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第二十一話 罠


「まさか、これほどとは…」


 大盾を失った部隊長は、たった一撃の結果を見て呆れ返っていた。彼は防御に秀でた能力を持っている。だから助かったのだが、自前の大盾は失ってしまった。そして攻撃に関しては、一般兵よりも腕が立つくらいである。

 勝ち目を見出せずにいた。


「ここからどうするか…」


 そしてシャクナの方も、彼を倒し切れなかったことに少し動揺していた。

 彼女は魔力切れを起こした訳ではないが、先ほどの一撃で殆どの魔力は使い切ってしまった。彼女の目には、彼は自身の全力の一撃を耐えきる男として映っている。

 そして彼女の傍らにいるユヤは、魔力切れでまともに戦える状態ではない。

 彼を倒すことができないと考えていた。


「そろそろ引くぞ!」


 遠くに他の部隊を見た悠斗は、そう皆へと告げる。第五部隊を飲み込もうと、全部隊が押しかけてきているのだ。ここに留まっていては、耐えきること等不可能。


(それに、ここからが本番だからな)


 どうやら撤退するのも、彼等の作戦の一つのようだった。





 一方で第一部隊の面々は、一番槍として敵陣に突っ込んでいく第五部隊の者達を遠くから眺めていた。


「あれが本当に第五部隊かよ…」

「一部隊が壊滅したぞ!」

「あれは奴等が飛び出して来たからだろう」

「今まで全敗だった第五部隊とは、到底思えない…」


 口々に見たままの感想を放つ。誰もが第五部隊の戦いに呆然としていた。


「なっ!? 何だあの攻撃は!」


 それは副隊長のヘクターも同様だった。


(ピクシーが奇襲? いくら隙を突くとはいえ、ピクシーでは兵士達を倒すこと等できないだろう)


 そう考えていたが…。


(嘘だろう!? 次々と兵士が討ち取られていく。さらにゴブリン達も攻撃に加わったか)


 それは彼にとって、有り得ない光景だった。

 下級種族であるピクシーやゴブリン。それらが自分達よりも数が多い敵に対して、圧倒的優勢で戦っているのだ。


「あれは、シャクナ様だ!」

「流石の御力!」


 そう言葉が漏れた時、丁度シャクナが全力の一撃を放ったところだった。


「あれでは魔力がもたないと思うが…」


 皆が凄いとその威力に見惚れる中、隊長であるデスピアだけは冷静にそう評していた。

 実際シャクナの一撃は、周囲の者達を消し飛ばす攻撃。後ろに大勢いる兵士達までは届かない。そのはずだったのだ。


「何だと!?」


 こちらも驚愕の声が上がる。他の第一部隊の者達も、同様に驚愕の表情を浮かべていた。

 爆発が突然、突風によって方向を変えられたのだ。その方向にいるのはレジトワ国の軍。そのまま爆炎が兵士達を飲み込んでいく。


(まさか風の魔法で、爆発の威力を強制的に一方向へと向けるとは…。おかげで威力も範囲もかなり上昇している)


 彼女の目に、背後に控える部隊の者達を飲み込む炎が映る。彼女自身、隊長として数々の戦場に赴いて来た。

 人間は策を弄し、何度も第一部隊を退けていたのだ。その中には、第五部隊のように突拍子もない奇襲を仕掛ける者もいた。

 だがそれでも、魔法の威力や範囲を別の魔法で強引に上昇させるというのは初めて見た。

 人間は魔法の代わりに能力を使えるが、それは個人の力である。それぞれが違う能力を持ち、能力を合わせる等といった攻撃はしないのだ。


「いつまでも呆けている場合ではない! そろそろ準備を進めるのじゃ!」


 第五部隊の戦闘に釘づけとなっていた第一部隊へ、ヘルザードから叱責が飛ぶ。


「武器の準備を! いつでも突撃できる状態にしておけ!!」


 一番早く気持ちを切り替えたデスピアが、第一部隊の者へと指示を出す。第一部隊の者達は、第五部隊の戦況を見ながら、今か今かとその時を待ち構えていた。






「何だ今の爆発は!?」


 第五部隊が戦う場所よりも少し後方。レジトワ国の軍が本陣を敷く場所で、軍隊長を任せられた男はそう叫んでいた。


「報告! 先ほどの爆音は敵の攻撃です! ……そして信じられないことに、防衛線を張っていた三部隊が壊滅しました!!」

「何だと!?」


 驚愕の声を上げる軍隊長。


「このままでは王都に近付かれてしまう! 今すぐ全軍出陣だ!!」


 すぐにそう指示を出し、自分の武器を手に取る。


(まさか、奴等の先陣がこれほどの力を持っているとは…。このまままともに突っ込むのも得策ではない。まずは接敵する前に情報を集めなくては…)


