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第二十六話 相談


 勝負を終え、ヘルザード達はレジトワ国の新たな王都であるフィロキアへと戻って来ていた。

 フィロキアやその周辺を治めていた第三部隊は、現在は東へと進軍し始めていた。

 ある程度治安が回復したので、他の部隊と合流するためである。第一部隊やヘルザード達も、そちらへと合流する予定である。

 東側は一度、かなり激しい戦争をしていた。レジトワ国が魔王領へと進軍するために、東へ魔王軍の戦力を集めるためだ。実際、レジトワ国の相手をしていた第三部隊と最弱の第五部隊以外、全て東へと出向いていたのである。

 四天王のヘルザードも参戦する規模の戦争。当然人間側にもかなりの被害が出た。

 今でも小競り合いは続いているが、かなり小規模なものになっている。まだ互いに回復できておらず、戦争の爪痕が残っているからだ。

 回復できていないうちに攻勢に出て、一気に進軍する。それがヘルザードの考えだった。

 小競り合いでお互いの傷が回復しきっていないことは分かっている。人間側も大きな侵攻はないと油断し、回復に力を注いでいる。そのため、突然の侵攻にはすぐに対処できない。

 第三部隊の大半はエルフ。そしてエルフは回復魔法を使える。先に第三部隊が東へと向かったのは、ヘルザード達が到着する前に、東側に展開している部隊を整える目的もあった。

 そして代わりに東からレジトワ国から向かっている部隊が一つ。

 第四部隊だ。

 第四部隊は支援を最も得意とする部隊で、今までは東側の部隊を彼等が支えていた。だが、戦闘をあまり得意としない第四部隊。

 それに比べ、魔法で支援も戦闘も得意な第三部隊。役割が被る以上、第四部隊が後方に下げられるのは無理のない話であった。

 今求められているのは、迅速に進行するための戦闘力なのだ。


「来たか」

「はっ!」


 ヘルザードの前で姿勢を正す男性。

 緑の大きな尻尾を先端までしっかりと伸ばしているのを見て、彼の性格が窺えるというものだ。

 彼はリザードマンで、第四部隊の隊長であった。名前はベルニド。その隣には副隊長の女性。名前はヒルビーという。こちらも大柄ながら、背中には小さな羽が生えている。種族はテールバードという。鳥のような見た目ながら、細長い尻尾が生えているのが特徴だ。

 そして何より、テールバードの羽は飾りである。体の大きさに対して羽が小さく、精々落下速度を落とす程度しかできない。その代わり、足にはかなりしっかりとした筋肉が付いている。

 地球で言う駝鳥のような鳥である。


「第四部隊には、これからレジトワ国の発展を行ってもらいたいのじゃ」

「発展ですか…」


 ヘルザードの意図をイマイチ理解できていない様子のベルニド。


「そうじゃ。レジトワ国の北方には海岸が広がっておる。そして、港町もあるそうじゃ」

「なるほど」


 まだ分かっていないベルニドの隣で、先に頷くヒルビー。


「つまり物資の確保のために、商業を発展させていくという訳ですね」

「簡単に言えばそうじゃな」


 ヒルビーの問いに答えるヘルザード。そしてそんな彼女達の会話を聞き、ようやく意図を理解するベルニド。


(本当は第四部隊をレジトワ国に残す理由が他にもあるのじゃが…。その辺りはユウトに任せるとしようかの)


 実は悠斗とヘルザードは第四部隊のことも話し合っていた。そして、彼女は彼に第四部隊の育成を任せていたのだ。

 戦闘が苦手で支援が得意な第四部隊とはいえ、そこにいるのはリザードマン等の中級種族。下級種族も勿論いるが、第五部隊のように大半が下級種族という訳ではない。

 そしてその通りに、前線での支援が務まるくらいには第五部隊よりも強かったのだ。

 それが今は第五部隊の方が強いと言える。それも悠斗が来てからだ。

 なのでヘルザードは、第四部隊の育成を彼に任せた。

 第四部隊がレジトワ国の発展に役立つのも勿論理由の一つではあるが。


「必ず発展させてみせます!」


 ベルニドの言葉を受け、満足そうに頷くヘルザード。


「後のことは第五部隊の隊長であるユウトに一任してある。この者から指示を受けるがよい」

「?? はっ!!」


 一瞬何故という表情を浮かべたベルニドだが、すぐに気持ちを切り替えて快く返事をした。彼等第四部隊は、すでにレジトワ国を落とせたのは第五部隊のおかげだと伝えられている。そして、先日行われた第五部隊の隊長同士の戦闘で相手を降したこともだ。

