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プロローグ





 昔から、人に流されやすい性格だった。

 親の意向で進学先を選び、学友の勧めで交際相手を選ぶ。


 敷かれたレールを歩くのは、存外に楽なものだ。何かをひとつ手に取る悩ましさもなければ、何かをひとつ捨てる苦しみもない。



 俺は、選択を他人に委ねることで自分を守る卑怯者だ。


 俺が選んだ、選ばない生き方。その安定が崩れ去ったのは、いつだったか——





 ゼミの教授に紹介されて就職した会社は居心地が良かった。やはり俺は間違っていない。レールの上を進むのに何の問題がある?真っ直ぐに進むから人は枕木を置き、レールを敷いて行くのだ。


 しかし。レールの上に小石を置けば何が起こるだろうか。命にかかわる、俺をつまずかせた自分にとっての小石。それは交際相手のことだったのだろうか。




 恥ずかしながら。言い寄られて付き合った女は、暴力団員と浮気をしていたのだ。

 

……いや、実はその逆。女からしてみれば、()()浮気相手だったのだろう。


 何も知らないまま、逆上したヤクザに殺されかけた。空虚な生き方をしたという自覚はあるのに、俺はそれでも死にたくはなかった。


 必死に命乞いをした。自分の利用価値を提示した。


 気付けば、俺を殺そうとした男の元で働いていた。職業は詐欺師。そこで働くことに抵抗はなかった。



 俺のやる事は今までと変わらない。変化したのは、乗っかっているレールだけ。言われるがまま、人を騙し続けた。


 俺は存外に生き汚かったらしい。どんな汚れ仕事でもこなした。



 金融職員のふりをして騙す。


 副業を薦めて騙す。


 婚約者の真似事をして騙す。


 かわいいかわいい孫の代わりをして騙す。



 騙せる人間がいれば、どこまででも金を巻き上げた。騙されない人間がいれば、周囲を騙しておとしいれた。


 俺のせいで、一体どれほどの人間が不幸になってしまったのだろう?





 ……もし。


 もし、人生をやり直せるのなら。俺はどこから始めれば良いのだろうか。


 眼前に迫る鉄の塊を前にして、俺は静かに目を閉じた——


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