 すでに彼は、先ほど情報を持って来た者を再び戦場に送っている。その情報を得てから、どう戦うかを考えようと決める。

 そもそも彼の作戦は、魔王軍の第一陣を止めることから始まるはずだった。敵の先陣を食い止め、次の動きに合わせて彼等も動くつもりでいたのだ。


(先に送った部隊の中には、防御特化の能力持ちもいたはず…)


 食い止めるため部隊を三つも、それも防御特化の能力を持つ部隊長も送り込んだ。それがまさか、簡単に壊滅させられるとは思っていなかったのである。

 人数も能力持ちも、本陣にはまだまだいる。それこそ先に送り込んだ三部隊の数倍はいるのだ。それを全て動かしたのは、彼にとってそれだけ第五部隊が脅威と思えたからである。


「報告! 我々を見た敵が逃げて行きます!! 数は少数で、敵本隊は近くにいない模様!」


 戦場に近付いた時、再び報告のために兵士が駆けて来た。


(どういうことだ? 命令の伝達ミスで、後方の本隊が遅れているのか? それで取り残された先陣の部隊が、こちらの兵力を見て逃げ出したと?)


 軍隊長は思考を巡らせる。そして実際報告の通り、何故か第一部隊はまだヘルザード達と共に戦場を遠くから眺めているだけだった。


(何かの罠である可能性はあるが、敵は魔物。それほどの知恵はないだろう。本隊との連携が取れていないのも、馬鹿だからと言った方がしっくりくる)


 やはり彼も、魔王軍は所詮魔物の集まりだと侮っていた。力は確かにある。だが、魔王軍の者達は策も練らずにただ突っ込んでくる馬鹿。それが人類の共通の認識だったのだ。


「全力で追撃しろ! 背後を取れる内にできるだけ数を減らせ!!」


 それになにより、脅威と感じた第五部隊が逃げて行くのだ。背後を取って、彼等が優位に戦える。この絶好の機会を逃す訳にはいかない。


「退け! 退け!」


 第五部隊では、悠斗が兵を退かせていた。殿を務めるのはシャクナ達。

 彼女達は敵を寄せ付けないよう、牽制の攻撃を放つのみ。まともに戦おうとはしなかった。彼女達はできるだけダメージを受けずに、この場を離れたいのだ。

 それでほんの少しは進軍を遅らせることはできたが、レジトワ国側も追撃優先の命令が出ている。そのため、牽制を受けながらも進軍を止めることはない。

 第五部隊の殿とレジトワ国の本隊との距離が、どんどん詰まっていく。


「報告! 敵本隊がようやく動いた模様!!」

「そうか! だがもう遅い! 奴等が到着する前に、この部隊を潰すぞ!!」

「「「はっ!!」」」


 一斉に兵士が応え、進軍速度を上げる。


「これ以上は限界だな。全速力で退くぞ!!」


 シャクナの号令。それを聞いて今まで牽制を放っていた者達が駆けて行く。


「逃げたぞ! 追え!!!」


 ここが好機と見た軍隊長の号令。それに応えるように、我先にとそれぞれの部隊が前進する。


「なっ!?」

「これは何だ!」

「おい! 突然止まるな!!」


 その時、突然前を走っていた者達が足を止める。いや、足を止められた。


「何をしている!!」


 その様子を見た軍隊長が怒声を上げるが、前方では次々と足を止める者が続出する。

 彼等は突然足を止められたことにより、雪崩のように後ろにいた者達が衝突する。前にいた何人もが下敷きとなったが、人数差という優位を活かすため、足並みを揃えるべく馬を使わなかったことが幸いだった。

 もし馬を使っていたならば、落馬や馬の暴走などもっと酷い被害になっていただろう。


「これは…?」


 そして詰まった場所へ到着した軍隊長が気付く。彼等の足元に、粘着質の何かがあることを。そしてそれが、彼等の足を止めていたことを。


「これは、剣で斬るのも時間が掛かりそうです」


 近くにいた兵士が試し切りをしたが、上手くその物資を斬ることができなかったのだ。


「火を持ってこい! 火の能力者も手伝え!!」


 軍隊長だけあって、彼はすぐにその物質の正体に気付いた。これは獲物を捕らえるために出す、アラクネの特殊な糸だということに。

 よく見れば、その糸がそこら中に張り巡らされている。


「クソッ!! やられた!!!」


 軍隊長が怒りに任せてそう叫ぶ。糸を外している間に、第五部隊には逃げ切られるだろう。

 そしてさらに罠に掛かり、身動きが取れないレジトワ国の軍へと、ヘルザード率いる第一部隊が着々と近付きつつあった。

本日より投稿を再開したいと思います。

次回からこちらの作品は、落ち着くまでは毎週火曜日の24時に一話投稿といった形にしていきます。


よろしくお願いします。

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