あなたとろ婚約はぁ ヒック 今日れ破棄させていたらきます!
「イザベラ……とにかく、酔った状態でそんなとこに登って、万が一落ちて怪我でもしたら大変だから、ゆっくり降りておいで」
「はああああ? アラン様、冗らんらと思っているんれすね! ヒック わらしはぁ、ちぃっとも酔っれなんかいませんしぃ、ぉおおまじれれすかられええ!」
今しがた婚約破棄を宣言されたにも拘らず、本来余興を披露するための壇上で顔を真っ赤にして管を巻きつつふらついているイザベラに優しく声を掛けたアランでしたが、その態度がかえって彼女の神経を逆撫でしたらしく、頑としてその場を動こうとしません。
ここは、イザベラとアランの結婚披露宴会場です。当然、両家の親類縁者一同も勢揃いしていました。しかし、二人が幼い頃から家族ぐるみで付き合ってきたからこそ、イザベラの酒癖の悪さについても全員重々承知しているため、彼らにとっては愉快な余興が始まった程度の感覚だったのです。
当事者達、そして出番前にとんでもない催し物が始まりドン引きしている演奏家達以外は、豪勢なご馳走に舌鼓を打ちながら、思いのほかこの状況を楽しんでいるようでした。
「らいたい、わらしが何で怒っているろか、アラン様は分かっているんれすかああ!?」
「……披露宴が始まる前に、王都周辺でモンスターが発生したとの報告を受けて、僕が君をここに置いて出かけてしまったからだよね……? 二人の人生において非常に大事な節目の日なのに、本当に申し訳なかった!」
「すまらいれすんらら、けいりたいはいららいれしょう!!」
興奮と酔いが回ってきたせいで、更に呂律が回らなくなっていくイザベラ。
「そもそもお、けいりたいのたいちょーなんて、安全なところれ、たら指揮をしらららぁ、ふんぞりかえってたらいいんれすよ! ヒック どこに最前しぇんで部下に混じってまもろと命懸けれ戦うたいちょーがいるんれすか!」
「だが……部下達の命を預かっている以上、僕も戦わない訳には……」
「だーかーらぁ、わらしがあらたろ帰りを待つあいら、ろれらけいーっつも心配しているか、分かってるんれすか!? 今日らって結婚したとうりつり、みもーじんになってしまうんじゃないかってぇ……ヒック……不安れふあんれえ……ううぅ……うわああ!!」
手を震わせながら真っ青な顔で夫の帰りを待つイザベラを不憫に思い、母親が慰めるついでに、ほんの少しだけならとお酒を勧めてしまったのが、今回の泥酔婚約破棄事件の発端となったのでした。
別のスイッチが入ったらしく号泣し始めたイザベラの両肩に優しく手を添え、アランは真っ直ぐに目を見て穏やかに話しかけます。
「……君を不安にさせてしまってすまない。だけど、知っての通り大切な君や、君のご家族を魔物の脅威から守るのが僕の仕事なんだ。これからも必ず無事に君の元へ帰ってくると、僕の女神である君に誓うから、どうか許してくれないだろうか?」
「……そうやってれえ!! きゅうり男らしくなるのもずるいんれすよ!! いつもはぁ、そうしょくろうぶつみたいに、にぃこにこへらへら笑っているらけろくせに!! ……もし、ちょっとれも怪我して帰ってきたら絶対に許しませんかられえ!!」
「ああ、肝に銘じておくよ。ありがとう……愛してるよ、イザベラ」
「……わらしはまら、許したらんて言ってませんから!……そおいうギャップを他の女性の前れ見せるのもれったい禁止れす! ふらんからもっとピシィっと、しゃきぃっとしてたらいいんれすよ! 凛々しいのは、いっつもまもろと戦う時とかぁ、今日みたいら時とかぁ、あとべっろのうえらけ……」
「すっ、すみません!! 妻は気分が優れないようなので、誠に勝手ながら披露宴はこれにてお開きとさせていただきます!!」
これ以上イザベラの口から爆弾が飛び出してはマズイと焦ったアランは、早口でまくし立てた後、ニヤつく両家縁者一同を置いて彼女を横抱きにしたまま会場から風のように走り去りました。