お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~毒は毒~
言い訳書いておきます。この前ここまで載せればよかった! 文章量が異常に少ないです。うー、見誤った。
「どういう意味か存じませんが、あなたには関係ないのです。放っておいてくださいませんか? リシティア姫」
ティアの顔に、苦いものが広がった。
それを見ると、自分がとても悪いことをしているような錯覚に陥り、うろたえる。何をうろたえる必要があるのだと自問自答するも、その顔を見ていられなくなり慌てて目を反らせた。
「あなたは、昔からそうね。わたしにとって、大事な幼馴染であるのに、あなたはわたしを疎ましく思っているのでしょう? アレクを、わたしが傍においているから」
でも、アレクを返すことはできないわ。これはわたしの我がままだけれど。
下げた視線に黄色い布が広がった。気が付けば、ティアが目の前に来ていて、セシルは顔を上げる。
「分かっているなら、返してください。アレクはボールウィン家にとってなくてはならない人間です。あなたはそれを知っていて尚、僕たちを苦しめるのですか?」
その言葉に、ティアは始めて泣き出しそうな顔をした。あぁ、ついに言ってしまった。言ってはいけないことを、この子に言ってしまった。
一生、この胸に留めておくべきだった言葉を、浅はかにも彼女を傷つけるためだけに口に出した。後悔するよりも早く、胸に苦いものが広がる。
それと同時に黒い制服が目に入る。弟だ。彼女を守るためだけに全てを捨てた、弟。誰よりも恵まれていたはずなのに、誰もが欲しかったその地位を何の未練もなく捨てた。
その決意が、あの頃は理解できなかった。今も、少ししか理解できない。
「兄さん。王族侮辱罪と言う言葉をご存知ですか?」
いつも以上に深い声。
それだけで、十分すぎるぐらいアレクの怒りが伝わってきてセシルはそっと身を引いた。弟と、時期女王を敵に回そうなどと考えてはいなかったはずなのに、なのに何故、こんなにもこの王女を傷付けたくなってしまうのか。
自分でもそれは分からない。分からないけれど、ときどき妙に腹立たしく思ってしまうのだ。
「これはこれは、申し訳ございませんでした。リシティア様、あちらで大臣たちがお呼びですよ?」
向こうの方から政界の重鎮たちがやって来たので、それに乗じる。ティアは慌てたようにそちらへ振り向き、『すぐに行きます』と答えた。
目の前を、黄色い布が残像を残しながら通り過ぎていく。
「兄さん」
アレクの声に、セシルはゆっくりと振り返った。
「もう、行きなさい。ティアもきっと、待ってるから」
十年ぶりくらいに、呼んだ。ティアと言う、許された者が少ない呼び名で。もうとっくの昔に捨ててしまった呼び方だったのに……。
今更そう、呼んでしまった。とっくに捨てた感情が、友情が、戻ってくるはずはないのに。
「僕は、まだ本気かどうか、分からないよ。そんな感情、僕には縁のないものだと思っていたからね。だから、会って確かめてみるよ。昔から、アレクと違って好奇心だけは旺盛だったからね」
そう言うと、アレクは安心したようにティアの元へ戻っていった。
嘘でも、本当でもない言葉。本当は、そう言う感情を認めたくなかっただけかもしれないから。だけど、今更そんなこと言えないから。
「本当は、ティアに……恋してたのかもしれないね。幼かった僕は」
その言葉は、誰にも届かなかった。
王女にそんな感情を抱いてはいけない。
そんな常識に縛られ、自分の感情さえ持て余していたから。自分の持つ感情を否定して、ただ彼女から離れていった。
だから本当はもう、彼女たちにとやかく言う資格はないのかもしれない。だって自分は諦めて、アレクは諦めなかったのだから。それだけだけど、とても大きな違い。
自分には絶対にできない。してはいけないと、きちんと分かっている自分は利口なのか、ただの愚か者なのか。
「僕は一体、何に恋していたのかな? 王位にいる彼女? それとも」
――公爵家の長男というだけで腫れ物のように扱われる自分に、優しく接してくれた彼女?
弟に対してコンプレックスを抱いていた自分を叱責した、あの厳しい彼女?
いったい、誰に、自分は、恋をした?
「どちらでももう、関係ないか」
だってもう、心のどこを探したって、なくなってしまった感情だから。もしかしたら、始めからなかったのかもしれない感情だから。
どこか違う。
ティアと、グレイスを思う気持ち。どちらかが本物で、どちらかが偽物なのか。はたまたどちらも偽物なのか……。
それは、まだ分からない。まだ幼いからなのか、それさえも、まだ分からない。
天を仰いだ。
自分の運命は、どこへ向かっているのかと星へ問う。遠い異国には、星で人の運命を占う人間がいるという。その人物に、問いたかった。
自分の星は、どこへ行くのか。無事に、行くのか。彼女の星は、どこなのか。
「グレイス……」
君は今、どこにいるんだ?
短くてすみませんー。
少し加筆しましたが、前回に比べてかなり薄い内容になってしまいました。もう少し、少女漫画、少女小説っぽくならないものか。
甘いものになれば……なりません。