…)
ヒュリンは中級種族であり、第五部隊の中でも特に戦闘に長けている。町を統治するようなことは向いていないが、荒事等を治めるのは向いていた。
悠斗が第五部隊の中でも重要人物であるヒュリンを向かわせたのは、この町をそれだけ重要視しているからだ。
他大陸との貿易ができる港町。その中でもソウェルは特に大きな町である。当然人の流れも活発であり、他国の情報を仕入れることも可能。
「魔王軍が活発に動き出した?」
「ああ。さっき来た商人が言うには、防戦一方だった魔王軍が侵攻を開始したらしい」
悠斗が漁港で獲れた魚を売っていた漁師から話を聞く。
「西に?」
「ああ。今まで南部を抑えていた魔王軍が、南下しつつ西に流れて行っているらしい」
彼は干した魚を売っていた店の店主から話を聞く。
「南方で魔王討伐部隊を?」
「そうだ。どうやら、本格的に魔王の討伐へ向けて準備を進めているようだ」
さらに彼は、宿の店主が旅人から聞いたという話を聞く。
「まさか討伐隊の準備を進めているとは…」
「はい。注意する必要がありますね。しかし、まさかこれほど情報を集めることができるとは……」
「魔王軍が敵と認識されている以上、同族である人間は味方。味方同士なら、口が軽くなるというものだ」
悠斗達は自分達が魔王軍の者であると明かすことなく、町で様々な情報を集めていた。
殆どの内容は魔王軍の動向で、すでに知っているものばかり。だが、その中に魔王討伐隊の組織というものが含まれていた。
港町は何も、他大陸との交流だけの場所ではない。大きな港町ということはそれだけ商業も発達しており、良い品物を得るために人が集まる。
そして同じ大陸同士でも、他国の港町からの貿易船だってやって来るのだ。
もう一つ言えば、他大陸へと向かいたい旅人もやって来る。それら全ての者達が、このソウェルへと情報を落としていってくれる。
「そろそろヒュリンの下へと向かうか」
「そうですね。もうこれ以上有益な情報は得られないようですし」
その後も情報収集を続けたが、やはり入って来るのは魔王軍の動向に注目したものばかり。
彼等にとって、有益な情報はなかった。
「ヒュリン。この町の状況はどうだ?」
「問題ない…普段通り」
ヒュリンの滞在する家に向かった悠斗は、まず町の状況を聞いた。彼が見て回った限りでは問題はなかったが、この町の日常を知らない彼では、普段との些細な違いに気付くことができないからだ。
それに対して、ヒュリンは問題ないと答える。
その答えを聞いて、悠斗は満足気な表情を浮かべるのだった。




