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プロローグ

※こちらの小説は10/28にタイトルを変更しております。なお、内容は一切変えておりません。




 赤ん坊が()()しようとしている。

 白い部屋に置かれた長方形のクリアケースの中に、いくつものケーブルで繋がれた小さな身体が気をつけの姿勢で横たわっている。この子はまだ呼吸もしていないし、心臓も動作していない。

 その周りを、私たち十数人の白衣の大人たちが囲んでいた。


「最終確認。CPU接続。外界センサ・内界センサ、各感覚モジュールとの接続を確認。ニューラルネットワーク、正常」

「移動機構、アーム、エンドエフェクタに異常なし。アクチュエータも問題ありません」

「マイクロマシン、スタンバイOK」


 最終確認をした部下たちが、私に異常がないことを伝えた。確認した私は、機動の許可を出す。


「動力制御、解除」

「動力制御、解除します。レギュレーター、作動………異常なし。覚醒します」


 タブレット端末を持ったアルヴィンが、画面のENTERボタンを押した。その場の全員が緊張して固唾を呑み、祈るように手を組んだりしてその時を迎えた。

 一同が見守る中、赤ちゃんの目蓋が持ち上がり、丸い黒目が表れた。その1〜2秒後に手の指が動き、ぎこちなく腕や足も少しだけ動き出した。


『やったー!』


 その瞬間、私たちは一斉に歓声を上げた。開発チームのみんなはお互いにハイタッチやハグをして、それぞれに喜びを表した。私も、隣のアルヴィンと固い握手をして控えめに喜んだ。


「やりましたね、躑躅森博士!」

「ありがとう、アルヴィン。総務省のやつらが姑みたいに口煩くて、何度もやめてやろうかと思ったけど」

「何度かケンカになりそうでしたね」

「色々あって無事に完成するのか心配だったけど、本当によかった!」


 お偉方の無茶ぶりに頭を沸騰させながらも何とかそれに応え、失敗を重ねながら試行錯誤し、世代と世紀を跨いで完成にまで至った今日までの日々が、走馬灯のように脳裏に甦った。私もう死ぬのかしら。


「博士。抱いてみて下さい」


 アルヴィンが気を利かせて、そう言ってくれた。クリアケースが開き、赤ん坊に繋がれていたケーブルが外される。


「重いので気を付けて」


 全員が注目する中、アルヴィンに助けられながら優しく胸に寄せた。彼女は抱き上げた私を両眼のカメラでじっと見つめたあと、研究室内のあちこちに視線を移す。強化炭素繊維等のベースの重量感と、特殊樹脂製の肉感と、人工幹細胞製の人肌感。そして、想像通りの温かみがある。


「わぁ。本当に赤ちゃんみたいですね」


 初めてのきょうだいに対面したような無邪気さを窺わせながら、アルヴィンが覗いた。


「当たり前でしょ。本物を目指したんだから。それにしても、重過ぎるわ」

「二年分の材料を体内にストックしたおかげで、人間の赤ちゃんの四倍ですからね」

「筋肉痛になりそうだわ」

「と言うか。もう既に歯がちゃんと生えてるのは、やっぱり違和感がありますね」

「歯を生やすことはできないから妥協したけど、やっぱ変よね。頭もスキンヘッドだし」


 この子には既に、大人と変わらない歯が備わっている。途中から装着させてもよかったけれど、面倒なので最初から生やしておく選択を取った。総務省もその辺りは納得してくれた。


「オレたちの方から何も指示してないのに、自ら手足を動かしてますね」

「動作プログラムを確認しているのね」

「もう自ら復習してるのか。各システムも、問題なさそうですね」


 スキンヘッドもクリクリの目もかわいいのだけれど、そろそろ腕が辛くなってきたのでアルヴィンにケースに戻してもらった。


「そう言えば博士。名前を考えるって言ってましたよね。決めたんですか?」

「決めたわよ。『虹』に『花』と書いて、『コウカ』」

「どうしてその名前にしたんですか?」

「色々な経験をして、色鮮やかな人生になるように。やがて人との橋渡しになって、未来に素晴らしい希望の花を咲かせるように」

「虹花……いい名前です!」


 私は、ケースに寝かせたコウカの頭を撫でた。彼女は私を見て手足をぎこちなく動かし、この世に生まれたことを実感していた。


「誕生おめでとう。コウカ」


 NPM-0001、躑躅森虹花。21XX年4月22日午前9時54分、覚醒。体長50.0センチ。体重12キロ。世界で始めて生まれた、《()()()()()()()()()()()()育成可能型ヌアーチェア・プラクティカブル・モデルヒューマノイド。この子はこれから人間と共に成長し、彼女の人生を歩んで行く。




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