表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/76

16話




 爆発は連動的に起きていて、ショッピングフロアを縦断する間も至る所から爆発音がして、上階の天井や床が崩れ落ちてきている。予期しない爆発に、館内に配置していた男たちも慌てて逃げ出していた。

 階段も崩れ始め、柱にも亀裂が入る。一刻も早く脱出しなければ、建物の崩壊に巻き込まれてしまう。だけど、さっき左大腿部を撃たれた時にアクチュエータまで損傷した所為で、あたしは上手く走れなかった。


「西銘くんごめんなさい。あたし、お父さんを助けられなかった」


 自分の損傷よりも、それだけが悔やまれた。あたしならやれると思っていたのに、とんでもなく無力で、少しも役に立てなかった。言葉が全く届かなかったことが、悲しくて悔しかった。だけど西銘くんは、あたしを責めなかった。


「気にするな。最後は俺がやったんだ。お前は悪くない」

(間に合わなかったのか……でも、思っていたより爆発の規模が小さい)


 正面出入口に向かって、必死に走っていた。その途中、あたしは躓いて転んでしまった。


「大丈夫か」

「うん」

(左足が言うことを聞かない。思ったよりアクチュエータが損傷してるのかも)


 このままだと足手まといになってしまう。だから西銘くんに、先に行ってと言おうとした。その時、すぐ側で爆発が起きた。


「……!おい!早く立て!」

「え?」


 西銘くんの顔色と声音が危険を知らせた。振り向くと、崩落するエスカレーターがあたしの上に迫っていた。


「……っ!」


 すぐに立とうとしたけれど、左足が言うことを聞かない。すると、あたしの状況を瞬時に察した西銘くんがあたしの腕を西銘くんが思い切り引っ張って、投げ飛ばした。おかげで、あたしは窮地を脱した。だけどその代わりに、西銘くんが巻き込まれてしまった。


「西銘くん!」


 聴覚を支配した轟音の衝撃で、あたしはダメかと思った。でも、視界を遮った粉塵が晴れて頭が見えると、運良く一命を取り留めたことに安堵した。

 けれど、それも束の間。西銘くんの下半身は、エスカレーターの下敷きになっていた。


「待ってて!すぐに助けるから!」


 あたしは左足を引き摺りながら急いで近付いて、パワーリミッターを全解除してエスカレーターを退かそうとした。右肩は動かないけど肘から下は使えるから、どうにかして助け出そうとした。だけど、全然びくともしない。


「俺のことはいい。お前は逃げろ」

「ダメ!助ける!」

「いいから」

「嫌だ!」

「いいから逃げろ!」


 西銘くんは、救助しようとするあたしの腕を力強く掴んだ。


「俺なんかに構うな。心中する気か」

「それでもいい!」

「よくねぇだろ!」西銘くんは怒鳴った。「お前は何の為にいるんだよ。ここで俺たちと死ぬ為じゃないだろ。これからもっとたくさんやることがあるだろ!」


 言われなくてもわかってる。せっかく前に進めたのに、またこんなところで立ち止まりたくない。でも、それよりも。


「でもっ。置いて行ったら西銘くんが……あたしの身体はスペアがあるけど、西銘くんの身体は一つしかないんだよ!だからあたしが助けなきゃ!」

「こんな俺に構うなんて、お前はバカか。テメェのことを一番に考えろよ!」

「ミヤちゃんはどうするの!」


 あたしがミヤちゃんのことを言うと、西銘くんはハッとした。


「ミヤちゃんは待ってくれてるんだよ!心配させたこと謝んなよ!」

「……そうだな。待ってるやつがいるなら、死ねねぇな……だけど、お前に付き合わせるのはここまでだ。先に逃げろ」

「西銘くん!?」

「俺は死なねぇよ。少し足が挟まれてるだけだから、何とかして自力で出られる。爆発が収まれば、自衛隊が救助しに来てくれるだろうし」

「でもっ」


 崩落が続いている状態で、見放せる筈がない。あたしがそんなことはできないともうわかっている筈なのに、西銘くんは非情にも自分を置いて行けと言う。


「もたもたすんな。俺は大丈夫だ。お前はとっとと外に出て、身体直して、俺みたいなやつを片っ端から救うんだろ」

「だけどっ」

「いいから行けっ!」


 西銘くんはまた怒鳴った。あたしを引き離したいかのように。

 一瞬の判断が結果を左右する場面で、あたしは判断を迷う。一度は救えた人を、置き去りにできない。だけどこのままだと、二人共崩落に巻き込まれる。でも助けるには、外に出て助けを呼ばなければならない。それができるのは、あたししかいない。

 留まるリスクと、自分だけ先に脱出するリスク。どっちの方が、西銘くんを助けられる確率があるか……あたしは、苦渋の決断を下した。


「……わかった。外に出たら、必ず助けを呼んで来るから。それまで絶対に死なないで」


 あたしは西銘くんの手を握った。


「頼りにしてやるよ」


 西銘くんは、素直さを隠して微笑した。

 たまらなく辛かった。だけど後ろ髪を引かれる思いで、左足を引き摺りながらあたしは外を目指した。


 爆発音は一度収まっていた。だけどあちこちから崩落の音が聞こえてきて、早く外へとあたしを焦らせる。さっき後ろで、崩落の大きな音がした。もうそんなに猶予はない。


(上の階からどんどん崩壊してきてる。早く出て助けを呼ばなきゃ!)


 不器用な走りで時間がかかったけれど、ようやくエントランスに到着した。あと数歩で外に出られる。

 その時だった。今までで一番大きな崩落の振動を感知した。あたしの真上だ。だけど、瞬時に離れることはできず、天井が轟音を立てて落ちてきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