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第十八話 悠斗の力


 ヘルザード達の侵攻は、順調すぎるくらい順調に進んでいく。村や町を占領する際に抵抗を受ける場面もあったが、その程度では止まるはずもない。

 第一部隊は第三部隊よりも強力な部隊だ。そして、まだ纏まりきっていない内にその部隊が攻めてきている。そのような状況で取れる選択肢は限られており、当然レジトワ国の王はその選択をした。

 殆どの戦力を王都へと集結させ、王都の防衛に全ての力を注いでいるのだ。その結果、他の村や町の防衛戦力は大きく落ちることとなる。

 さらに男手を奪われてしまった残された住人達は、王都へと避難することすら許されていない。防衛戦となれば、補給を断たれることは想像に難くない。いつ他国の援軍が来てくれるかも分からないのだ。備蓄をできるだけ温存するため、王都へ入ることは禁じられていた。

 俺達がフィロキアを落とす際に、他の村の者として潜入したことを知って、それを恐れているという可能性もあるが…。

 働き手を奪われた者達は、逃げる場所すら失った。この者達からしてみれば、国を守るために自分達の村や町の戦力を奪われたも同然。そこへさらに王都への避難も許されないとあっては、国から見捨てられたと考えてもおかしくはない。

 占領した村や町の者達からの抵抗は弱々しいものであり、大半は抵抗する気も見せずに占領を受け入れる。

 王都を陥落させる際は厳しくなるだろうが、それまでの道のりには大した戦力はいなかったのだった。


「報告です。この先、レジトワ国の軍が展開している模様。数は五千程とのことです」

「うむ。分かった」


 ヘルザードが報告を聞き、この戦いがレジトワ国との最後の戦いになるのだろうと予想していた。相手の数は五千に対して、彼女の軍は彼女の連れている側近も合わせて千人ほど。数だけで見れば五倍の差だが、それを気に留める様子はない。


(果たして、五千の内何人が純粋な兵士なのだろうな)


 悠斗も報告を聞き、そう考えていた。

 五千と言っても、そこには農民等もかなりの数が含まれる。対してヘルザードが率いる第一部隊は、全員が経験豊富で力もある者達。

 一人一人の能力の差はかなりのものだ。

 中には第一部隊の者よりも強い兵士がいるかもしれない。しかし、レジトワ国は小国。それも魔王軍から国を守るため、南の砦にかなりの戦力を割いていた。

 フィロキアは二大都市の内の一つに過ぎないが、砦のおかげで少数精鋭でも守ることが可能な場所だったのだ。

 今回は討って出るために人数を集めていたが、南に元々いた兵士達は国の中でも優秀な者達ばかり。北側に強力な兵士が残っていたとしても、国王を守るための数人。


(こちらが数を削られる前に、どれだけ相手を削れるかが問題だな。どう攻めるべきか…)


 悠斗は頭を回転させ、作戦を練っていく。


(相手はすでに、軍を開けた場所に展開している。こちらが攻める以上、数の差を埋めるために狭い場所で戦うといった選択肢は取れない。かといって、奇襲も難しいだろう。相手はしっかりと警戒しているだろうからな)


 第一部隊は正面からぶつかり合うことは間違いない。第一部隊がこの軍の最大戦力だからだ。ここが突破されてしまえば、軍自体が総崩れとなるだろう。

 悠斗は第五部隊を率いてどう動けば効率よく相手を削れるか、そればかりを考えていた。そしてそれが悠斗の限界。彼は戦争の経験もなければ、部隊を率いた経験もない。第五部隊をどう動かすのかということばかりを考えてしまい、軍としてどう機能するのかという考えには至れなかった。


「ユウト様。少しお時間を頂いても、よろしいでしょうか?」

「え? ああ、大丈夫だ」


 考え込む悠斗へ話しかけて来たのは、ユヤだった。


「今回は私達第五部隊が一番槍を務めるというのどうですか?」

「一番槍を?」


 彼女の提案は彼にとって、一切思いつかないものだった。一番槍というのは、文字通り最初に突撃する者達のことである。

 第一部隊が真正面から敵と対峙するため、彼は一番槍は当然第一部隊だと考えていたのだ。彼女はさらに、自分の意見を述べていく。


「私達の一番の強みは特殊性です。ゴブリンが突撃して来れば、相手は油断するでしょう。ですが、乱戦となってしまえばあまり効果はありません。私達が一番槍を務めることで、相手の出鼻を挫くことができます」

