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魔女に呪われた少女と、美しい支配人と  作者: 柳葉うら
第二部 秘密の庭の肖像画
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跡継ぎ令嬢は路地裏で知り合いたちと出会う

更新、大変おませしました!

 ロランディ家を出たロゼッタとブルーノは、屋敷の前に停泊していたバルバート家のゴンドラに乗る。


 いつも通りではあるのだが、ブルーノが黙っているためゴンドラの上は静かだ。

 バルバート家の漕ぎ手(ゴンドリエーレ)がオールで漕いだ時に立つ水の音や、他のゴンドラに乗っている者たちの声だけがロゼッタの耳に届く。


 いつもならさりとて気にしないロゼッタだが、ブルーノを置いて外出してしまったこともあり、今はこの静けさが少々息苦しく感じられる。


 気まずさを紛らわせるためにチラリとブルーノの様子を窺うと、視線がかち合ってしまった。


 凪いだ湖のような水色の瞳に真っ直ぐに見つめられて、ロゼッタの胸はドキドキとする。耳にその鼓動が届くほどだ。


「ブ、ブルーノ、一緒に祭りに行ってくれて?」


 咄嗟に出たロゼッタの問いに、ブルーノは大きく目を見開く。ややあって、整い過ぎて冷たさを感じる美貌を崩すと、花が咲き綻ぶようにふわりと微笑んだ。

 

「……もちろんです。それに、お誘いがなくても護衛と称して一緒に行くつもりでした」

「ふふ、わたくしも、たとえお断りされても連れていくつもりでしたわ」


 もちろんブルーノが断るはずがないとわかっている。それでも改めて彼から聞かせてもらうと心が躍る。


 そんなロゼッタの気持ちを察したブルーノは水色の瞳を蕩けさせる。愛する小さな主が自分を望んでくれている。それがこの上なく幸せだ。


 ブルーノは微笑みながら、ロゼッタの嬉しそうな表情を存分に眺めて堪能した。


 屋敷に着くまでロゼッタを見つめていたいと密かに思うブルーノだが、不意に自分たちを監視するような視線を感じ、内心舌打ちをして周囲に視線を巡らせる。


 運河に面した路地に視線を走らせたが人影はない。おそらく身を潜めてこちらの様子を探っているのだろう。


 ブルーノは神経を張り巡らせて人の気配を探知する。路地の建物から二人ほど、地味な茶色の外套を身に纏い、フードを深くかぶっている人物を見つけた。

 

 以前、路地裏で少女を誘拐しようとしていた人物と似ている。


 ブルーノは雷魔法で攻撃しようとした矢先、茶色の外套を着た者たちはひらりと踵を返して姿を消した。


 できることなら追いかけて捕えたいが、自分がロゼッタのもとを離れている間になにかあってはならない。ブルーノは茶色の外套を着た者たちがいた場所を睨みつける。


「あら、ロランディ侯爵ですわ。こんなところで何をなさっているのかしら?」


 ロゼッタの視線の先、茶色の外套を着た者たちがいた場所から少し離れた場所に二人の男の姿を見つけた。

 黒髪を丁寧に撫でつけた眼鏡の男は、ロランディ家の当主でエルヴィーラの夫のヴィルフレード・ロランディだ。


 もう一人の男は平民のような服装だが、以前ロランディ侯爵家に招かれた際に顔を見かけた護衛騎士だから、ヴィルフレードを護衛しているのだろう。


「ロランディ侯爵、ごきげんよう」


 ロゼッタが声をかけると、ヴィルフレードはロゼッタに目を向けて微笑む。

  

「ロゼッタ嬢、エルヴィーラとの茶会はもう終わったのかい?」

「ええ、とても楽しい時間を過ごさせていただきましたわ」

「それはよかった。エルヴィーラが聞いたら喜ぶよ」


 ダンテとは顔を合わせるや否や喧嘩を始めるヴィルフレードだが、ロゼッタにはいつも善き紳士として接している。


 支配人になるために六歳の頃から美術品や経営について貪欲に学ぶロゼッタの勤勉な姿勢を好ましく思っているらしく、ロランディ侯爵家の書庫にある蔵書を好きなだけ借りていいと言ってくれた。


「ところで、ロランディ侯爵はどうしてこのような路地裏に?」

「所用で少し、調べ事をしていてね。あまり目立たないようにここを通っていたんだ」


 侯爵家の当主がわざわざ足を運び、人目につかないよう気をつけているという事は、かなり重要な調査なのだろう。そう思ったロゼッタは詮索しない事にした。


「まあ、そうでしたのね。呼び止めてしまい申し訳ございません」

「ロゼッタ嬢が話しかけてくれたおかげで嬉しい話を聞けたから感謝するよ――ところで、護衛の君。最近は街中が物騒だから、ロゼッタ嬢からはできる限り離れないよう気を付けててくれ」

「……」


 ブルーノは口を固く閉ざしたまま首肯した。


 先を急いでいるだろうヴィルフレードに気を遣い、ロゼッタは手短に別れの挨拶を交わす。


「それにしても、やつらを追いかけて辿り着いた先にバルバート嬢がいたとは……」


 去り際にヴィルフレードが小さな声で零した言葉を、ブルーノはしっかりと聞いた。


 どうやら先ほど見かけた茶色の外套を着た者たちはロゼッタを狙っていたようで、ヴィルフレードはそんな彼らを追っていたらしい、と頭の中で結び付ける。


 ヴィルフレードが誘拐事件の捜査に加わったことはダンテから聞いていたためなんとも思わないが、ヴィルフレードが追っていた者たちがロゼッタを狙っていた事が気がかりだ。


 以前、路地裏で平民の少女を助けた時に、国王が現れた際に犯人たちが逃げてしまった。

 あの時、ロゼッタの瞳を見た犯人たちは、彼女を次の獲物に定めたのではないだろうか。


 もしそうであるのならすぐに後を追い、誘拐犯の仲間を全員見つけ出して殺したいところだ。


 殺気立つブルーノの隣で、ロゼッタが「あら」と声を上げる。


「あの方はオスカルさんですわね? トビアさんから聞いた話によると、オスカルさんは屋敷に籠っているか、変装して出かけると聞いていましたのに」

「……」


 ロゼッタが指差す先、運河にかかる小さな橋の欄干にぐったりとよりかかるオスカルの姿が見えた。


「顔色が悪いようですわ。ゴンドラを降りて、声をかけてみましょう」

「……」


 ロゼッタが他の男を気にかけることは不満だが、ちょうどオスカルにはベルナクト人の持つ祝福について聞きたいことがある。


 ブルーノは不承不承頷いた。

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