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第二十五話 不死者の力


 魔王ルキナの話を聞き終え、部屋を出て行く悠斗達。


「待て」


 部屋を出た後、後方から声がかけられる。声の主はルートルードだ。


「人間、貴様がレジトワ国を陥落させることに至った立役者など、到底信じられん」


 魔王の話を聞いていた時すら、悠斗のことを目の端で睨んでいたルートルード。やはり人間が魔王軍で活躍するというのが、信じられないのだろう。そして、何か企んでいると考えているに違いない。

 ヘルザードは自分の部下である悠斗に対してそのように言ってくるルートルードに、少し苛立った様子。それでも口を出さないのは、彼の言葉がただの挑発だからだ。


(こいつ。いつまで絡んでくるんだ? 俺はさっさと第五部隊のレベル上げを続けないといけないんだけど…)


 面倒臭そうな様子を見せる悠斗に、ルートルードはついに怒声を上げる。


「貴様! ふざけているのか!」


 彼の怒声に反応し、ヘルザードが構える。さらに魔王城に在中している魔王の側近達も、ルートルードの行動を監視し始めた。

 それを見てすぐに不利を悟ったのだろう。彼は慌てて口を閉ざす。

 そして何か思いついたのか、軽く笑みを浮かべた。


「そうだな。貴様が活躍したというのなら、その力を見せてもらおうか」


(こいつは何を勝手なことを言ってるんだ? それを了承する必要もなければ、義務もない。俺が受けると思っているのか?)


「どうした? 怖くて無理か? やはり、所詮は人間。話にならないな」


 程度の低い挑発。


(この程度では、怒りさえ湧いてこないな)


「どうした? 言い返すことすらできないのか?」


 勝ち誇った表情を浮かべるルートルード。

 それに対し、悠斗は涼し気な顔をしていた。その様を見て、ルートルードはさらに苛立ちを募らせることとなる。


「それで? 力を見せるとは、何をするのじゃ?」


 先ほどまで無言を貫いていたヘルザードが、ついに声を上げる。

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ルートルードは捲し立てていく。


「簡単な話だ。その男は第五部隊の隊長なのだろう? なら、こちらの第五部隊の隊長と力比べをさせる。心配するな、命までは取らない。どちらかが降参するか、戦闘不能になった時点で勝敗を決める。どうだ?」


 逃げられないように、早口でそう言い切った。

 さらに彼は、まさか逃げないよな…と再び挑発の言葉を混ぜた。

 ヘルザードが彼の挑発を受け、言葉を発したと思っているようだ。


「第五部隊の隊長同士で一対一の勝負…」


 少し悩む素振りを見せるヘルザード。彼女は悠斗の力を知っている。だが、それが発揮されるのは戦争のような集団戦において。彼の作戦で相手を翻弄するというものだ。

 なので、一対一という言葉を受けて考えているのだ。


「いいですよ。ヘル様、受けましょう」


 一対一と聞いて途端に考え込んだヘルザード。その様子を見て、悠斗は悟った。

 一対一は、悠斗にとって決して戦い易い状況ではない。事前に罠を設置したりできない真正面からの勝負となれば、尚更である。

 だからこそ、ヘルザードは悩んでいるのだと。彼女は本当は、ルートルードの考えを破りたい。悠斗に戦って、そして勝って欲しいのだと。


(そこまで考えてもらっているなら、勝つしかないだろう!!)


 ヘルザードに期待してもらえた。だが自分の力が足りないばかりに、今は彼女を悩ませている。

 彼はそれが許せなかった。

 なので不利な戦いと知りながらも、受けるしかない。受けて、そして勝つしかないのだ。

 負ければただ恥晒しになるだけではない。ヘルザードにも迷惑がかかってしまう。

 そんなこと、悠斗に許容できるはずもなかった。


「明日の夕暮れ、場所は互いの区域に面しているレジトワ国でよいな?」

「ああ、問題ない」

「それではまた。貴様の無様に敗北する様、楽しみにしておるぞ」


 そう言い残してルートルードは去っていく。


「全く、あやつはふざけておるの」


 指定した時間を聞いて、ヘルザードがそう呟く。

 ルートルードの部隊は、彼が自らの力で死体から作り上げた人工の不死者の部隊である。

 そして、不死者は陽が沈んでから力を増す。つまり、夕暮れはすでに不死者にとって万全の力を出せる時間。彼は明らかに自身に有利な状況を作っており、全力で叩き潰すという気持ちが浮き彫りになっている。


