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姫と騎士  作者: いつき
番外編
78/127

お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~奪う人~

 ちょっとだけ意地悪ティアちゃん。あぁ、本当にストックがなくなってまいりました。4~5話載っけたら、いきなり数ヶ月音信普通状態……とか、ありえます。

 ちょうど受験時期ですし、その頃。更新にそんなに時間がかからないので(ストックさえあれば)、更新は出来ると思います。

 少しでも楽しみにしていてくだされば。

「お帰り、セシル。お姫様を説得することはできたかしら?」

 にっこりと美しく笑うティアに刃向かうように、彼女の前に立った。不敬だとかなんだとか、もうこの際関係ない。そういう思いを込めてセシルは立つ。

「相変わらず、やり方が王族的ですね。身勝手で、人のことなど微塵も考えていない。彼女の気持ちなど、歯牙にもかけない」

 吐き捨てるように、そう言った。そう言ったところで彼女が傷つくわけもないし、またその態度を正そうともしないだろう。

 だって、彼女は事実、王女様だから。

 悔しいのに、決定的なことは何も言えず、セシルは歯噛みした。

「命の前では些細なことだ、とまぁ、言えないわね。さすがにわたしでも。言ってもいいけど」

 ふわりふわり、と彼女は笑う。あぁ、この人には何もかもお見通しなのかもしれないと思ってしまう。

「あなたがどんなに彼女を愛しても、彼女があなたを愛しても、わたしには……関係のない話よ、セシル。わたしが何より守りたいと思うものは、父と母が愛したこの国。わたしの中に流れる血が愛した、この地の民。

あなたたちの愛が、恋がどんなに神聖なものだろうとも、この地を犯すものは許さない」

 目が怖いと思った。それ以上に、やはり彼女は『王』なのだと思った。自分の血脈が、国を捨てることを許さない。

 自分にはないものを感じ、セシルは少しひるんだ。分かっていたことを改めて感じて、動揺しているのかもしれない。

 今更ながら、ため息をつきながら思う。生まれながらにしてのその気配は、こんなことで揺らぐはずもないのだ。

 たった一人の人生を壊したからって、何千何万という命という命を背負う彼女が痛手を負うことはないのだ。

「あの子を、王室の人間として躾し直します。その振る舞いから、話し方から、全て」

「それは、彼女を否定しているのですか? ……いい加減にしてくれ、ティア」

 思わず、声が出た。敬語も何もつけない、ありのままの言葉だ。グレイスのことになると、冷静さがなくなってしまう。それはいつか、彼女自身を殺してしまいそうで恐ろしくなる。

 この熱情が、想いが、いつか彼女の首を締め上げて、殺してしまうかもしれないのだ。それが、ひどく怖かった。

「否定? 何を否定するの? 彼女は元々、もう『死んだ』人間なのよ? どうやってそれを否定するの?」

 恨めしいのか何なのか、分からず彼女の手を掴みかけた。しかしその手は宙を掴み、反対に掴まれた。誰か、なんて分かりきっている。彼女が心底信頼している騎士ナイトだ。

「ただいま帰りました。リシティア様。随分、私の愚兄と仲がよいのですね」

「何を怒っているの? 仲良きことは、良いことよ? あなたのお兄様はわたしの親戚が大好きみたい。あぁ、ならば一緒になればいい。何を驚いているの? わたしの親戚は王族の血を持つ。ボールウィン家次期当主の妻として、十分だと思わなくて?」

「ティア……っ。君はっ!!」

 君は、どこまで俺をバカにすれば気が済む? どれほど俺のものを横から掻っ攫えばいい? どうすれば君は。

 俺から何も奪わず、奪ったものを返してくれる?

「分かったら行きなさい。未だあなたは大きな実績一つ上げていない、ただの大臣補佐。ボールウィン家の長男であるからといって、実力がないことが分かれば大臣にはなれない。あぁ、その容姿もだったわね」

 彼女の言葉は真実で、心に刺さった。セシルの、一番温かくて柔らかいところに刺さって、ずきりと痛みを広げていく。

「グレイスを助けたいなら、方法は一つ。16年前の事件を調べ直しなさい。徹底的に。一つ残らず。わたしが、疑問の余地を持たないほど全てを明らかにしなさい。それができれば」

 あなたの望むものを、『返して』あげる。

「わたしに、怒ってるの? 未だ自分の力で何一つやりきっていないあなたが、わたしに? 怒るだけなら誰でもできる。怒りに任せてわたしを罵ることだってね。殴りたいなら、殴ればいいわ。今のあなたに、できるならね」

 それは身分の違いではない。俺が家臣で、彼女が王女だからできないのではない。彼女はすでにいくつかの大きな仕事をやり終えた。いくつもの、試練に立ち向かった。俺には想像できない苦しみも、孤独さも、きっと知っている。

 だけど俺は、何一つ、彼女に勝てるものがない。四つも年下の彼女に、いつも教えられてばかりだ。

「いいえ。できるわけがありません」

「そうね。さすがに殴るなんてできないわね。無理なことを言った。下がっていいわ。言うまでもないけど、今の発言も全て、不問に付します。だからアレクは何も口出ししないこと。いいわね?」

 彼女が席を立ち、こちらへ歩いてくる。それから俺の目の前で立ち止まり、両手を広げて俺を抱きしめた。

「セシル。強く、彼女を守って。何があっても、何を言われても負けないように、彼女の傍にいなさい。どれほど嫌だろうと、彼女の顔を見たくなくなろうと」

 傍に……。それだけで人は、強くなれることがある。それだけで人は、一人で立てるようになる。その力をくれるのは、紛れもなくわたしにとってのアレクであり、彼女にとってのあなただわ。

「どういう、意味ですか」

 傍に、いるだけでは守れはしない。事実明日から彼女は様々試練に立たされるだろう。俺なんかで、彼女を支えられるとは思えない。むしろ支えられるのは、俺の方じゃないか?

「またあなたはそうやって言うの? わたしへの怒りは、忘れないように。決して」

 あぁ、殺してやるってくらい恨んでもいいわよ。実際に刃向かわないのならば、何を思っててもいい。

「行きなさい。明日からあなたは事件を解明する任務と、彼女の傍にいる任務の両方に就くのだから」

 最後の、笑った顔は優しくて、彼女は変わってしまったと思った自分が間違いだったことに気がついた。いつまでも、彼女は彼女のままなのだ。誰よりも、美しくて気高い。

 一生、彼女には叶わないのだ。結局、彼女への怒りはその思いに昇華され、消えずに残る。忘れるはずはない。いつだって彼女は、俺の指針だ。

 どんなに憎いと思っても、その白い首に指をかけようと思っても、どうしても最後の最後で心の底から嫌悪し、憎むことなどできはしない。

 それは、自分がこの国の国民だからなのか。それとも……。

 単純に幼い頃憧れ、傍にいたいと願ったからなのか。そんなこと、もう確かめることなどできはしないけれど。

 めんどくさい性格だ、相変わらず。

 ティアちゃんはセシルのことが大好きですが、セシルはあんまりティアちゃんが好きだと表にだしませんね。

 それがティアちゃんは結構悲しかったりして。彼女にとって、セシルもまた幼い頃に遊び、一緒に励んだ仲間だからです。

 髪も、瞳の色も関係なく。そういうことに、気がついてほしいなぁ。

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