養父は魂込めの絵画を想う
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ロゼッタとブルーノがオスカルのアトリエにいる頃、『ギャラリー・バルバート』の応接室には、ダンテとヴィルフレードとソレチト伯爵の姿があった。
「アリステア殿下の護衛の一人がロゼッタ嬢を追っていただなんて……どういうつもりなんだ」
ダンテは膝の上で拳を握る。
今しがたヴィルフレードから、変装した王室警備隊の騎士を尾行している際に彼らがロゼッタを密かに追っていたことを聞いたばかりだ。
ヴィルフレードはその騎士の顔に見覚えがあるようで、アリステアの護衛の騎士だと言う。
「仮に王族が騎士を使って珊瑚色の瞳を持つ子どもたちを誘拐していると仮定して、目的は何なのだろうか? 彼らは、故ジルダ王妃殿下が珊瑚色の瞳を持つがゆえに黒霧の魔女に彼女を殺害された被害者だというのに、事件を模倣するようなことをするなんて……」
そう呟くヴィルフレードの顔には疲労が滲む。
ダンテの思いつきのせいでここに来るまでに慣れない運動をしていたことも理由の一つだが、王族の誰がこの事件に関わっているかにより、政界が大きく動くことを懸念しているようだ。
高位貴族であるロランディ侯爵家は、そのような動きがあれば漏れなく面倒事と向き合わなければならない。
「ソレチト伯爵の方では、王城で何か情報を掴みましたか?」
ヴィルフレードに話を振られたソレチト伯爵は、持ってきた鞄の中から数枚の書類を取り出す。
その書類は、アリステアがソレチト伯爵から商品を購入した際の請求書の控えだった。
「アリステア殿下がうちで買い物をなさることもありますが、注文している商品にとりわけ不審なものはありませんでした。気になる点といえば、ご自身のものは買わず、贈り物ばかり買われている点でしょうか」
「いったい、どんな商品を贈り物に購入しているのですか?」
ヴィルフレードの問いに答えるように、ソレチト伯爵は書類に書かれている商品名を指差す。
「オルゴールや、風景が描かれた小さな土産用の絵画などです。それらは前国王陛下への見舞いの品だそうですよ。アリステア殿下のお話によると、頻繁に前国王陛下に会いに行っているようです」
たしかに、不審な物は購入していない。それどころか、病に伏せている祖父のために子どもながらに気遣って贈り物を選んでいることが窺えた。
「祖父思いの殿下のことだから、護衛にロゼッタ嬢を追わせていたのは、ロゼッタ嬢を気にかけているだけで問題ないのでは? 以前、ロゼッタ嬢が王城の茶会に呼ばれたという噂が社交界で話題になっているぞ」
書類を手に取って目を通していたヴィルフレードの言葉に、ダンテは怒りを覚えた。
彼にとっては単なる話題であるが、当事者の父としては許せないのだ。
「婚約者がいるのに別の令嬢を気にかける王子なんて、問題があり過ぎるだろ。その噂のせいでロゼッタが悪女呼ばわりされているんだから、迷惑だ!」
「たしかに、そのような噂を流されると、ロゼッタ嬢の縁談に影響しますね」
ソレチト伯爵が同情するように頷くが、ダンテの心配していることは、そのことではない。
ダンテの目が、カッと大きく見開いた。
「うちのロゼッタを誰とも結婚させるつもりはありません! 永遠にうちの子です!」
すかさず反対するダンテに、ヴィルフレードが引き気味で「おい、暴走するならよそでやれ」と突っ込みを入れてくる。
「話は戻りますが、昔――現国王が王太子だった頃も、よく土産物の絵画をうちの商会で買ってくださっていましたよ。あの時はたしか、故ジルダ王女殿下への見舞いの贈り物としてご購入されているのだと父から聞きました。見舞いの贈り物が似るなんて、さすがは親子ですね。それとも、先代国王陛下と故ジルダ王女殿下の好みが似ていたのでしょうか」
「……いや、もしかすると――先代国王陛下にではなく、故ジルダ王女殿下に贈っていらっしゃるのでは?」
不意にヴィルフレードが反対意見を述べたので、ダンテは訝しそうに眉を顰める。
彼は無責任なことを言わない。口にする言葉には、明確な根拠があるのだ。
「それはどういうことだ?」
「ここだけの話にしていただきたいのだが、先代国王陛下は退位前、あまり目が見えない状態だった。民を不安にさせないように隠されていましたが、陛下の近くで働く者には陛下を補佐するためにも周知されていたんだよ」
「なるほど、孫であるアリステア殿下はその事を知っているだろうし、祖父想いなら目が見えないのに土産物用の絵画を見せることはないだろうな。……それに――アリステア殿下が先代国王陛下のお見舞いによく行くのであれば、『魂込めの絵画』として描かれた故ジルダ王女殿下にもお会いしているだろう。ロゼッタの話によれば、噂通り先代国王陛下の近くに飾られているらしい」
死後、絵画の中に閉じ込められたジルダ――ダンテにとっては愛しいローゼは、今も外の世界に憧れているのかもしれない。
そのような推測が、ダンテの心を締めつける。
三人とも黙ってしまい、部屋の中は沈黙に包まれた。
しばらくして、ヴィルフレードが口を開く。
「もしかして、王族は先代国王陛下のために、珊瑚色の瞳を持つ子どもを攫っているのだろうか? あまり目が見えないなら、故ジルダ王女殿下と特徴が似ている子どもなら先代国王陛下にとっては、故ジルダ王女殿下に見えるのかもしれない」
「しかし、『魂込めの絵画』で本人がいるというのに、わざわざ似ている子どもを探すのはおかしくないか? 故ジルダ王女殿下が儚くなられたのは、成人してからだったいじゃないか」
「うむ……それもそうだな。いったいなぜ、王族は騎士を武装させて子どもたちを誘拐しては記憶を消して帰すのやら……」
ヴィルフレードとソレチト伯爵が頭を捻っている姿を横目に、ダンテは膝に置いている拳をさらに握りしめる。
嫌な予感がするせいで、そうしなければ気持ちが落ち着かなかった。
(まさか、ローゼに子どもがいることを知っていて、その子どもと再会させようとしている?)
思えば、彼らは城を抜け出したローゼのことをどこまで把握しているのかわからないでいた。
公に発表されることはなく、貴族たちの噂話で流れてくることもなかったため、知らないものだと思っていたのだ。
しかし、もしも子どもの存在を把握していたとして、王家に迎え入れるために探しているとしたら――。
ロゼッタと離れ離れになる未来を想像してしまったダンテは、両手で顔を覆う。
どうか、荒唐無稽な予想であってほしい。
(ローゼ、俺はロゼッタが王城の中に閉じ込められないよう全力を尽くすから――どうか、見守っていてくれ)
この王都の中で、絵画の中に魂を縛りつけられている最愛の人に、心の中で誓った。
籠の中の鳥だった彼女は、きっと娘が同じ運命をたどることを望まないだろう。
更新をお待ちいただき本当にありがとうございます。
本章のクライマックスが迫ってきましたので、まずは本章完結を、そして本物語が完結できるよう、執筆してまいります<(_ _)>




