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第十七話 北部への侵攻


 北へ北へと進軍していく、ヘルザードの軍。第一部隊を先頭にヘルザードが続き、その背後を第五部隊が警戒している。

 すでにフィロキアからはかなり離れており、今は敵地の真っ只中。


(相手もそれほど戦力は残っていないはず。散発的に襲ってくることはないと思うが…)


 警戒は怠ってはいないが、それほど奇襲を危惧していない悠斗。第五部隊なら人数差がひどいため、ここまで安心をして進軍することはできない。

 しかしこれだけ人数がいるならば、警戒さえしておけばそれほど奇襲は脅威にはならないと考えていた。彼は人数差をひっくり返すため、奇襲を用いて今まで戦ってきた。だが、それは相手が警戒していない場合の話だ。

 警戒をされていた場合、少人数で攻撃を仕掛けるのは悪手。元々少ない人数を、さらに減らすことになるからだ。それに戦力差が大きい場合、奇襲を成功させるのは難しい。端の数人を相手にしただけで、見つかってしまって奇襲どころではなくなる。

 実際、悠斗も警戒しているであろう部隊には奇襲を仕掛けようとはしなかった。なので、警戒していないであろう援軍の方をシャクナ達に攻めさせたのだから。

 それに魔族は何かと人間にはできない戦い方ができるが、人間の軍にそれはできない。虚を突くという面においても、やはり魔族の方が理に叶っていた。


(それを考えるだけの知能がないのは、少し残念だが…)


 知能が全くない訳ではない。実際、戦闘時彼等は考えて戦う。それに人間の真似をして、それぞれの分野に特化した部隊を作っていた。

 魔物のように、ただ突撃するだけの存在ではない。それでも、彼等は策を練ることはなく真正面から戦う。

 その知能が発揮されるのは戦闘においてのみなのだ。

 魔族は今まで、この戦い方で人間と戦って勝利を収めてきた。魔物のように身体能力が高く、特殊な能力を持った個体もいる。そして人間のように軍として集団で行動することもできる。

 どれだけ人間側が策を練ろうとも、それを力で捻じ伏せることが可能だったのだ。

 普通に真正面から人間と戦って、負ける道理などなかった。神が介入し、人間に魔族と戦えるほどの特殊な能力が与えられるまでは…。

 その一つの出来事で、戦況が大きく変わることになる。力を得た人間達は魔族を退け、さらには能力を持たない他の者達まで強くなり始めた。原因はレベルアップだ。

 彼等は知らず知らずの内に、魔族や魔物を倒したことでレベルが上がって強くなっていた。それも魔族ほど強い力を持たない人間は、レベルアップに必要な経験値は魔族と比べて少ない。得られる経験値も、人間を倒すよりも魔族を倒す方が多い。

 一般兵が魔族と渡り合えるようになったことで、さらに人間側の勢いに拍車がかかる。

 魔物を倒すことがなくレベルを上げない魔族、魔物を倒してレベルを上げる人間。あっという間に力関係はひっくり返り、人間達は領地を取り戻していった。

 魔族の侵攻で人数を大幅に減らしていた人間達だが、すぐに元に戻り始めた。反対に前魔王すら討たれて劣勢になった魔族達は、殆どの領地を手放して最小限の場所を守る他なかった。それも、四天王という魔王軍の最高戦力を用いて。

 戦い方変える必要があるのは、魔族側も分かっているのだろう。なので、人間の真似事をしている。

 それでも策を練るという行為は目に見えるものではなく、知識がなければ理解すらできない。元々力押ししかしてこなかった魔王軍には、そのような知識を持った者が一人もいない。

 人間達が教えてくれる訳もなく、作戦を立てるという行為自体が単に思いつかないのだ。

 そしてそれを破った人間が、この悠斗という男である。まだ作戦を立てるという行為には慣れていないので、彼のように先まで考えるということができてはいない。

 それでも、確実に彼の側で学んでいる者達もいる。

 その代表格がシャクナとユヤだ。彼女達は悠斗が立てた作戦を聞いて、どういった意図で行動するのかを理解しようとしている。

 他の者達は諦めている中、彼女達は彼の知識を少しずつ、だが確実に吸収しているのだ。


「もう少しで村が見えてきます!」


 前方の偵察を行っていた者達から、そのような伝令が入る。


「このまま進む! ある程度大きな街は攻撃して潰す必要があるじゃろう。じゃが、小さな村はそのまま占領する!」


(流石はヘル様。すでに復興のことも視野に入れておられる)