「…なるほど」


(かなりいい考えだ。確かに俺達の部隊の力は異常だ。決して部隊としてとんでもなく強いという訳ではないが、ゴブリンでも第一部隊の者に劣らない実力を持っている。初見でそのようなことに気付ける者はいないか…)


 しっかりとレベルを上げた第五部隊の者達は、第一部隊のヴァンパイア達ともいい勝負ができるほどの実力になっている。

 この世界の常識から考えて、下級種族ばかりで構成された第五部隊の見た目で強いとは判断できない。そしてそれは相手に油断を生ませる、または何か他の作戦があるのかと別の場所を警戒させることができる。

 最弱種族のゴブリンがレベルをしっかりと上げた結果、上級種族で経験豊富な第一部隊のヴァンパイアと同じくらいの強さを持った。レベルの存在を知らないこの世界の者達にとって、これは今までになかったことだ。

 逆に言えば、レベル上げをまともにしていないヴァンパイアでも、レベル上げをしたゴブリンと同じくらい強いと言えるのだが…。

 これは戦争の経験を積み、戦場で経験値を得ている第一部隊だからなのだが、それでもやはりこれが上級種族と下級種族の大きな差であった。


「どうでしょうか?」


 考え込んだまま黙っている悠斗へ、ユヤが不安そうな表情で尋ねる。今までは彼の立てた作戦を聞き、意見を出していた彼女。そんな彼女が、初めて自分で立てた作戦だ。不安になるのも仕方がない。


「ああ、すまん。一番槍を務めるのは、俺も賛成だ」

「そうですか!!」


 いつも冷静沈着といった様子のユヤが、喜びの感情を露わにしてそう嬉しそうに叫ぶ。


「だが、ただ一番槍を務めるだけというのもな…。その先のことを、これから話し合って決めていこう」

「はい! シャクナ様も呼んで参ります!」


 ユヤはそう言って、彼の部屋を飛び出していった。


(ユヤの作戦は確かに、高確率で刺さるだろう。俺には全く考えつかなかった作戦。だが、それだけでは駄目だ。相手の出鼻を挫いただけで戦争が終わる程、小さな規模ではない)


 ユヤにもそれくらいのことは分かっている。しかし、初めての立案。精一杯考えて出した結果であり、そこから先のことを考える余裕がなかった。それでも悠斗にすら思いつかないことを提案し、採用となったのだ。

 かなり大きな進歩であり、悠斗の影響を受けて彼女が成長したという証でもあった。


「やはり私はまだまだですね。それなのにあんなに…。恥ずかしいです」


 そして部屋を飛び出した彼女も、その先のことを考えていなかったことに気付いた。そして先ほどの抑えきれなかった喜びを悠斗に見られた彼女は、羞恥に悶えることになったのだった。






「なるほどのう…よかろう。デスピアもそれでよいな!」

「はっ!」


 その後、ユヤとシャクナと三人で作戦を話し合った悠斗は、ヘルザードへと考えた作戦を伝えに来ていた。

 その隣には第一部隊の隊長であるデスピア。第一部隊にも関係のあることなので、彼女がこの場にいるのは当然である。


(これで俺達第五部隊が一番槍を務めることが決まった。それにその先の動きも、ヘル様から許可をもらうことができた。副隊長のヘクターは反対しそうだが、この場にデスピアしかいないのは助かったな)


 こうして、開幕の一撃は第五部隊が務めることに決まった。


(まさか、ここまでの作戦を考えることができるとはのう…。これだけ知識に差があるならば、魔王軍が人間に後れを取るのも納得じゃな)


 ヘルザードは悠斗の考えた作戦を聞き、感心していた。それは決して、自分では思いつくことができない作戦だと思ったからだ。


(血が美味しいからとユウトを我が軍に入れたが、我が軍だけでなく魔王軍全体が大きく変わる切っ掛けになるやもしれんな)


 魔王軍は今までも人間の真似事をして、人間の知識や知恵を取り入れようとしてきた。しかし悠斗を側で見た彼女は、人間の知識や知恵を取り入れるということがどういうものなのか、初めて少し理解したような気がした。

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