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第22話『ユーゴ・ガーライアス』

 ちょうど作戦会議が終わる頃、公爵家御一行がディアドラ邸へやって来た。

 執務室に通されたのは、ヘルガー家の使者と、例の縁談相手だけだった。


 机を挟んだ片方のソファにはケネス卿とアーデが並んで座り、反対側に使者と男が座っている。


 パウルとイツカは裏方担当らしく同席していない。

 俺はというと、ソファの後ろに配置されていた。なんで?


 ……作戦を協議した結果、こうなったと言えばそれまでなんだが。ホントに上手くいくのか?


 場違いになってもマズいだろうし、それっぽく突っ立っているくらいしか出来ない。



「これはこれは。ケネス様、御息災のようでなによりでございます」

 

「なに、これも公爵殿の御力あってこそというもの。聞くに、御当主も御健勝のようですな。いやはや喜ばしい限り。……ふむ、彼ですかな?」



 使者と和やかに談笑するケネス卿。

 ……何だか別人みたいだ。俺たちに見せるのなんて、いつもの子供じみたイヤ〜な笑顔くらいだしな。


 貴族同士の会話ってみんなこんな感じなのかな?上っ面だけ繕うというかなんというか。

 こんな会話ばかりしてたら、そりゃ腹芸も上手くなるよな。


 ケネス卿の視線を受けた男は会釈し、自己紹介を始めた。



「ヘルガー騎士団所属、ユーゴ・ガーライアスであります。本日はこのような場を設けていただいたこと、深く感謝致します」

 


 縁談相手の異能持ちは、中々にさわやかな御仁のようだ。俺から見ても目鼻立ちの整った好青年だった。


 自己紹介を聞いたケネス卿は穏やかな笑みを崩さない。

 良かったなユーゴくん。掴みはバッチリっぽいぞ?


 ま、どう頑張っても婚約には至らないんだけどね。とりあえず、ケネス卿にはユーゴを泳がせておいて貰わないと。



「貴様の名など覚えるつもりは無い。そもそも、私は発言を許したか?」



 えぇ……。

 いきなり何言ってんのこの人?


 外交問題とかいうレベルじゃ無くない?

 難癖つけるにしたって、もっと後の段階なんですよ!アーデから作戦聞いてんだろ!


 

「しッ……!失礼致しました!お許しを!」


「ふん。礼儀も弁えん男か、気に入らんな?……公爵殿にはこの話は無かった事にして頂こう」



 ユーゴくんが真っ青になって慌て出した。いや、断るってシナリオ通りではあるよ?

 ケネス卿が暴走したせいで事前に立ててた作戦は滅茶苦茶になっちゃったけどさ。



「なんと!これは何とも、残念なお話ですなあ?……ユーゴ殿、これはケネス様のお取り決めです。御理解なされよ」



 ……ん?

 ユーゴが慌てるのは分かる。しかし使者の人は全然動揺している様子はない。メンタル強いのかな?

 

 いや、違うか。断られるのも織り込み済みって反応だ。……うーん?


 ケネス卿と公爵家で、事前に何か話でもしていたか?そう勘繰ってしまうくらい展開がスムーズ過ぎる。



「あら。このような事になるなんて、わたくしも残念でなりませんわ。ですが公爵様の御心遣いは確かに頂戴致しました。このアーデルハイト、感謝こそすれ、責める事など出来ましょうか」


「おぉ!アーデルハイト嬢の寛大さに感謝を。その御言葉、我が主もさぞ喜ぶことでしょう」



 貴族モードで話すアーデと使者さん。

 やっぱり俺要らなくね?このまま話もうまい事、終わりそうな感じだ。



「お、お待ちください!異能持ち同士の子には異能が備わり易いと聞きます。その私を婿に迎えればディアドラ家も安泰でしょう!」


「お生憎さま。わたくし、辺境伯の地位を欲しがるような殿方は好みませんの」


「後継には私の弟が居る。貴様が心配する必要は無い」



 盛大に振られ、歯軋りを隠そうともしないユーゴ。仕方ないんだ、彼はこうなる運命だったんだ。


 けど、ケネス卿に弟が居たのは知らなかったな。そういう事ならアーデを自由にさせるのも納得できる。


 弟さんも蛮族殺すマンなのかな?だとしたら、ちょっとお会いしたくないんだが。



「……ッ!おかしいだろ!ならば何故縁談を一度受け入れた!俺はここから成り上がるってのに!こんな不義理、認められるモンかよ!」



 ユーゴが騒ぎ出す。まあ、気持ちは分かる。彼からすれば理不尽な事この上ないだろうし?



「チッ……。喜べテオ、仕事だ」


「はッ」



 経緯はどうあれ、ケネス卿が作戦通りに軌道修正してくれた。ようやく仕事の時間だ。


 俺はユーゴの所へ歩いていき、自分の手袋を外して足元に投げた。

 これまた作戦通りの言葉を添えて。



「拾え、ユーゴ」



 アーデの推測では。


 ユーゴ・ガーライアスは保持するスキルの特異さからか、相当しつこく粘ってくるだろうと思われる。


 それを追い払いたいなら、同じような境遇で、同じように異能持ちの俺が決闘でもして諦めさせるのが効果的らしい。


 理屈は分かる。

 分かるのだが、手袋を叩きつけた今でも上手くいくか半信半疑なんだが……。



 全員が見守る中、怒りで顔を赤くしたユーゴが手袋を拾い上げた。決闘が受理されたのだ。


 それを見た俺は、作戦通りに口を開く。



「貴殿が勝てば縁談は受け入れられる。負けた場合にはこちらで好きに処断する」


「ッ!それは些か、勝手過ぎるのでは」


「ケネス様の御意向だ。交渉の余地は無い」



 作戦を聞いたときはサッパリだったが、ここまでの流れを見てようやく俺にも理解できた。

 


 要するに。


 公爵家から厄介払いされたのだ、このユーゴという男は。


 ヘルガー家当主は人格者として知られているそうだ。そんな当主様が、異能持ちの平民を迫害でもしたら大事件になる。


 公爵からすると、領地に現れたユーゴの存在は面倒ごとでしかないんだろう。


 そこで自分で雇ったあとで、適当に落ち度を作って領地から追い出そうという結論に落ち着いたと思われる。


 どこが人格者だとムカつきもするが、体裁を気にする公爵ならこうするのかもしれない。


 しかしそれでも謎が残る。ディアドラ家を巻き込む理由が無い。

 こんな大ごとにしてまでユーゴひとりだけを追い出すなんて、手間が掛かるだけじゃないのか?


 ……疑問は尽きないが、いまは仕事しないとな。


 さすがにこの辺の事情はケネス卿に直接聞く他ない。教えてくれるかどうかは怪しいが。



「訓練場で良いだろ、ついて来いよ」



 こんな面倒な仕事、さっさと終わらせるに限るだろ。

 ……彼の境遇、ちょっと可哀想と思わなくもないんだけどね。

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