 悠斗がヘルザードの命令を聞いて、感動していた。今までの魔王軍は、村や町の占領等はしてこなかった。どれだけ小規模な場所でも、力任せに攻撃して皆殺しにしてきたのだ。

 実際にその方が人間の管理をする必要もなく、楽だったのは間違いないだろう。だが、潰した村や町は住むことができず、一から作り直す必要が生まれる。

 昔と比べて人数が少ない今の魔王軍には、進軍し続けるだけの力はない。必ずどこかで物資や人員の補給をする必要が出てくるし、そもそも突出すれば周囲の国から囲まれることになる。

 土地を放って進軍を続ければ、その土地を奪い返されて背後を取られることにもなりかねない。

 なので、一度得た土地を固める必要がある。


(流石に行動を自由にさせる訳にはいかないだろうが…)


 武器になり得そうな物を取り上げられ、捕虜という形でヘルザードの部下によって行動を管理されることになるだろう。


(農具等も最低限の物を残して、後は取り上げるべきだろうな。あまり管理に人数を割けない以上、できるだけ反乱分子は取り除く必要がある。それこそ、皆殺しでもいいと思うが…)


 自分達はあまり住人を殺さず、今もフィロキアで自由に暮らさせている。それは今後の土地の運用を考えてだったが、今の悠斗は安全最優先で考えていた。

 理由は至極単純。ヘルザードが前線に出てきているからだ。彼にとって、彼女を少しでも危険に晒す訳にはいかない。

 それこそ捕虜になって無抵抗の住人を、反乱を起こす可能性があるからと、皆殺しにするという考えに行きつくほどに。

 ヘルザードは決して人間との共存を目指している訳ではない。以前の彼女ならば、間違いなく力で屈服させていただろう。彼女が殺しを選ばなかったのは、悠斗の統治した街を僅かにだが見てしまったから。

 彼女は一目見て、驚愕していた。第五部隊の者が人間を手伝っていた光景に、そしてそんな第五部隊の者達に人間が料理を振る舞っていた光景に。

 人間達は自分達の街を復興しようと手を尽くしていた。彼女は前魔王の時代から四天王として仕えている。そのため街を復興する人間も見てきたが、ここまで精力的に働いていたところを見たことがなかった。

 それを見た彼女は、人間は自分達が豊かに暮らすためにこそ、より力を尽くすのだと考えていた。

 以前は魔王軍が占領した土地は、大半が使われずに放置されていた。それがたった数日で、復興し始めている。

 当然その中には武器や防具の作製も含まれていた。悠斗は武器や防具の作製を止めるつもりはなかった。これも彼等にとっては立派な収入源であり、彼等を守る力にもなるからだからだ。

 魔王軍にとっては、人間達に力を与えることになる。ヘルザードと共にその光景を見た彼女の側近達は、あからさまに眉を顰めていた。

 悠斗が魔王軍の統治を受け入れられない者達を逃がしたのも、これが理由だったりする。彼は危険分子を、街に残しておきたくなかったのだ。

 今いる住人は、皆安寧を求めている。そのためならば、同じ人間相手でも武器を取るだろう。つまり、魔王軍が彼等に豊かな暮らしをもたらし続ける限り、反乱を起こすことはないのだ。反乱を起こすということは、折角戻って来た暮らしを自分達の手で捨てることに繋がるのだから。


「伝令です! 無事に先の村を占領完了。武器になりそうな物は取り上げ、今は一軒一軒探し回っているそうです!」


(こちらにいるのはヘル様の部隊の中でも、最も力がある第一部隊。それが第一部隊全員で訪れるのだから、どう考えても小規模な村や町では戦いにすらならない。彼等も抵抗は無意味と悟ったのだろう)


 最初に誰かを攻撃してしまえば、簡単に屈することはなかっただろう。しかし攻撃して来ない、捕虜として扱うと言われてしまえば、助かる可能性にすがってしまうのが人間というものである。

 こうしてヘルザード達は順調に北へと侵攻しながら、次々と村や町を占領していくのであった。

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