お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~冷たい城~
明日からテストなので、来週の火曜日にきちんと更新できるかは未定です。受験しつつも、何だかんだ言いつつ、自分のしたいことが出来たらな、と思います。
文章書いてないと、ストレスたまりそうだから。滞ることもあると思いますが、温かい目で見守ってくだされば。
「でも、セシル。あのね、あの色ね……」
迷ったように、グレイスが口を開いた。彼女が言うとおり、真っ黒な色はあまりよいものではないのかもしれない。
確かに、彼女と並ぶと華やかさが足りないなと思う。が、アレクとリシティアが並ぶと一対の絵のようになることを知っているので、似合わないとも言い切れない。あの二人を思い出し、口に苦いものが広がった。
これがどちらに対する嫉妬心なのか、分からないことにも苛立ってしまう。自分は、何を羨んでいるのか。何を、妬んでいるのか。
セシルは唇を一回噛んで、グレイスを見つめる。
「ちょっと、怖いの。あの、何色にも染まらないから、何ていうか……」
そこから、動いちゃいけないみたいな気がして。決められたことに、ずっと縛られてるような気がして。
「だから、セシルの髪の方が、わたしは好き。目の色だって、好き」
わたしより、綺麗な色してるよね。
屈託なく笑う彼女の笑顔に笑い返す。そう言ってもらえると嬉しい。だけどね。この世界では違うんだよ。貴族の中では個人の『好き』なんて何の意味も持ちはしない。
そういう気持ちを込めて、セシルは笑う。
「グレイスの色も、俺は好きだよ」
国民全てが美しいと認める、我らがお姫様のそれよりも、ずっと綺麗だと思う。
淡い金髪は、はっきりと曲線を描くことはないけれど、優しく光を弾くし、翠の瞳は好奇心に満ちているとききらきらと輝く。
グレイスを見つつ、思い出すのはあのお姫様だ。それを苦々しく思って、セシルは頭を振った。彼女を、好きなわけではない。ただ忘れられないくらい、印象深く心に残っていることが多すぎるだけだ。
「そう? ありがとう」
でも、そうだね。そう言ってくれる人は、いなかった。今までずっと、いなかった。この髪と瞳の色で、何の関心も示さなかったのは、ただ一人。遠慮知らずなあのお姫様だけ。
落ち込んで、コンプレックスの塊だったセシル自身に、『情けない』と『そんなこと、関係あるの?』と言ったのは、ティアだけだ。
「……ティアには、『そんなことで落ち込むくらいなら、実力を見せてから泣けばいい』と言われたっけ」
泣くのは後だってできる。髪と瞳のせいにするなら、ボールウィン家以外の人間にだってできる。わたしに言われて少しでも悔しいと思うなら、アレク羨ましいと思うなら。
「まずはやってみればいい、か」
わたしにもし仕えるなら、わたしは髪と瞳の色なんかに頓着しない。確かにわたしにはない漆黒の髪と瞳は美しいと思うけど、仕事ができないなら観賞用にでもして隅においておくわ。
そんなことを言われた。
アレクに対しても、そんなことを言ったのかと思うと、本当に驚くよ。ティア。あれだけボールウィン家に信頼を寄せておいて、そんなことを言える君が。
親戚中の前で、『セシルが優秀なら、たとえ当主でなくとも大臣にする』と言った、彼女が。
「セシルは、リシティア様のことが好きなのね」
「いいや。大嫌いだ。俺は、別にボールウィン家の当主になりたいわけじゃないからね」
そうだ。ティアにも言ったことがないけど、そうなりたいわけじゃない。
父に憧れていないと言えば嘘になるけれど、どうしても当主になりたいわけじゃない。むしろ、自分よりアレクのほうが向いていると、ずっとそう思っていた。
だからいつか、自分はアレクの下について、その手伝いをしたって何ら問題はないと、彼が騎士になると宣言するまでずっと思ってた。彼ならば、誰よりも当主にふさわしいと、ずっと。
「俺より、アレクの方があってると思う。騎士になるより、当主になって、政治をするのが、あいつには一番あってる」
だけど。
「ティアは、俺たち一族からいとも簡単にアレクを奪って行った。そして、一生離さないつもりだ」
彼女にとって、自分の弟がどういう存在か分かっているつもりだ。多分、彼女が離すことはないだろうと、分かっている。だけどそれを納得できるかと問われれば、それは間違いなく否で。
「アレクが、うちには必要なのに」
自分を卑下しているわけじゃない。ましてあの頃言われたことを忘れたわけでもない。
ただ冷静に見て、傍から見て、自分より彼の方が適正があるような気がしたのだ。努力しても、決して埋まらない溝があるんだと思う。
才能、という一言で片付けてしまうには、自分は少々努力しすぎた気がするけれど。もっと早く、諦めていたらよかったのかもしれないと思うけれど。
