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5話




 今日で学期末テストが終わった。三日間気を張って挑み、緊張感から開放されたみんなは、ホームルームが終るとさっさと学校を後にした。部活もないから何処か遊びに行こうと話しながら、あたしたちも下校した。


「やっとテスト終わったねー。二人は手応えどう?」

「何とか全部埋めたけど、数学はあんまり自信ないなぁ。カナンちゃんは?」

「私はバッチリ!どの教科も自信あるよ。コウカちゃんは、今回も余裕なんだよね?」

「まぁね。定期テストはみんなと同じように、記憶の答え合わせって感じだから」

「一度覚えれば、一生忘れないんでしょ?いいなー。羨ましいー。私も、脳みそニューラルネットワークにしようかな」

「カナンちゃんが言うと、本当にやりそうな気がする」


 今日もドローンが後を付けて来ていた。でも今日はメディアのとは違う、前にも見た黒い小型ドローンだ。

 通学路の途中には、街で人気のパン屋さんがある。パンやドリンクがカラフルな見た目で写真映えするから、SNSによく投稿されているお店だ。そこを通りかかって、お腹が空いた二人がそこに寄ってから遊びに行きたいと言ったから、あたしも付き合おうと思っていた。ところが、そのお店に向かっている途中だった。


[異常を検知。異常を検知。外部からの不正アクセスあり。ウイルス感染の疑いがあります]


 あたしの中で、けたたましくアラートが鳴った。


「えっ。な、何!?」


 突然、防衛プログラムよるアナウンスがあたしから発せられて、二人は驚いた。アナウンスの直後、CPUが全ての回路を遮断し、モジュールは信号を送らなくなり、あたしの手足が動かなくなる。


「コウカちゃん、どうしたの!?」

[データ、バックアップ完了。システム、自動オフライン。安全の為、緊急シャットダウンします]


 異常が検知されてから10秒。全機能を停止したあたしは、直立不動のまま全く動かなくなってしまった。


「コウカちゃん!?」

「どうしたのコウカちゃん!?」

「……どうしよう。動かなくなっちゃった!」


 急な事態に二人は動揺し、混乱した。慌てて救急車を呼ぼうとしたけど、ヒューマノイドが動かなくなったと言っても救急隊は困るだけだと、変に冷静だった。


「シャットダウンて言ってたよね。電源切れちゃったのかな。ミヤちゃん、コウカちゃんの電源てわかる?」

「わかんない。こんなこと初めてだし。ウイルス感染とも言ってたから、わからない私たちが無闇に何かしない方がいいよ」

「でも、このままにしておけないよ」


 二人はどうにかしようと考えるけど処置方法がわからなくて、取り敢えずネットで「ヒューマノイド 緊急停止 どうしたらいい」で検索した。カナンちゃんが、ヒューマノイドの修理工場リペア・ショップに連絡することを提案したけど、他にないモデルのあたしを対応してくれるのかとミヤちゃんが賛成しなかった。


「そうだ。開発した会社に連絡してみる?」

「そうしよ。ミヤちゃん、連絡先知ってる?」

「調べてみる」


 あたしの研究所いえの連絡先を知らなかったミヤちゃんは、『躑躅森』で検索をかけて調べようとした。その時。あたしの緊急用のスマホが鳴って、ミヤちゃんが出てくれた。


「も、もしもし?」

「もしもし。コウカと一緒にいるお友達ね」

「は、はい」

「コウカの責任者です。今すぐその子を迎えに行くから、そこから動かずに待ってて」


 その電話の十分後に、お母さんたちが車で迎えに来てくれた。心配したミヤちゃんとカナンちゃんも、一緒に車に乗って研究所に向かった。

 戻ったあたしは、すぐに検査を受けた。システムの隅々まで調べたけど、特に異常はなかった。あたしはそのままメンテナンスもすることになって、チームの人に任せたお母さんはミヤちゃんとカナンちゃんの所へ結果を伝えに行った。


「バタバタしてごめんなさい。桐島さんと、大国さんよね。私はこの研究所の所長であの子の開発者の、躑躅森未閖です。二人とも、コウカと仲良くしてくれてありがとう」

「私こそ。コウカちゃんにお世話になりました」礼儀正しいミヤちゃんは、お母さんにお礼を言った。

「おばさん。コウカちゃん、大丈夫なんですか?」

「おば……」


 カナンちゃんの悪気のない一言が、お母さんの心を傷付けた。でも、そう呼ばれて相応しい年齢だと思う。それを自分でもわかってるお母さんは、大人気なく怒らないでくれた。


「ウイルス検知Alが防衛プログラムを作動させて、外部からのアクセスを即時シャットアウトしてくれたから、大事には至らなかったわ」

「よかったー。急に動かなくなるからびっくりしちゃった」


 カナンちゃんは凄く心配してくれてたみたいで、酷く安心した。その横で静かに胸を撫で下ろしたミヤちゃんだけど、気に掛かることがあってお母さんに聞いた。


「あの。今まで一緒にいて、こんなことなかったと思うんですけど。もしかして、ウイルス攻撃とか時々あったんですか?」


 お母さんは、ミヤちゃんからの質問に答えるのを少し躊躇った。内部事情を第三者に口外することは、規定違反になる。でも、あたしを心配してくれてる友達だということを考慮して、規定に触れないように少しだけ話した。


