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2話




 コウカの理解のおかげで活動停止もなくなり、周囲に迷惑がかかるようなことはなくなった。そして、次第に親睦が深められていったことで、二年生の時にはコウカの交流の輪は1.5倍に広がった。子供たちとの関係性の進展は、コウカの人間性の発展にも繋がる。パーソナリティ・テストの順調な滑り出しに、これからどんな土台が構築されていくのかと、私たちは期待していた。

 三年生になるとクラス替えがあり、馴染みのメンツと多少の面識しかない児童が混在したクラスが形成された。すると、進級から約五ヶ月後の夏休みが明けたある日、クラスに変化が起きていた。


「桐島は今日も欠席だな」

桐島キリシマ深耶ミヤ。確か、一学期の終わり頃から、時々休んでた)


 桐島深耶は、コウカの左隣の席の子だ。目が見えないくらい前髪が長くて、大人しい印象の子だ。コウカとも何度か話している。その子が、夏休み明けからずっと休んでいた。


(今は毎日休んでる……なんで?)


 クラスメートが休み続けている理由が気になったコウカは、休み時間になると他の子に質問した。


「ミヤちゃんが休んでる理由?具合が悪いんじゃないの?」

「先生はそう言ってたよね」

「なんで具合が悪いの?」

「わかんない」

「先生なら理由知ってるんじゃない?」


 答えが得られなかったコウカは、彼女たちのアドバイス通りに職員室の担任の元へ行き、同じ質問を彼に聞いた。担任は、AIを使って授業プランを考えているところだった。


「桐島のことか。先生も理由がわからなくて、一度電話で聞いたんだが、馴染めないって言ってたよ。ニ年まで担任だった原田先生に聞いたら、一年の時も馴染むのに時間がかかったらしい」

「なんで馴染めなかったんですか?」

「なんでって言われてもなぁ。ヒューマノイドのお前に言ってもわからないと思うが、得意なタイプとか苦手なタイプがいたりして、人間関係って案外難しいんだよ」

「……よくわかりません」コウカは首を傾げた。

「だろ?」

「でも、()()()()()()()()()()

「そうか?躑躅森はみんなと仲良くやってるじゃないか」


 私も馴染めていると思っていた。けれどコウカは、首を横に振った。


「馴染めてない。でも、あたしは学校に来てる。その違いはなんですか?」

「それは……考えてることが違うからじゃないか?」

「人間とヒューマノイドだから、考えてることが違う?」

「多分な。もういいか」

「もう一つ質問。先生は桐島深耶に対して、何かしてあげましたか?」

「Alに相談したぞ。原田先生の時は、教育補助AIに相談して心療内科の受診とメンタルケアを推奨されたって言ってたから、俺もそうした。だからまた、親御さんにメンタルケアを伝えてある」

「そうですか」

「今は経過観察中だと思う。きっと桐島は大丈夫だ。ヒューマノイドでも心配するんだな。ありがとな」


 担任の先生は何気なく、コウカの頭をポンと触った。その触り心地が人間と変わらないことに驚き、感嘆しながら何度も頭を触った。

 でも、コウカは心配した訳じゃない。まだその概念は理解しきれていない彼女は、何日も続けて休んでいることをただ疑問に思ったから質問しただけだ。

 研究所に帰って来たコウカは、その疑問を私にも話した。


「クラスメートが休んでる原因を知りたい?」

「二学期になってから全然来てない。先生もみんなもあまり関心がなくて、AIの提案に従ってるだけだから」

「コウカちゃんは優しいなぁ」


 コウカに集積された今日一日のデータを専用クラウドに整理し、作業をひと区切りさせた私とアルヴィンは、休憩ついでにコウカの相談を聞いた。


「お母さんは、学校を休んだり、周りに馴染めないことはあった?」

「馴染めないことはあったわよ。お母さん、勉強がめちゃくちゃできて、そのおかげで飛び級したけど、それを妬むやつがそこら中にいたわ」

「オレの周りにもそういうやついましたよ。年下のくせに生意気だ!とか言われたんですか?」

「天才の娘だからって見下してんじゃねえ!って、妬み、嫉み、好奇の的だったわよ」

「よくグレませんでしたね」

「他の子と違って自分は特別なんだって自覚してから、自分のことが誇りになったからね。そこから鼻がぐんぐん伸びて、どんどん生意気なガキになって、そのうち周りの目なんて気にしなくなったわ」

「人と違ったからこそ、今の博士になったんですね。イジメられてたオレとは全く逆です」

「アルヴィンは、弱い」

「コウカちゃん、レッテル貼らないでよー。その目が何だか哀れんでるように見えるしー」


 純真無垢なコウカの言葉は、他意なくアルヴィンの心に擦り傷を付けた。でも間違ってないと思うから、私は何も言わなかった。


「今の話の結論。周りに馴染めないなら、生意気になってみんなを見下せばいい?」

「それも一つの手段かしら」

「やめてください博士!コウカちゃんが間違った出力で覚えちゃうじゃないですか!」

「冗談よ。それに出力が間違ったなら、入力し直せばいい話じゃない」

「これは、そういう問題じゃない気がします」


 アルヴィンは私に半ば呆れ、慌ててコウカに「今の出力はダメだからね」と説得した。でも、間違ったなら直すという教え方はある。

 私たち人間が教えることが必ずしも世の中の常識ではないし、その入力から正解率100%の出力が出せるという訳でもない。人間の価値観には、どうしても偏りがある。出力が間違っている時は、私たちにも間違いがあるということだ。その度に私たちは考え直し、コウカに正しいことを教えなければならない。人間と同じなのだ。


「と言うか。コウカちゃんが知りたいのは、クラスメートが休んでる原因ですよね」

「そうだったわね」私はシンプルな提案をした。「それじゃあ、会ってみれば?」

「会う?」

「その子に会って、直接話を聞くってことですか?」

「そう。周りが知らないなら、本人に聞くしかないでしょ。それに、人間がどんなことで悩むのか、その原因と解決方法を体験させるいい機会だわ」

「なるほど。対話をすることで、問題解決力を向上させる訳ですね」

「どう、コウカ?」

「うん。そうしてみる」


 何も知らない周りに片っ端から聞くよりも、本人に直接聞いた方が手っ取り早いと、コウカも合理的手段に納得したようだ。




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