第3話『城塞都市エリゥ』
決死の交渉の末。あろうことか盗賊たちに守られながら歩くこと三日間。ようやく街が見えてきた。
何とも奇妙な協力関係が成り立ったもんだ。まあ、その交渉の根本からしてホラ話なんだけどね。
街に近づくとその詳細が分かってきた。いわゆる一般的な城塞都市のようだ。
何より目を惹くのは城壁越しからも見える、そびえ立った尖塔だろう。
王族でも住んでるのかと思うほどに豪奢だったが、盗賊たちの会話を盗み聞くにここは辺境の街らしい。
それでも、片田舎だとは到底思えないほどに作りは見事だった。
城門の方を見ると全身を鎧で包んだ門兵が待ち構えている。なるほど豊かそうな街だ。
「……三日後に城門近くで待つ。俺らは街じゃお尋ね者、入るのも骨なのさ」
入れないとは言わないのは盗賊のプライドがそうさせるのか、それとも自信からか。
コイツらが俺と一緒に街に来ないなら慌てる必要もない。大手を振って街を歩けるのは素晴らしいことだ。
「あぁ。現れなかったら俺は死んだものと思ってくれ。失敗の報告に行くんだ、癇癪で殺されるとも限らん。その時はそいつで一山当てるんだな」
「お前が死のうが死ぬまいが俺らに損は無ェ。稼ぎがデカいか、もっとデカくなるかって違いはあるがね。ま、悪く無い取引だったさ、テオさんよォ……俺はグランデル。生きて再会できる事を祈るゥ」
冗談キツイぜ。ハイ嘘でしたごめんなさい、なんて伝えるためにわざわざ会うなんて自殺行為だろ?
嘘八百の協力関係を結んだ俺と盗賊頭は握手し、にこやかに別れた。もう会うこともないだろ、達者でな。
自分の名前を口走ってしまったという不安はあった。しかし一人になった俺は、その不安を振り切るようにして城門へと足を運んだ。
◇
どうやらここはなかなかに開放的な街らしい。門兵のもとへ行くと、会話もそこそこに簡単に通して貰えた。
運良く盗賊たちから逃れた俺は、自分で言うのも何だが、なかなかツいていると思う。
俺をこの世界に呼び出したであろう召喚の異能持ちとも、運良くこの街で出会えるかもしれない。
そんな期待を胸いっぱいにした俺がこの街に入ってすぐに抱いたのは、どうしてここがこれほどまでに栄えているんだ?という困惑。
地面は綺麗に整備された石畳で、並ぶ建物も堅牢。レンガ造りだろうか?見渡すと視界に入る賑わった市場に並んだ品物もそれなりに良いものばかりだ。
だが特産品と言えるものは何も無い。どういうことだ?いったい何がここを潤わせる?
目に入った商店へ入り、スマホを売りつけるついでに話を聞いてみることにした。
光源にもなる魔法の電卓という踊り文句ですすめたところ喜んで高値で取引してくれた。
……そのうち電池切れで動かなくなる不良品も同然なんだが黙っていよう。賢い商人なら、裏の取れない一点ものの商品なんて手元に置かないだろうしな。
何より数字の概念に関しても元の世界と同じだということが分かった。やっぱり今の俺は運がいい。せっかくだし、この街についても色々と聞いてみよう。
「この街の特産品はなんですか?」
「特産品?んなもん無いよ。強いて言うなら酒くらいかね。ここ、エリゥのエール酒は格別さ!娘がギルド近くの酒場で働いてんだ、良かったら寄ってみなよ」
……ダイレクトマーケティングされてしまった。
基本的に人は地元の酒を好む。美味しく感じるのは分かるけど、特産品とまではそうそう言い切れない。
いい商売が出来たと喜んで多少は口が緩くなった目の前の商人がそういうのなら、本当に特産品なんて無いんだろう。
街の名前を教えてくれたのは嬉しい誤算だ。ここはエリゥという地名らしい。
……ギルド?
「知らないのか?まあ良いか、せっかくだし教えてやるよ。城壁の外にゃモンスター共がうじゃうじゃ居るんでな。それを間引くのがギルドに登録した冒険者たちなのさ」
ギルド。そして冒険者。俺はその響きに年甲斐もなく沸き立ってしまった。本当にここは剣と魔法の世界だったんだ!
しかし気がかりもある。荒野には盗賊くらいしか居なかったと思うが……。
モンスターすら生きられないような過酷な環境だったのか?
胸に浮かぶさまざまな感情を抑えて質問を続ける。今欲しいのは情報だ。
「冒険者ですか。大変そうなお仕事ですね」
「どうだかね。危険な物も多いんだろうが、依頼の中には旅商人の護衛もあれば貴族様との取引もあるらしい。中でも一番の稼ぎは魔石だろうな」
「……魔石?」
「どういう理屈か知らんがモンスターが死ぬと落とすのさ、魔石ってやつを。冒険者が持ってきたのをギルドが高値で買い取ってよそに売り飛ばすんだと。モンスターの多い辺境じゃ一番多い商取引さ。しかし、魔石の一攫千金を狙って死んじまう冒険者の多いこと多いこと。俺なら絶対にやらんね」
「魔石の恩恵はモンスターの多い辺境の方が大きい。ここが栄える訳ですね……。なるほど、ギルドに興味が湧いてきました。誰でも冒険者登録出来るんですか?」
「オイオイ兄ちゃん、今の話を聞いて冒険者になりたがるのか!?普通ならやめとけって言いたいとこだが……。登録自体は誰でも出来る。だが早死にしたくなけりゃ、早いとこ足を洗うんだな」
「そうします。色々とありがとうございました。娘さんの酒場も、そのうちお邪魔しますね」
そう言って商店を出た俺は頭の中を整理する。
思ってもみない情報ばかりだった。スマホの件で恨まれなければ、今後もあの商店には世話になろう。
そう思って俺は冒険者ギルドへ歩き出した。