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1話




 共生試験シンビオシス・テスト終了後。あたしが独立したかたちで人間社会に出ても問題がないかを協議する為に、由利さんを始めとしたプロジェクトチームの代表と有識者、そして躑躅森未閖が集まり、会議が行われた。

 初期試験イニシャル・テストを除いた、小学校から高校までの十二年分のデータを元に、人間との間に親和的な関係性が確立できているとお母さんは示した。動力源のことや、度々あったウイルス攻撃について言及されたけれど、どちらも対策は万全を期し、いつ何があっても対応できる準備はあると説明した。

 未だかつてないタイプのヒューマノイドの運用に、大人たちは慎重だった。これまで開発されてきたカドルタイプやINDタイプは、開発した企業が一括して管理していたけれど、あたしはこれまでと同じようにリアルタイムで管理される態勢から、ほぼ独立して運用される方針だった。つまり、人間と同じように一人暮らしをしながら仕事をすることになっている。だから長い期間、テストを行って来た。

 会議は合計七日間に渡り行われ、最終日に全会一致で社会でのプレ運用開始が正式に決定した。これを機に、新たなヒューマノイドタイプと認められたあたしは、「ドーニアタイプ」に区別されることになった。あたしの運用が成功すれば、以降に製造されるであろうナーチュア・プラティカブル・モデルは、全てドーニアタイプということになる。

 運用が決まったら次は、あたしが役に立つ場所を探さなきゃならない。つまり、仕事を探す。と言っても、早速人間とAlの橋渡しをする訳じゃなくて、「社会」というものを学ばなければならない。人間で言うところのアルバイトだ。

 あたし用の求人は、諌薙市がホームページで呼びかけてくれた。『最新型Alロボットのプレ運用企業・店舗を募集』として、あたしだと言うことは伏せて募集した。募集期間は一ヶ月で、選考期間は二週間だ。

 雇用先が決まるまで時間を持て余すことになったあたしは、感性を磨く為に色々なことをした。読書はしていたけど少し難しい本を読んでみたり、様々なジャンルの音楽を聞いたりした。それだけじゃなくて、美術館や映画館にも足を運んだり、興味があったスポーツをやったりして過ごした。

 友達の二人とも関係は続いている。隣の市の大学に進学したミヤちゃんとは時々会えるけど、伝統復元師を目指して京都の大学に行ったカナンちゃんとは、なかなか会えなくなった。だけど、月に八回くらいオンラインで話してる。


「カナンちゃん。そっちの生活は慣れた?」

「もうだいぶ慣れたよ。友達は十人くらいできたし、歴史的建造物はいっぱいあるし、ご飯もおいしい!」

「楽しそうでよかった」

「二人はどう?ミヤちゃんは、彼氏とはうまくいってるの?」


 ミヤちゃんは気になってると言っていた人と、高校を卒業してから付き合い始めた。それとこれが関係するかはわからないけど、メイクとファッションで少し大人びて見えるようになった。


「うん。まあね。最近は忙しいみたいであんまり会えてないし、連絡も取れてないんだけど」

「彼氏、同い年なんだよね。何処の大学行ってるの?」

「ミヤちゃんの彼氏、進学しないで家業の手伝いしてるんだって」


 ミヤちゃんの彼氏の話を聞いていたあたしは、教えてあげた。


「手伝いって。実家、会社経営してるの?」

「そうなの。外国を相手に事業をやってる会社なんだって。唯一の跡継ぎだから、大学も行かないで事業のこと勉強してるって言ってた」

「彼氏凄いじゃん!てことは、将来は社長?玉の輿だね!」

「玉の輿って、付き合い始めたばっかでそんな話してないから!」


 頬を赤くして否定するミヤちゃんを、カナンちゃんは芸能リポーターばりに質問攻めし始める。京都で勉強詰めだってこの前言っていたけど、その所為か、恋愛話好きに拍車がかかってる気がする。


「わ、私のことより、コウカちゃんのこと聞いたら?」


 一刻も早く自分の話題から逸したいミヤちゃんは、手でカメラを隠して自分が映るウインドウを真っ暗くした。


「じゃあ、コウカちゃんの近況は?」

「あたしは、雇用先が決まるのを待ってる状態だから、今は自由時間」

「いいなー。私もいっぱい遊びたいよー」

「どんな職種に就くかわからないんだよね。何がいいとか希望はあるの?」


 話題を逸らすことに成功したミヤちゃんは、早くも復活した。


「特にないかな。仕事なんて初めてだし、選べって言われても迷うかも。でも、指示されれば、多分どんな仕事でもできるよ」

「何その余裕ー。羨ましいんだけど」

「余裕とかそんなんじゃなくて。ちゃんと教えてもらえれば、人間や他のヒューマノイドと同じように仕事ができるって意味だよ」

「将来的なことを考えると、接客とかお客さんを相手にする仕事がいいんじゃない?」ミヤちゃんが言った。

「いいかも!コウカちゃん可愛いし、絶対お目当てのお客さんが来るよ!それで、告白されちゃったりして!ヤバいー!」


 ディスプレイの向こう側で、カナンちゃんが一人で盛り上がってる。勉強詰めとは言っていたけど、感度が鈍っていないところを見ると、大学の友達ともきっと恋愛話をして楽しんでるんだろうなと推測できた。


「告白はないから。でも、常連さんが増えるかどうかは別として、接客いいかも。人と接する仕事がいいな」


 学校や研究所でしか殆ど過ごして来なかったあたしにとって、不特定多数の人と日々代わる代わる接することは、意味のあることだと思う。しかもそれが多くの見知らぬ大人なら、これまでにない入出力があるかもしれない。




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