「なかったわ。セキュリティは万全だし、ウイルスを検知したらすぐに廃除できるようになってるからね。ただ最近、変なメールが届くのよ」

「迷惑メールですか?」

「そんな感じ。まぁ、今すぐにどうにかなるような内容じゃないから、私たちも様子を見てるところ。どうせ、暇なやつが暇潰しに送って来たのよ」

「いつもコウカちゃんを付けてるドローンは、関係ないんですか?」

「あれはメディアがしつこいだけ。総務省がちゃんと対応できてない証拠なのよ。職務怠慢よね全く」

「そうですか」


 気掛かりが消えたミヤちゃんは、ひとまず安心してくれた。あたしはヒューマノイドなのに、人間の友達みたいに心配してくれる。本当に優しい子だ。

 その後、メンテナンス中のあたしの様子を見てから二人は帰った。笑顔でエレベーター前で見送ったお母さんは、二人がいなくなると深刻な顔をして研究室に戻った。


「アルヴィン。あのドローン、何処の所属かわかった?」

「いいえ。ですがやはり、何処のメディアのものでもありません」


 お母さんたちは、二度現れた黒い小型ドローンの持ち主を探ろうとしていた。メディアだったら、テレビ局や新聞社や出版社の登録IDがわかる筈だけど、そのドローンは何処のものでもなかった。


「個人が所有してるものなんですかね。でも、なんでコウカちゃんの後を……ウイルスに襲われたことと、関係ないんでしょうか」

「何とも言えないわね。所属不明じゃ、コウカを付けてた目的もわからないし」

「ウイルス対策は完璧の筈なのにシャットダウンさせられたと言うことは、かなり強いウイルスですよ。関連性を含めて、調べた方がいいんじゃ」

「それは、私たちの仕事じゃないわ。それに、関連性を疑うなら、メールの方が明らかじゃない?」


 さっきは、ミヤちゃんとカナンちゃんに余計な心配をさせないように迷惑メールだと言っていたけど、送って来たのは暇を持て余した人なんかじゃなかった。それに、送信者はわざわざ調べなくてもわかっていた。ドメイン名に「jcaro」とあったからだ。


「まさかと言うか、とうとうと言うか。ジャカロから来たのは驚きました」


 日本民政再興機構。英訳のJapan Civil authority Revival organizationを略して、『JCaRoジャカロ』と呼ばれている。シンギュラリティ・ピリオド以降に創設された組織で、理不尽な失業により再就職も叶わず、生活困難に陥った人々が集まって作られた。組織は、国内に溢れ過ぎたAl及びヒューマノイドやロボットの廃除と、全ての国民の労働の保証を国に求め続けている。

 そのジャカロが半年前くらいから、「新型ヒューマノイドの運用の停止を求める」と何度か直接訴えて来ていた。あたしのことも認めたくないみたい。あたし別に、身長が伸びる以外に特別な機能はないし、害はないと思うんだけど。


「ドローンがジャカロのものという可能性はないでしょうか」

「それはあるかもしれないけど。じゃあ目的は?」

「コウカちゃんを監視して、危険なヒューマノイドだとわかったらすぐに廃除しようとしているとか」

「考えてそうだけどね……」


 ジャカロはあたしたちにとっては注視すべき対象だけど、今すぐその存在を抹消するべきかと問われると、ちょっと微妙な組織だ。だからお母さんも、偏った認識を持ったり、危険な存在だと決め付けないようにしていた。アルヴィンはその逆みたいだけど。


「憶測で考えるのはやめておきましょう。勝手に決め付けて警察沙汰にしたら、火に油かもしれないし。向こうが私たち相手に何か画策していたとしても、できれば穏便にすませたいわ」

「でも、このまま放っておくつもりですか?いつ過激な行動に出るかもわからないのに」

「じゃあ。アルヴィンが直接抗議に行ってくれば?それで事が大きくなったら、貴方が全て丸く治めてくれるのよね?」

「酷いじゃないですか博士!冷たくするのは由利さんだけにしておいて下さいよ!」


 あたしたちが目指しているのは、人間とAIの共生。Alがこれからも人間と一緒に生きていく為の、道標を作ることだ。人間同士みたいに戦いたい訳じゃない。いつかそれが、向こうの人たちにも伝わってほしい。




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