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魔女に呪われた少女と、美しい支配人と  作者: 柳葉うら
第二部 秘密の庭の肖像画
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跡継ぎ令嬢は隻眼の護衛の秘密に触れる-上-

更新、大変お待たせして申し訳ございません!

 ゴンドラを降りたロゼッタは、オスカルに声をかける。


「オスカルさん、大丈夫ですか?」

「そ、その声は……ロゼッタ嬢……?」


 ファウストがむくりと起き上がる。そうして振り返った途端に、ぐらりと体のバランスを崩してしまった。

 

「ブルーノ、オスカルさんをお願い!」

「……」

 

 ロゼッタがまだ言い終えないうちに、ブルーノは素早く動いてオスカルの体を支えた。


 久しぶりに会ったオスカルは以前よりやつれており、おまけに顔色が悪い。


「ううっ……助けてくださってありがとうございます。王都は人が多すぎて、人に酔ってしまいました」


 オスカルは泣きそうな顔でそう告げた。


 事情を尋ねてみたところ、オスカルは気分転換のためにシルヴェストリ公爵家の屋敷からふらりと出て歩いていたところだったそうだ。


「立っているのもままならない状態ですし、シルヴェストリ公爵家の屋敷まで送りますわ」

「ううっ、すみません……」


 手間を駆けさせてしまったと気負いしたのか、オスカルはそのまま倒れてしまいそうな勢いで頭を下げた。


 そうして、ロゼッタとブルーノはオスカルを連れてゴンドラに戻り、シルヴェストリ公爵家の屋敷へと向かう。


 ファウストは約束通り、使用人たちにブルーノが来た時は通すように伝えてくれていたた。ついでに言えば、ロゼッタが来た時も通すように言ってくれていたらしい。シルヴェストリ公爵家の護衛騎士も使用人も、すんなりとロゼッタとブルーノを屋敷の中に入れてくれた。


「わたくしもブルーノも会ったばかりだというのに自由に出入りできるようにするなんて、警備が甘くて心配になりますわ」

「……」


 ブルーノもそう思っているようで、ロゼッタの背後でこくこくと頷いた。ファウストがこの先もロゼッタに言い寄るのであれば、密かに消すことができそうだ、なんて物騒な事を考えながら――。

 

 シルヴェストリ公爵家の騎士がブルーノに代わってオスカルの介助をすると申し出てくれたため、ブルーノは彼にオスカルを託した。


「あの、良かったら少し、お時間をいただけますか?」


 オスカルは騎士にぐったりと体を預けたまま、おずおずとロゼッタとブルーノに尋ねる。


「嬉しいお誘いですが、まずはオスカルさんの休息が必要ですわ。また今度にしましょう?」

「私は座れば問題ありません。それより、ブルーノさんの目について話すようファウスト様から言いつかっていますので、お伝えしたいのです」


 ブルーノの目。


 その言葉だけで、オスカルがブルーノの故郷について話そうとしているのかわかったロゼッタは、振り返ってブルーノを見上げる。

 

「ブルーノ、わたくしに遠慮しなくていいですのよ。聞きたいのであれば、せっかくだし聞いていましょう? その間、わたくしはその間、別室に居させてもらうわ」

「……ロゼッタ様も、一緒に聞いていただけますか?」


 ブルーノは請うようにロゼッタを見つめ返す。周りの人は気づかないほどほんのわずかだが、いつもより不安げな眼差しで。

 

 そんな彼のことを、ロゼッタはたまらなく愛おしいと思った。


「もちろんですわ。わたくし、ブルーノのことをもっと知りたいですもの。一緒に聞けて嬉しいですわ」

「……」


 ふわりと笑って答えるロゼッタに、ブルーノもまた目元を綻ばせる。


 ブルーノはその場に跪いてロゼッタを見上げる。


「……ロゼッタ様の時間を、私のために割いてくださってありがとうございます」


 そうして、恭しくロゼッタの手を掬い上げると、その手の甲にキスをした。


 ◇


 ロゼッタとブルーノは、オスカルのアトリエの二階に案内された。

 そこはオスカルの居住スペースとなっており、寝室や居間と浴室がある。


 ロゼッタたちがいるのは、居間だ。

 居間には大きな飴色の木でできた丸いテーブルがあり、テーブルを囲むようにして椅子が四つほど置かれている。

 

