お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~王族だから~
ストック最後。……これからどうすれば??
とりあえず、次話はティアとセシルの会話を入れます。核心に近づくかもなお話のなので、あんまり楽しくはないかもしれないです。
「だから、きちんと言うよ。俺の大切、は君が好きだってこと」
誰よりも。
「誰よりも、君が好きだよ。君がいるなら、公爵家の爵位も、大臣の地位も、何も要らない。君がいればいい。ねぇ、ちゃんと分かってる? 俺は君に恋してるんだよ?」
「……ど、して」
どうして、そんなこと言うの? 違う、そんなことが聞きたいんじゃない。『どうして』じゃない。『どこが』だ。
「わたしが、王族だから?」
王族だから、大切にしてくれるの? そんな言葉が、口から零れて、まるで僻んでいるみたいに、自分自身を哀れんでいるみたいに思えた。
こんな聞き方がしたいわけじゃないの。
だけどこういう聞き方しか考え付かなくて、悲しくなる。ティアみたいに自信を持てば、にっこり笑ってお礼の一つでも言えるのかな。
残念ながら、自分はそういうことには疎かったし、今だっていまいち彼の言っていることを理解している気がしない。
嬉しいけど、嬉しいんだけど、素直に嬉しいと言えなかった。
「グレイス。それ、本気で言ってるの?」
「だってっ」
だって、こんな。
「こんな、下町育ちの娘のどこがいいの……っ」
ティアに少し似ているだけで、美人なわけじゃない。
立ち振る舞いが美しいわけでも、教養があるわけでもない。特別な才能はないし、ただただ甘やかされて育った世間知らずだ。
そんな子を、セシルが好きになるわけがない。
彼は、公爵家の跡取りだ。
彼の父親が爵位を譲れば、彼は公爵様で、ゆくゆくはこの国の大臣になろうとする人だ。そんな人の隣にいるのは、美しくて賢い人だろう。そういう人のほうが相応しい。
彼の声が少し怖くなって、余計下を向いて彼の顔が見れなくなった。
考えれば考えるだけ、自分のいいところなんか見つからなくて、ただ悪いところばかり浮かんでしまう。そんな育てられ方、したことなかったのに。
いつだって、孤児であることさえ、恥じたことはなかったのに。
「セシルにはっ」
そこまで言って、ぐいっと頬を引っ張られた。
しっかりと彼と顔を合わせる形になって、やっと自分が口に出している内容を確認した。……今、なんて情けないことを口にした??
「ごめっ、セシル。ごめんなさい!」
「それは、俺が謝って欲しくもない事柄に対する謝罪だよね?」
背筋から凍るような声を出されて、びくりと肩が震えた。
支えられている腕が力強くわたしの頬を固定して、下を向くことを許そうとはしない。あくまで、目を見合わせる形を保っていた。
「違う。ちゃんと、セシルに対して」
「俺は、自分がグレイスからどう見られていても困らない。そういう風に見られていたのは、俺にも責任があるのかもしれないから。
だから、俺が家柄や立ち振る舞いや、容姿なんかで将来の妻を決めるような男に見られていたんなら、俺の責任だ」
違う、違うよ。セシル。
そんなこと、言ってない。そういうことが、伝えたかったわけじゃない。
だけどもう、否定することさえ許されなくて、声が出なかった。搾り出すように、言葉を紡ごうとするのに、声帯を揺らす空気は掠れていて、わずかな音さえ出すことが出来なかった。
「だから、そのことについて謝って欲しいんじゃないんだ」
もし、君がどうしても謝りたいんなら。
「俺の気持ちを、安く見積もったことを謝って」
すごく、傷ついた声だった。
聞いたこちらが泣いてしまいそうになるくらい切なくて、彼に抱きつく。どうして、上手く言えないんだろう。
好き、なのに。大切なのに。大好きなのに。
「ごめんなさいっ。ごめ、ごめんなさっ」
ぎゅっと力を入れて、彼が痛いと思うくらい強く抱きつく。
だけど彼は何も言わず、わたしの抱擁を受け入れていた。突っぱねられたらどうしよう、という心配は見る間に溶けて、代わりにあるのは痛いくらいの愛しさだ。
「君が、王族だから好きになるわけないだろ?」
君が、王族だと知る前から惹かれていたのに。
楽しそうに話す君が、可愛くて愛しいと思ったのに。できれば守りたくて、また話したくて、君の素性を調べようとさえしたのに。
その過程で、ティアが君の事を調べていることに気がついて、余計気が急いていたんだけど。
そんなふうに、いくつもいくつもセシルはわたしの耳元で囁いた。
抱きしめる力を緩めても、セシルの抱きしめ返す力を緩めてはくれず、ただぎゅっと力を入れたままだ。
「君が、君だから……グレイスだから、好きなんだよ。だから、悲しいことを言わないで。王族だから、とかそんなこと、もう二度と口にしないで。
釣り合わないとかも、言わないで。怖く、なるから」
僅かに震える声が痛々しく、またごめん、と口に出して謝った。
「俺が、君に相応しくないのかもしれないと思ってる」
「ど、して」
彼の声も、わたしの声も驚くほど涙で濡れていた。彼が、泣いているような顔で、泣いているような声でわたしに言葉を紡ぐ。
「君は、世間知らずと言うより、素直なんだ。世間の穢れなんて関係ないところで育って、ここまで来た。だから、政に携わり、色んなことを見てきた俺には釣り合わないのかもしれないって思う」
綺麗、だという。
世間知らずで、何も持たないわたしを。
「君は、綺麗だよ。容姿もだけど、その心が、何より綺麗だ。――君の心の清さは、ティアが持たないものだし、誰にも負けない」
頬に触れ、首を傾げてセシルは口に出した。
「だから、君が好きです。君を、守らせて?」
その言葉がどんな言葉より嬉しくて、何もかもを忘れて頷いた。自分が王族だと言うことも、謀反人の娘だと言うことも。
「大好き、です。セシルが、大好きっ」
「うん。きちんと伝わったよ。グレイス。ありがとう」
愛してるよ、というその言葉に、わたしもよ、と笑って返す。
それができるまで、どれだけセシルを傷つけてしまったのか、傷つけた側のわたしは分からない。だけど、それでも許して欲しいという思いを込めて、幾度も繰り返した。
『大好き』
『愛してる』
いい足りない、と感じたのは、どうしてだろう。
……この言葉が、この後どんな問題を起こすかなんて、想像さえしなかった。
『謀反人の娘』が、次期宰相の息子と一緒にいるということが、どれだけ回りに影響を及ぼすかなんて、全く考えなかった。
それは、まだ自分が幼くて何も分かっていなかった証拠なのだろう。少しでも、考えてみれば分かったはずなのに。
そんなこと、周りが許すはずもないと。
……セシルの愛の告白は、わたしには難易度が高すぎでした。
何あの人、あんなに簡単に愛してるとか出ちゃっていいの?! な感じでした。でも彼は彼なりに悩んで、こんな答えを出したのかなぁとも思う。
けど、アレクに慣れているわたしには、ここまで饒舌な愛の告白は至難の業でした。(書くにあたっての参考、ちびアレク(大人ではないところが……))
そして書いてみて、改めてグレイスとティアって違うんだなぁと。
グレイスは謝ることで許しを請うけど、ティアって謝らずに罪悪感を被る子だよね、とか。
面白いね、この二人……とか、キャラ設定忘れかけてる作者がのたまってます。