それが『才能』なのだとはっきり認識するのが、少々遅すぎた。
セシルは自分を苦々しく思う反面、それでよかったのかもしれないと思う。アレクがいなければ、自分はきっと驕っていただろうと思った。
名門、ボールウィン家直系の唯一の男子だと。何事もそれなりにこなし、天才だと言われたから。
もし、アレクがいなければ、一生懸命何かを求めて足掻くことも、苦しむこともなかっただろう。その代わり、大した喜びも嬉しさも知らなかったはずだ。
「セシル」
「いずれ、帰ってくるとは思う。うちの弟は、姫君が嫁いだところを見れるほど、夫とともにいる彼女を見れるほど、心が大きくないはずだから。彼女がよその国へ嫁いでしまえば、帰ってくるだろう」
それが、正しい予想かどうか分からないけれど。少なくとも自分には耐えられない。
好きな相手が誰かのものになって、誰かの子を孕み、生むなんてこと。それをずっとそばで、離れずに見守るなんて。
「アレクさんは、リシティア様が好きなの?」
「うん、多分、すっごく。誰よりも深く」
愛しているんだろう。そしてもしかしたら、あのお姫様も同じくらい、愛しているのかもしれない。
「だけど二人の恋は」
叶うはずもない。
「どうして? 公爵家の、次男様だよ? 身分なんて、そこまできたら」
関係ないはずでしょう、とグレイスは言った。確かに、そうかもしれないね。普通の、お姫様が相手なら、アレクが結婚相手になっても何の不思議もないはずだ。
「だけど、それはありえないよ。うちの国は、隣の寒国に脅威を感じている。王様も、いつ亡くなられるか分からない状態だ。もう回復を見込めない。
なら、次の女王は彼女だ。……何年するのか、分からないけれどね」
彼女の考えがそのまま実行されるのならば、五年後彼女は王座にいない。そしてもしかしたら、寒国に嫁いでいるかもしれない。
「女王様になったら、結婚できないの?」
そうじゃないよ、グレイス。そうじゃないんだけどね。
「できない、ことはないよ。だけど、多分――」
他の大臣たちはいい顔しないだろう。
ただでさえ今父は、国の中枢で権力を振るっている。次期宰相は父で間違いないだろうと、誰もが信じている。そして、他の大臣たちはそれを苦々しく思っている。
その上、その息子が女王と結婚?
それはボールウィン家が政治を手中に収めんとしている証拠ではないか、と非難されるに決まっている。おおよそ、ティアとアレクの考えはそれ以上のものなんだけれど。
いろんな要因が混ざって、何もできないんだ。進むことも、戻ることも。一緒になることも、何も知らないときへ帰ることも。
セシルはそんなことを口にも出せず、ただのどの奥で消した。グレイスに言っても仕方がないことだし、アレクとティアはそういうことを言われるのがイヤだろうと勝手に解釈した。
自分だって、嫌だから。
「悲しいけど、貴族ってこういうものなんだよ」
そんな中へ、君を引き込んでしまった俺たちはどうすればいいんだろう。
謝るには、ことは深刻すぎた。だけど何食わぬ顔をして、彼女に何もかも話してしまうわけにもいかない。離して、しまうわけにもいかない。
「セシルも、そうなの?」
「……そうだよ」
悲しいけど、君と俺は違うんだ。君と違って、俺は綺麗じゃない。もう、貴族の汚さを十分知っている。……そんな自分が、今更彼女を手に入れようというのか。バカらしい。
「グレイス、俺を嫌いになる?」
なんて女々しい言葉、とティアなら笑うだろう。
「どうして?」
こんな彼女に、自分はこういうことしか聞けない。
「嫌いになるわけないよ」
はっきり彼女が言い切るのは、まだ何も知らないからだ。貴族がどういうものであるか、自分が、どういう人間であるか。
だけど。その言葉にすがりたくなる。あぁ、ティア。今なら君の気持ちが分かるよ。
君も同じように、アレクを手放せなかったんだ。自分には似合わないと、そう思いつつも。
「そっか。ありがとう」
ごめんね。グレイス。
今だけ、今だけ君の言葉にすがらせて。そのうち、いつか覚悟ができたら、君を放してまで助けたいと思うほど君を愛せたら、俺はきっと君を自由にするから。
たとえ、気高き王女に逆らってでも、君を救うと約束するから。だから。
「ありがとう、グレイス」
彼女をこの言葉で、冷たい城に縛り付けた。
『ごめんね、グレイス』
その言葉は、言えないけれど。いつか君に、手向けることが出来たなら、そのときはきっと、君を解放できるだろう。
セシルさんは面倒な人だと思います。(何度目?)
この上なく面倒な人なんですけど、とても繊細で、傷つきやすい……まぁ、A型体質とでも申しましょうか。
ちなみにティアはABかBのイメージ。アレクはABだな。絶対。お父さんであるボールウィン大臣は、きっとB型です。
(あぁ、ならお母さんはA型ですね、遺伝子的な話をすると)