「どうぞ、おかけください」


 ロゼッタが椅子に座ると、ブルーノがその後ろに控える。


「ブルーノも座りなさい」

「……」

「あなたがオスカルさんと話す場ですから、わたくしに遠慮しなくていいのよ?」

「……かしこまりました」


 ブルーノは躊躇いがちに、しかしちゃっかりと椅子をロゼッタの椅子に寄せて座る。


 ロゼッタたちが腰かけたところで、タイミングよくシルヴェストリ公爵家のメイドたちがやってきて、お茶とお茶菓子を置いて退室した。


 オスカルを介助していた騎士も、丁寧に礼をとって部屋から出ていく。


「――ええと、ブルーノさんは自身がベルナクト人の血を引いていることを知らないようだとファウスト様から聞いたのですが、合っていますか?」

「……はい。私は物心がついた頃からみなしごでしたし、ベルナクト人という人種がいることを知りませんでした」

「ベルナクト王国はとても小さな国でしたし、侵略されたのは二百年ほど前で、それから様々な国が侵略したので、すっかり歴史上から消されてしまいました。だから、知る人はいなかったのでしょう。」


 侵攻されたのは、オスカルが国を出た後だったため、オスカルも当時何があったのかは知らない。


「私も、家族や友人の墓参りに行こうと思い立った時には、すっかり別の国の領地となっていたので驚きました。ベルナクト人が生きてきた歴史も、築いてきた文化も、なにもかもなくなっていたのです」


 当時のオスカルは既にシルヴェストリ公爵家の支援を受けていたため、当時の当主の力を借りてベルナクト人の仲間たちの行方を追ってみたが、奴隷として各国に売られてしまった事以外はわからなかった。


「ベルナクト王国は、ディルーナ王国からずっと北西へと進んだ先にある山岳地帯にありました。空が近く、ここでは見れない珍しい花が咲く美しい場所でした」


 その花を見るために、女神が現れるという言い伝えもあったそうだ。


 ベルナクト人は狩猟と農耕により生活しており、ディルーナ王国と同じ女神を信仰して、牧歌的な生活をしていた。

 

 他国との交流はほとんどなかった。稀に来る行商人が珍しい物を売りに来るので、他国の情報は行商人から聞く程度だ。


「実は国内に、薄紅色の水晶を採掘できる洞窟がありました。ベルナクト王国が侵攻されたのはひとえに、その水晶を狙ってのことだったのでしょう。その水晶は他国の者にとっては普通の美しい水晶ですが、ベルナクト人にとっては特別な水晶なのです」


 オスカルがゆっくりと手を動かし、指先を宙でくいっと動かす。その動きに合わせて、近くにある戸棚の引き出しが開き、中から小さくて簡素な木箱が出てきた。


 木箱はふわりと宙を浮いて、テーブルの上にコトリと音を立てて着地する。


 オスカルがその木箱を空けると、中にはロゼッタの親指ほどの大きさの薄紅色の水晶が入っていた。


「これは、国を出る時に父から貰ったものです。ベルナクト人は、子どもが生まれるとこの水晶を使って祝福の内容を調べます。父は、私に子どもができた時のためにくれたのですが、私にそのような機会はないのでブルーノさんにあげます」


 オスカルは水晶を取り出すと、ブルーノに差し出す。


「調べ方はわかっているので、私がブルーノさんの祝福を調べることができますが、どうしますか?」

「……」


 ブルーノは少しだけ逡巡したが、ゆっくりと手を動かして水晶を受け取る。


「……調べてください。私の祝福がロゼッタ様のお役に立てるかもしれませんから」



ゆっくりの更新ですが、完結を目指して引き続き執筆をしていきます。

暑い日が続きますので、お体にお気をつけてお過ごしください。

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