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姫と騎士  作者: いつき
番外編
69/127

お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~揺れる揺れる~

 あと10回もしないうちにページなくなっちゃう! 書き足そうにも、長くなりそうなので、心が折れる。……ティアちゃんのドSっぷりが書ければ満足なんだって。

「グレイス。もしかして、あのお方は」

「ええ。あなたが思っている通り、ボールウィン家のご子息であられる、セシル・ボールウィン様よ」

 事も無げにそう言う。

 もう、あれだけ流れそうだった涙は収まっていた。所詮は交わるはずのない線がほんの一回、ほんの少し交差しただけのことだ。

 もう会うことはない。ならいずれ忘れる出来事だ……グレイスはそう信じて疑わなかった。

「そんな方がなぜお前と」

 困惑気に聞かれ、グレイスは首をかしげた。

 真実を話せば、マザー・アグネスに知られてしまう。何故かこの出来事はマザー・アグネスに知られたくはなかった。知られてはいけない気がした。

「気分が乗らなかったから、温室に入ったの。そうしたら、あの方が、私を気分が悪い方だと思ったらしく、声を掛けてくださった、それだけよ」

 そう、それだけ。

 初めて会ったときは、門番に責められている市井の子を助けただけだったのだろう。

 二度目はピアノに誘われて、珍しく思っただけ。そして、今度は、暇な時に見つけた娘を話し相手に選んだだけだ。

「そうか」

 納得したのかしていないのか分からないような返事。

 しかし、グレイスにはそんなこと関係なかった。それを振り切るように馬車の外を眺め、言い訳のような言葉を口に出す。

「アーサー。マザー・アグネスにしっかり言い訳してよ」

 念を押すように言うと、うっと詰まるような声が聞こえる。あえてその後は追及しない。

 もうドレスは脱ぎ去り、いつも通りのグレイスに戻っていた。

 可憐で、誰もがダンスに誘いたくなるような淑女のグレイスではなく、皆に愛され、いつも大切にされている一七歳とは思えないほど幼いグレイス。

 高い位置に長い間結っていた髪は未だに後を残し、もともとゆるいカールのかかっていた髪はさらに癖を増している。

 ゆっくりと過ぎ去っていく風景は、闇に塗りつぶされた街。

 王都なので他の地方とは比べ物にならないけれど、それでもまだ暗さを感じる。



「グ、グレイス!!」

 マザー・アグネスの焦ったような声が届く。

 アーサーから随分前に連絡があったはずなのに、心配でたまらなかったらしい。帰ってくるのを今か今かと教会の前で待ち構えていたようだった。

 いつも白い肌がより一層白く、青く色を変えていた。どのくらいこの中に立っていたのだろう。

「マザー。遅くなってごめんなさい」

 大人しく頭を下げ、そのまま部屋に帰ろうとした。

 目を合わせると、何か読み取られてしまいそうだった。心に何も疚しいものを抱えていない分、マザー・アグネスは驚くほど人の心に敏感だ。

「待ちなさい。グレイス。あなた、悲しそうな顔をしているわ。一体、ど」

「疲れているの、マザー。おやすみなさい」

 何も言わず、ただアーサーに視線を送り、頷くだけで『後は任せた』と伝える。アーサーは大人しくそれに頷き、マザー・アグネスに向き直る。

「おやすみなさい、二人とも」

 もう一度だけそう呟くように言うと、グレイスは振り返ることなく部屋へ入った。

 ばたり、とベッドに倒れこむ。そしてそのまま沈むのに身を任せたまま、意識が沈むのにも身を任せようとした。

 しかし、そう簡単に意識が手放せるはずなく、また顔を圧迫するベッドに耐えられなくなり、仰向けになる。

 それと同時に、涙が一筋こぼれ、その涙に冷たさでどれだけ自分の顔が熱いか知った。

 怒りのためでも、羞恥のためでもないのに、顔が熱くてたまらない。涙はそのまま、こめかみを通り金髪の中に吸い込まれていった。

「ど、して」

 吐息のような声が漏れる。弱々しい声が、冷たい空気に溶ける。どうして、と声にもならない声は悲痛に響いた。

「どうして、こんなに」

 騙していたという事実が、胸に痛いんだろう。どうしてこんなにも、涙が出るんだろう。

 ただ住む世界が違うというだけなのに。もう会うことはないだろうというだけなのに。いつか忘れてしまうというだけなのに。どうして?

 でもしかし、また会いたいという感情も浮かんでは来なかった。

 また会えば、今度は自分の中にある感情の正体が分かってしまう気がしたから。これ以上に痛い思いをする気がしたから。

「痛い思いしなくて、よかった……よね?」

 自分自身に聞き、自分自身で頷く。

 そうだ、そうだ。何故か、何故か、自分が傷つくのが目に見えていたから胸が痛いのも、傷つきたくないのも、全てはでもそれを、気付けずにいる。

 それは幼いから 純粋だから。

「もう、大丈夫だよね?」

 だからもう、泣かない。関係ないから。

 この痛みも、涙も、何もかもを、あのパーティー会場に置いてきたつもりでいることが、一番の救いになるから。全てを、全てを忘れてしまうのが、一番いい方法だから。

次回! 次回やっとこさ、アレク氏登場。で、最後らへんで少しだけティアちゃん登場予定。

セシル視点だと、ティアちゃんはどれだけ鬼畜さんなの? と思ってしまう。

おかしいな、アレク視点だと可愛げがあるんだけど。

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