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姫と騎士  作者: いつき
番外編
82/127

お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~噂話~

 ここから予約投稿になります。週に一回、多分火曜に更新される、はずです。わたしが上手く設定しているのならば。

 もしできていないようでしたら、また普通の投稿に戻ると思いますが。(笑)

「セシル殿、噂を聞いたんだが」

「どんな噂でしょう」

 そんな確信をもてない、みたいな顔をしないでください。大臣方。

 あなたたちが独自のルートでとっくに裏をとっていることは知っているんだから。ティアさえ及ばぬと言われるその情報網。しかし侮ってもらっては困る、こちらも一応大臣補佐だ。

 伊達に父に使われていないし、ティアに仕えていない。あの二人に使えると思われるには、それ相応の実力がないとダメなんですよ。

 まぁ、しょせんそれなり、ですがね。

「リシティア姫が、……王族の血を受け継ぐ者を、見つけてきたとか」

 つい最近まで、人事を担当していた大臣。この前賄賂の問題が取り沙汰され、命からがら助かったとか。(これは比喩でも何でもなく、だ。ティアが生半可な罰を与えるはずもない)

 命拾いしたわりに、まだティアと敵対するつもりか。

「しかも、16年も前に家を取り潰された、エインワーズ家の娘だと」

 こっちは何だったろう。もう覚えてさえない。――たぶん、ティアも直接罰してないから覚えてないかもしれないな。こっちは女性関係だったか。(政をするつもりがあるんだろうか)

「いったい、何を考えられているのやら」

 またそうやって、ティアを引きずり落とそうとするのは、あなた方がヴィーラ様の親戚筋だからか。この前のノルセスの件でさえ、あなた方への牽制にならないのか。

 はたまた、自分達は大丈夫だとでも?