 だからこそ、それ以上ヘルザードに疑問をぶつけるつもりはなかった。

 他の四天王達にはまだまだだが、ヘルザードの部下には第五部隊の力は少しずつ認められつつあったのだ。






「我々はどうすればいい?」


 ヘルザードが東へと向かった後、ベルニドが悠斗へとそう尋ねる。

 彼は愚直に指示をこなす男だ。ヘルザードから悠斗の指示を仰げと言われた以上、自分の考えで動くつもりはなかった。


「そうだな…」


 そこで悠斗は一度言葉を切る。彼はヘルザードに任せてもらったが、実際のところどうしていいのか分かっていなかった。


(俺は商人じゃない…どころか、学校にも行かない引き篭もりだったんだ。国の発展なんて荷が重すぎるだろ)


 決してヘルザードの前では…それどころか一人だとしても声にすら出さないが、ヘルザードに対して文句を募らせる。


(第四部隊は確かに発展させるには向いている)


 彼等の部隊は支援を得意とする部隊。特に足が速い者や長時間の飛行が得意な者が多く、伝令や輸送に向いているのだ。

 リザードマンも水の中で行動することに向いており、港で活躍することは間違いない。水の魔法を使え、空気中の水分を集めて水を生み出すことができる。これは、戦場ではかなり役に立つ魔法だ。

 今回の場合、水を生み出す魔法は農業に使える。そして水の中が得意だということは、漁業にも貢献できるということだ。


「…………」


 悠斗が考えている間、ベルニドはジッと悠斗の方を見て指示を待っている。


(やはり俺にはこういったことは向かない。他の者にも相談した方がいいだろう)


 今の悠斗には頼りになる者達がいる。そのため、彼は問題を先送りにすることにした。


「取り敢えず、まずは魔物を狩ってもらう」

「魔物?」

「ああ、強くなるためだ」


 そう言って、レベルというものを説明する。

 第四部隊の者達はあまりレベルという仕組みを理解できていない様子だったが、それでも第五部隊が実際に強くなっているのは知っていた。

 なのでそういうものだろうと、適当に納得していく。


「デリス、ナノ頼めるか?」

「えぇ、任せて頂戴」

「頑張るの!」


 いつもの二人に任せる悠斗。レベルが上がり、強くなれば自分達で魔物を探して狩ればいい。だが、それまではデリスの罠に誘導するのが一番効率が良いのだ。


「発展させなくていいのか?」

「俺は第四部隊の育成も頼まれている。だから、先にこっちを行う」

「了解した」


(実際、頼まれているからな。嘘は言っていない。この間に俺は、皆に相談すればいいだけだ)


 そして彼は第四部隊に指示を出し、自分は頼もしい仲間の下へと向かった。







「何故だ…」


 相談した結果、何も良案は出なかった。それもそうであろう。彼同様、他の者達も街を発展させた経験などあるはずがないのだから。


「困っているようですね」


 悠斗の前に現れたのは、領主代行として選ばれた女性。

 そしてその隣には、老人が一人。


「ビーンの村長…」

「今はただのここの住人じゃよ」


 悠斗がフィロキアへと向かった際に立ち寄った小さな村。その村の村長であった。


(これはもしかすると、もしかするぞ)


「北方の港町を発展させたいのだが…」


 悩みを相談する悠斗。


「それならば…」

「ビーンの者に港町出身の者が…」


 初めは黙って聞いていた領主代行と村長だったが、すぐに意見を交わし始める。

 その中には良案と呼べるものや、ヒントになるものがいくつも含まれていた。


(これならいける!)


 ようやく手応えを感じ始める悠斗だった。

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