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第二十話 シャクナの力と能力持ちの力


 レジトワ国の軍がゴブリン達の突撃を食い止めるために、槍で牽制している。


「やはり所詮はゴブリン。この程度か!」

「このまま押し返せるんじゃないか?」


 ゴブリン達は目の前に突き出される多数の槍先を前に、攻めあぐねていた。


「相手には中級種だっている。油断はするな!」

「さっきやられた部隊を見ただろう!」


 ここの部隊の部隊長がそう叱咤し、他の兵士がそれに続く。その言葉を受けた者達は、表情を引き締め直した。

 彼等も決して死にたい訳ではない。自分達よりも経験がある兵士がそう言うのだから、警戒するべきなのだろうと考え直していた。

 悠斗達の作戦は第五部隊が一番槍を務めることで、油断を誘うという作戦だった。そして相手の守りを一気に崩す。そこから第一部隊が突撃する予定だったのだが…。


(やはり、先ほどの戦闘を見た影響で油断はしてくれないか…)


 シャクナは相手の様子を見て、そう分析していた。このまま真正面から攻めても、油断していない相手を突破すること等できない。


(少し早いが、仕方がないか。まさか本当に失敗するとは…。失敗した場合でも取れる次作をユウトが用意した時は、どうしてわざわざそのような作戦を考えるのかと思ったが。予期せぬ出来事は起こり得るのだな)


 彼女の表情には、一切諦めの色は見えない。悠斗が考えたこの後の作戦は、実は油断を誘う作戦が失敗しても問題ないものだったのだ。

 彼がその作戦を伝えた際、シャクナはユヤの考えた油断を誘う作戦は絶対に失敗しないと言った。実際に彼等は一部隊が壊滅させられるところを見ていなければ、油断していただろう。だがどのような完璧な作戦を練ろうと、アクシデントは起きるものだ。

 悠斗は失敗した時と成功した時の、二種類の次作を考えようとしていた。しかし、失敗してもすることが変わらない作戦の方が、指揮をする面においては効率的だと考えた。


「次の作戦に移る」

「展開!!」


 シャクナが指示を出すと、ジョンがゴブリン部隊に号令を掛ける。

 彼の言葉を受け、ゴブリン達は一斉に展開し始める。


「な、何だ?」


 部隊長は突然展開したゴブリン達を見て、戸惑っていた。すでに踏み込めば槍先が届く位置まで、ゴブリンは来ている。

 密集して一点突破を狙っていた様子だったので、彼もそこへ兵士を集めていた。それでも、人数が違い過ぎる。

 展開したゴブリン達は、結局他の兵士に牽制されて進めていない。これでは、ただ戦力を分散しただけだ。部隊長が戸惑うのも、無理のないことだった。


「突撃!」

「何!?」


 シャクナの号令。

 戦場に響き渡った彼女の言葉は、一見すると攻めあぐねたゴブリンに無理な突貫をさせようというものだ。

 だが、実際は違った。

 彼女の号令を受けて動いたのは、奇襲部隊の者達だった。


「どんどん倒すの!!」


 ただし、いつもの奇襲部隊ではない。この時のために作り替えられた、新たな奇襲部隊だった。

 空襲が得意なシャドウクロウや地面を四足で駆けるネズミ顔の鼠人といった、元々のメンバーもいる。だが、シャドウクロウが飛び出したことでできた隙を狙い、先頭に飛び出した存在。ピクシー達がいた。

 ナノ以外のピクシーは、そこまで高レベルではない。なので正面からまともに戦うといったことはできないが、それでもレベルを上げたおかげで攻撃力は増した。

 ピクシーの飛翔スピードを活かし、不意を突いてその僅かな攻撃力で兵士を倒していく。


「な! 何だ!?」

「どうした!?」


 次々に近くの者が倒れて行くが、彼等には原因が分からない。シャドウクロウ達が奇襲を掛けたことで、意識はそちらに持っていかれた。さらに乱戦状態となっている中、体の小さなピクシーがかなりの速さで飛翔しているのだ。