 ティアの心配をしているようで、この人たちは『何か』を恐れている。

 おそらく、ばれてはいけない、16年前のことだろう。探りを入れればすぐ引かれるのは目に見えているので、あいまいな態度で誤魔化すことにした。

「さぁ、よく知りませんが、後々王女から説明があるでしょう」

「リシティア姫にも困ったものだ。御年16歳にもなられるのに、いまだ政治というものが分かっていないらしい」

 馬鹿を言っちゃいけない。

 あの人はあんたたちよりよっぽど、その『政治』というものを知っている。俺達よりよほど先見の明がある。そんな彼女が、考えもなしにそんなことをするはずもない。

 ……それを分からないはずもないだろうと思うんだけど。

 もうあんた達を尊称で呼ぶ気すら、心の中で敬語を遣うことすら、嫌になる。

「謀反人の娘を、王族の血として認めるなど、あってはならん」

 ぐっと、手を握り締める。違う、とどうしても言いたかったが、ここで発言することの危険もまた十分すぎるほど自覚していた。

 一回の失言が命取りになる。ここは、そういう場所だ。下手をすれば、ティアの身さえ危険に晒しかねない。それは御免こうむる。

 ただでさえ、弟から嫌われているんだ。これ以上嫌われる材料を増やしてどうする。

「病床の王様も、どんなお気持ちで聞かれているか」

 心配しているような顔で、声で、あんたたちはそれを言うのか。

「私には、計れませんから。彼女の考えは」

 するりと抜けようとした瞬間、古狸どもはにやりと笑って、こちらの腕を取った。

 あぁ、まさかこの人たちはそこまで深く知っているのか。侮れないな、さすがにこの年まで政に関わってきたことはある。

「――噂だが、君の噂も聞いたよ」

 何を、言うつもりなのか。この人たちは。

「君が、その娘に夢中だと」

 うるさい。

「何でも、リシティア姫が護衛役に任命したとか」

 簡単に彼女を話しに巻き込むな。

「漆黒をもたぬ、当主『候補』が」

 馬鹿にしたような、嘲笑するような、そんな声が降ってきて、一度だけ目を閉じる。

 こんな言葉、もう慣れっこだ。小さい頃から言われ続けたそれは、今ではもう歯牙にもかけないような言葉だ。その、はずだった。

 しかし未だコンプレックスが抜けないのか、ヒンヤリとした感覚が胸を滑り、心から何から全てを凍らせていく感覚がある。

 漆黒をもたぬ、か。

 確かに自分は、父とアレクの持っている漆黒の髪と瞳を持たない。そしてそれが何だ、というほど強くはまだなれない。

 ティアがいくら言ったって、平気に流せるほど人間が育ってないのだ。

「それは、父が決めることです。この黒髪は、跡継ぎの証明ではない。父も、兄にそう言っているはずですが?」

 いつの間にか、後ろから声が降ってきた。紛れもない、我が弟の声だ。そしてすぐに、その言葉に被る声も振ってくる。

「そうよ。漆黒を持つものが、当主になるなんて決まり、なかったはずだもの。こんなところで油を売っている暇があるなら、早くお行きなさい。さもなくば、セシル云々の前に……」

 凛とした、王女の声だ。今はその声が、何よりの救いのような気がした。できれば、グレイスの声で救ってほしかったなぁ、なんてもう色ボケした考えが浮かぶ。

 結局、自分はそうやってティアにもグレイスにも助けられているんだ。余計なことなど、考えないように、と。

 ヒンヤリ、と違う意味の冷たさが背を伝う。その後の言葉など、聞かなくても分かる。『大臣職から引き摺り下ろすわよ』なんて本当に言いそうで怖い。

「リシティア姫」

「王に会うために来ました。どきなさい」

「姫様。この娘がまさか」

 振り返って、彼女を見る。

 グレイスが所在無さげに立っており、その隣には先ほど冷たい声を出したティアとアレクが立っている。大臣相手に真正面から啖呵を切ったのは、多分初めてだろうアレクは背筋を伸ばしていた。

「何か? わたしはまだあなたたちに、話してないはずだけど?」

 分かっていて言っているのだから、ティアも相当性格が悪い。この人たちにばれていることなど、とっくに承知だろうに。

 隠すことなど、古狸には出来ないのは百も承知だ、とでも言いたげだ。

「いえ、あのっ」

「何も話してない内容を、あなた方が知るはずないわよね? そうでしょう?」

 にっこりと笑った後、下がりなさい、と優雅に指示を出す。

 それに逆らえるはずもなく、大臣達はすごすごと後退った。その笑顔は阿修羅より怖い、なんて言ったら言い過ぎだろうか。

「油を売っていたようね、セシル。自分のいるべき場所へお帰りなさい、あなたも」

 その笑顔がそのままこちらへ向いた。

 おお怖い、とふざけて笑うと、さっさと行けとでも言うように廊下側を手で指し示す。なるほど、ここに俺がいたら邪魔ってことか。

「大臣達の荒でも探してきますよ。ついでに16年前の真相でも」

「忘れないで頂戴。いつだって、グレイスの護衛ぐらい変えられるのよ? 自覚して」

 冷たい声に怯えるわけもない。いや、内心冷や汗モノだけど、隠して笑うことが出来るくらいには、図太くなったつもりだ。無駄に貴族として生きていない。

「それは怖い。真面目にやりますよ」

 グレイスに笑いかけると、彼女は強張った顔を少しだけ和らげて笑い返してくれる。『頑張って』と耳元で囁くと、『頑張る』と張り詰めた声が返された。緊張しているらしい。

「アレク」

「何か?」

「君も、恋する人間なら分かるだろう?」

 二人の会話はそれだけで十分だ。

 ……妙なところで切ってしまった。

 アレクとセシルの会話は、個人的にギクシャクしつつも、なかなか面白そうだなぁと思ってしまいます。

 相手にお互い負い目がある感じなので、どうしても気を遣いすぎなところがある感じです。


 さて、これ、一応恋愛モノなんだけどなぁ、と思いつつ書いてます。陰謀ばかりですが、徐々に糖分増やしていけたらいいなぁ。

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