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第14話『専属契約』

「掛けるが良い。それから名前を」



 ケネス卿に促され俺たちは席につき、めいめいに名乗った。


 ……何というか、威圧感がすさまじい。トントンと、デスクを指先で叩く仕草。機嫌悪いんですか?部下とか使用人の方々の胃腸が心配になってくる。



「娘が迷惑を掛けたようだな。家出同然で屋敷を飛び出したものだから困っていた」


「監視をつけていたではありませんか。そこまで面子がお大事ですか、お父様?」



 やめてくれアーデ!心配しなきゃならないのは自分たちの胃の方だった。

 こんな空気じゃ、出されたお茶も飲めたものじゃない。バチバチの親子喧嘩は二人の時にしてほしかった。



「まずは仲間の貴様等に問う。娘はやっていけそうか?」


「……やっていけるも何も、今回の依頼達成は殆どアーデルハイト様の功績です。彼女抜きでは生還すら危ぶまれたでしょう」



 ケネス卿にそう返すイツカ。非常に建設的な会話だ。俺は安心してお茶に口をつけた。美味しい。

 

 ……それよりも、やっていけそうか?という問いが気になる。ケネス卿はアーデが冒険者をやる事に関して、特に否定的ではないように聞こえた。



「ふむ、成程。イツカと言ったか。貴様がリーダーだな?悪い事は言わん、ディアドラ家専属の冒険者になると良い」


「……それは」



 口ごもるイツカ。これはよくある話だ。通常、冒険者が手に入れた魔石はギルドが他へ卸す。価格のおよそ二割を、仲介料としてギルドが持っていくのが相場だ。


 ……割高過ぎると思うのだが、魔石の希少さと、冒険者という職業の特異性を考えると周囲は認めざるを得ない。


 領主へ税を納めはするものの、魔石を独占するギルドは貴族の権力に屈しない発言力を持つ。貴族からすれば、目の上のこぶでしかない。


 そこで貴族たちは、専属の冒険者を雇用するようになった。手数料の要らない、欲しい魔石だけを持ってきてくれる腕利きを近くに置く。

 鬱陶しいギルド関係者から目を背けるには最高の手段だろう。


 そして今、俺たちが専属に誘われている。ケネス卿は、今後もアーデと組みたいならこの条件を呑めと言いたいのだろう。


 実際、専属という立場で保護してしまえば、アーデが無闇に危険に晒されることも無くなる。

 ケネス卿にとっては、貴族としても父親としても安心できる選択だ。


 しかし俺たちの方はどうだ?これを受け入れれば、貴族と反目するギルドからは良く思われないだろう。もうクエストを紹介して貰えない可能性だってある。


 何より恐ろしいのは、ギルドからクエストを受けられなくなった後で専属契約自体が消えてしまうことだ。

 一見デメリットのない専属契約には、最悪のリスクが伴う。決断するのはリーダーのイツカだ。



「……喜んで、お受けいたします」



 ケネス卿は初めて笑顔を見せた。欲しいものを無理やり手に入れた子供のような、無垢と狡猾さが入り混じった笑みだった。


 当然のように娘を損得勘定に入れるあたり、生粋の貴族らしいと思う。



「結構。諸君、頼りにしている。下がってよい」


「はッ」


「……あぁそうだ、黒髪の。テオだったか?貴様は残れ」


「……えっ」



 俺が目を白黒させていると、他のみんなは逃げるように退室し、ケネス卿と二人きりになってしまった。


 ……どうして俺なんだ?リーダーのイツカと話せばいいじゃん。

 

 冷血卿と呼ばれる男は、俺の目をはっきりと見据える。怖い。



「まずは……。グランデル盗賊団の件だ。随分と楽しい話をしてくれたそうだが」



 ……まずい。完全に忘れていた。


 俺が盗賊に吹き込んだ大嘘。それに巻き込んだ貴族って、もしかして……!

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