「やれるんじゃな?」


 ヘルザードは隣の悠斗に尋ねる。

 彼女は、まさか彼が自分から戦いを受けるとは思っていなかったのだ。圧倒的に不利な状況。普段の彼ならば、避けるはずの戦闘だからだ。


「はい。必ず勝ちます」


 自信満々にヘルザードへそう答える悠斗。今はまだ、良い作戦はは浮かんでいない。だが、それでも彼は負けるつもりはなかった。






 そして翌日の夕暮れ時。

 レジトワ国の王都近く。レジトワ国の本隊と戦闘を行った場所に、ルートルードと彼の率いる第五部隊が姿を現す。


「逃げなかったのは誉めてやろう」


 彼の率いる第五部隊は、やはり不死者で構成されていた。

 そしてその中から、一体の不死者が姿を見せる。


「この者が第五部隊の隊長である」

「グガァァ」


 その者は、大きな虎の姿をしていた。だが、ただの虎ではない。鎧を身に纏い、二足で立っている。そして、その大きな体に見合った大きさの斧を担いでいた。

 しかし、魔族とは様子が違う。どちらかと言えば、魔物に近い。

 ルートルードの部下は、死体から作られた不死者。なので、彼等が言葉を発することもない。脳が死んでおり、知能が一切ないのだ。

 与えられた命令を愚直にこなすだけの存在。それがルートルードの部隊だった。

 知能は一切ないが、数はかなり多い。そして何より、生前の身体能力を有している。いや、脳のリミッターが外れているため、生前以上の身体能力を有していた。

 その圧倒的な力と数、そして死を…痛みを恐れない突撃。それがルートルードの部隊の特徴であり、強みである。


「それじゃあ、始めようか」

「ガアァァ!!」


 悠斗が剣を抜くと、それに合わせて構えを取る虎男。

 彼等の戦いの様子を見守るのは、ルートルード率いる第五部隊。そして、ヘルザード率いる第一部隊と第五部隊。


「グガァァ!!!」


 まず初めに動いたのは、虎男の方だった。


「ぐっ!? やはり重いな」


 戦いが始まる前、悠斗は虎男を鑑定してレベルを見ていた。レベルだけで言えば、レベル上げをした悠斗の方が上。

 だが、それでもなお力の差は歴然だった。

 虎男の剣を受ける度に、後退していく悠斗。自ら後ろに下がることにより、できるだけ威力を殺しているのだ。


(まともに受ければ、簡単に腕が弾かれる。それでは次の攻撃に対処できない。相手はただ愚直に剣を振っているだけなのに、反撃する暇がない)


 冷静に攻撃を防ぎ続ける悠斗。


(もう少しだ)


 悠斗が後退し、逃がさないように追いかける虎男。二人の戦闘を見守る者達もまた、移動していく。


「防戦一方ではないか」


 大したことはないと見たルートルードが、そう声を上げる。

 しかし、それだけだ。

 ヘルザード側からは一切反応はなく、当然自分の率いる部隊の者達が喋るということもない。


「フン!」


 その反応が、どうやら気に食わなかった様子。


「こっちだ!!」


 ヘルザード達が静かに見守る中、ようやく二人の戦闘の動きが変わる。


「グルァ!!」


 後退し続けた結果、彼等はレジトワ国の部隊へシャクナが大規模な攻撃を行った場所まで来ていた。


「これを食らえ!」


 悠斗が落ちていた石を蹴り上げる。

 当然痛みを気にしない不死者である虎男は、気にせず悠斗との間合いを詰めようとした。


「ガッッ!?」


 飛んできた石は問題なかった。しかしこの一帯はシャクナの炎によって、灰燼に帰したと言っても良い状況。

 建物や死体、そして兵士の荷物が灰となった場所だ。

 少しは風で飛ばされたとはいえ、まだその多くは残っている。

 当然足元の石を蹴り飛ばすということは、その周囲の灰も巻き上げる結果となった。

 不死者に痛みはなくとも、視界は塞がれる。


「ガアァァ!!」


 物音が聞こえ、咄嗟にそちらの方へ斧を振り下ろす虎男。その反応速度は凄まじいものであった。


(やはり、知能のない存在。反射的に動いているんだな)


 その場に悠斗はいない。

 虎男が聞いた物音は、彼が先ほど蹴り上げた石が落ちた音だった。


「はぁっ!!」

「ガッ!」


 隙だらけの背後から、全力の一撃。


「何…だと……」


 ルートルードの目の前で、崩れ落ちる虎男。

 痛みはなくとも、ダメージはしっかりと通るのだ。


「見事じゃ」

「ふむ。流石は私の同志。ヘルザード様に恥をかかすような真似はしないか」


 結末を見守っていたヘルザードとデスピアがそう呟く。

 そして…。


「流石は隊長!」

「凄かったの!!」

「お疲れ様です」


 勝利を収めた悠斗の下へ、第五部隊の者達が駆け寄っていったのだった。

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