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第17場 ルカウドの親友・中

 わずかな沈黙の後、彼は私をまっすぐ見つめる。

「アン・フォークスは、ルカですよね?」

「いいえ」

 動揺を抑え、即答できた私を誰か褒めて欲しい。

「魔法で姿を変えていたのではないですか?」

「確かにそういう魔法はある。でもあれ、十秒も維持できないやつだからね?」

 本来の姿より縮めば押し潰されるような、伸びれば引っ張られるような痛みに襲われる。私も一応試してみたことがあるけれど、少しの変化なのに尋常ではない激痛だった。出産を凌ぐという経産婦の証言もあるほどだ。

 どういうわけだか、ルカウドは前世の姿に限ってそういう不具合がないらしく。しかしながら理由はわからないとのこと。

 ともあれ周囲に知れればルカウドが引っ張り回されることは必至なので、これも二人だけの秘密にしている。

「知っています。でも、ルカなら……誰も知らない抜け道を、知っているかもしれない」

「ないない」

 ニコラスくんを信用していないわけではないけれど、本当に隠したいなら、知っている人は一人でも少ない方がいい。

 煙幕玉は偶然だと思った。違和感を覚えたのは、奥へ連れて来られた時だ。いつものニコラスくんなら一人で取りに行く。私にご足労を願ったりはしない。

 そしてどう見ても密談用の部屋へ入れられて、私に何か訊きたいのだと察した。更にブロールまで出てくれば、アンについての何かともわかった。

 ただ、それでもせいぜい繋がりを怪しまれているくらいだろうと。まさか核心を突かれるだなんて。

 さて、どうしようか。このまましらを切り通すべきかーー次の出方を窺えば。

 彼は深々と頭を下げてきた。

「お願いします。本当のことを教えてください」

 少し迷った。言い換えると、少ししか迷わなかった。

「尋問まがいに続けてくれれば、気分悪いって話を打ち切れたのに」

 あーあ、と。私は彼の旋毛から視線を外し、これ見よがしに息を吐いた。

「じゃあ――」

「なんでもは無理だからね? でもあなたの本当に知りたいことは、たぶん答えてあげられると思う。あと他言無用でお願い」

 嬉しそうに顔を上げたニコラスくんへ、きっぱりと断りを入れておく。

「ありがとうございます」

 彼は落胆した様子もなく、素直な感謝を表してきた。

「アンは無事よ。でもこのまま死んだってことにしといて」

「わかりました」

「罪に問われるようなことはしてないから、そのあたりは心配しないで」

「彼らを裁いた(・・・)のは、ルカではないんですね?」

「まさか。襲われたから殴り倒しはしたけど、それだけよ。むしろ殺さないように手加減してたくらい。森で会った魔獣が任せろって言ってくれたから、そのまま任せてきたの」

「やっぱり森へ入って……魔獣と話したんですか?」

「ええ。運よく話のわかる相手に当たったみたい」

 なんて残酷な所業と世間が眉をひそめた彼らの裁きを、ルカウドは静かな「そうですか」の一言で受け止めた――まるで、想定の範囲内とでも言うように。

 同意を求められなかったこともあり、私は否定も肯定も口にしなかった。彼らの末路は自業自得としか言いようがないけれど、人を再起不能まで破壊する行為には抵抗があったからだ。

 以降もこの対応の是非をお互いに問うことはなく、今に至っている。

「他に訊きたいことは?」

 ニコラスくんは少し考えた後、

「ありません」

 少し困ったような笑顔を浮かべながらも、はっきりと言い切った。

「……本当にないの?」

「僕はルカが何をしてくれたのか知りたかっただけで、ルカの秘密を暴き立てたいわけではありません。僕の分まで抱え込もうとしているわけではなく、ただ言いたくないだけなら、秘密にしてくれていいんです」

 驚く私へ、ニコラスくんは穏やかに返した。

「隠れてアナベルさんに訊くこと自体、本当は控えるべきなんだと思います」

「どうせルカのことだから、取り付く島がないんでしょ?」

「……はい」

 ニコラスくんは静かに肯定した。

「ルカは何も言ってくれません。お礼も言わせてくれないんです」

 これは恨み言なのだろうか。憤りのようなものは一切感じられず、自らの力不足を恥じているように見えた。

「あなたは十分ルカを助けてくれてる。あなたがいなかったら、あの子きっと今でも単語くらいしか話せてないと思うし」

 ニコラスくんと出会った当初、ルカウドはまだこちらの言葉をほとんど話せずにいた。家族以外の人を拒み、交流する意志を失っていたあの子は、学習意欲に乏しかった。

 どうにかしたのは、目の前の彼だ。

「それを言うなら、僕だってまともに歩けていませんよ。ルカは人生で一番つらい時にできた友人です。ルカと出会っていなければ、今の僕はありません」

 彼が視線を落とした右足――そこに彼本来の足はない。見た目からはわからないほど、ルカウドが誂えた義足は彼になじんでいる。

「あなたにもう訊きたいことがないなら、今度は私が質問してもいい?」

「どうぞ」

「ルカがアンだと思った決め手は何? 魔法で姿を変えるというのは、あくまでそういう方法もあるというだけ。普通ならアンは協力者って考えるでしょ」

「ルカは彼の調査を、内々に進めたがっていました。なら、アナベルさん以外の手を借りるとは思えません」

 断言されてしまった。さすが唯一の友人だけあって、正確な読みだ。けれど……、

「もっとないの?」

 相手がニコラスくんでなければ、妄想と一蹴するところだ。

「あります。きっかけは、知人からの相談でした。彼はアラン・カレフといって、衛視をしているのですが――」

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