「気を付けろ! 何かがいるぞ!」


 それに気付く頃には、かなりの数が倒されていた。


「クソ! 邪魔だ!!」

「何をしている!」


 兵士達が討伐に動こうとするが、中々思うようにいっていない。先ほどもいったが、すでに乱戦状態となっている。

 そして彼等はゴブリン達の突撃を止めるため、槍を手にしているのだ。槍は本来、中距離用の武器。さらに周りにいるのは、殆どが武器を手にしたことがない素人。

 そのような状況で、思うように槍が振るえるはずがなかったのだ。


「左右は順調そうだな。こちらも動くぞ」

「はい」


 シャクナの言葉に、ユヤが返事をする。

 彼女達は兵士が一番集まっている場所、つまり元々ゴブリン達が集まっていた中央にいた。

 目の前には百近い数の兵士。


「あいつ、中級種だと思うか?」

「分からん。上級種の可能性もあるか。注意しろよ」


 ただの兵士だけではなく、部隊長が二人。第五部隊を抑えるために、二つの部隊が集まっていたのだ。左右で戦っている兵士も合わせると、二百人近い数はいる。

 さらに第五部隊が攻撃を開始した時点で、敵の本陣からも兵士が進行している。あまり悠長にしていると、あっという間に囲まれてしまうだろう。


「最初から本気で行くぞ」

「ああ!」

「かかってこい!!」


 シャクナの言葉に、部隊長二人が応える。

 一人は片手に剣を、もう片方には大盾を持った男。もう一人は斧を担いだ大男だった。しかし、彼女は部隊長の方を見ていない。元々彼女が放った言葉は、二人へと向けたものではないのだ。


「私も全力でいきます!!」


 彼女へとそう告げるユヤ。そして、魔力を集め始める。それと同時に、シャクナの体から炎が漏れ始めた。


「まさか、サラマンダーか?」

「不味い! 退避! 退避!!」


 大男が呟いた言葉を聞き、何かを悟った大盾の部隊長が必死に叫ぶ。


「もう遅い。紅蓮爆陣」


 シャクナは巨大な炎の玉を、前方へと飛ばす。炎の玉は回転しながら進み、真っ直ぐ部隊長の下へと…いや、その後ろの兵士が密集している場所へと飛んでいく。


「おい! 防げるか!」

「やれるだけはやる!!」


 大男の言葉にそう応えた男は、前に出て炎の玉へと大盾を構える。


「展開!!」


 彼の言葉を受けた大盾が、形を変え始める。彼の体の大きさを超え、その自重で地面に減り込んでいく。


「能力持ちか」


 その様子を見て呟くシャクナ。そして彼女の言葉と同時に、炎の玉は大盾へと直撃する。

 だがしかし、大盾と炎の玉のせめぎ合いにはならなかった。直撃と同時に、炎の玉が爆散したのだ。


「!? 展開!!!」


 それを見て、咄嗟にさらに大盾を大きくする男。そして炎から身を守るため、自身の体を包み込んでいく。


暴風ストーム


 ユヤが魔法を発動し、今まさに爆散した炎の玉へと向かって暴風が吹き荒れる。

 その結果、周囲へと被害を出すはずだった炎は、全てレジトワ国の軍へと向かっていく。


「こっちに来た!」

「なんて威力だ!!」


 風の能力や水の能力を持った者達が食い止めようとするが、焼け石に水といった状況だ。

 元々上級種族である、シャクナの全力の一撃だ。そこへさらにユヤの放った暴風の影響で、その破壊力が全て一方向に向けられた。

 純粋に放った紅蓮爆陣よりも、今の攻撃の方が威力は高まっている。


「凄まじい一撃だな」


 一方向に向けられた自身の放った紅蓮爆陣を見て、シャクナはそう感嘆した様子で言う。


「はぁ……はぁ……」


 だが、ユヤの方は方で息をしていた。彼女は全身の魔力をかき集めて、暴風を放ったのだ。ただ全力を出しただけのシャクナとは違い、力を振り絞っていた。

 元々ユヤはそこまで魔法が得意という訳ではない。そしてそんな彼女がやったことは、シャクナの全力の一撃を反対方向へと押し返す行為だ。周囲へと広がる攻撃だったため、ユヤの方へ帰って来る力は全体の数割。

 それでももし彼女が押し返せなかったら、その数割がユヤ達の近くに残っている第五部隊の者達へと襲い掛かったことだろう。

 炎が収まると、彼女達の視界に飛び込んできたのは黒く炭化した大盾の姿。

 大盾がボロボロと崩れるとその中には、軽度の火傷を負いながら顔を腕で覆って立っている男の姿があった。


「ほう。あれを受けて、生き延びたのか」


 生き延びていたことにシャクナは驚いていた。


「やはり、能力持ちは厄介ですね」


 ユヤもその姿を見て言う。

 だが、彼の後ろには何も残ってはいなかった。爆風に飲まれ、炭となった死体すらこの場から消し飛んだ。

 百人近い兵士、さらに部隊長の一人が今の一撃で吹き飛んだのだった。

私事ですが環境が変わり、最近少し忙しくなってきたため一月ほど投稿を控えようと思います。

以降の投稿ペースに関しましては、その間に考えようと思います。

明日の投稿、


人類最強のスキルマスター、将来のスローライフを叶えるために奮闘する~信頼できる仲間を探して仲間を育てて最強へ~


第六十五話までは投稿します。


よろしくお願いします。

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