お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~非日常~
載せるつもりがなかったので、切りどころに迷う……。
どこで切ったらいいの??
数話後にやっとアレクとティアちゃん登場。
いつも通りのパン配達。いつも通りの嫌味な門番。
いつも通りの……日常、なはずだった。
「グレイス。ちょっと」
お得意様のアーサーがグレイスを呼ぶ。彼はこの辺では有名な俳優だった。
背の高さといい、顔の造作といい、申し分ないほどの好男子。この劇団のお客の半数以上は彼目当てだと言うのだか、びっくりである。
なんでも貴族の中にも彼に執心のマダムたちがいて、ひそかに社交界の場になっているとかいないとか。
そんな彼はちょいちょい、とグレイスを手招きし、グレイスは大人しくそれに従った。
「何? アーサー」
不思議そうに首をかしげ、アーサーの方へ行く。アーサーは、近くに来たグレイスの体を上から下に見て、それからゆっくりと頷いた。
「ちょっと、頼みたいことがあるんだ」
そう言ってしばらく口を閉じる。何か言い悩んでいるような様子だった。しかし、何かを決心したように一回だけ頷くと、スッと息を吸って、がばっと頭を下げた。
「えっ、ちょっ、アーサー」
グレイスが慌てて、アーサーの頭を起こそうとする。
「お願いだ。グレイス。一時間、いや三〇分でもいい、お前の時間をくれ」
グレイスは始め自分に何を言われているのか分からなかった。すると、アーサーが申し訳なさそうに頬を掻く。
彼が迷ったときや、困ったときにする癖のようなものだった。
そんな癖が出るような問題とは、一体どんな大問題なんだろう、とグレイスは首を傾げる。アーサーはその視線に気が付かないように、ゆっくりと話し始めた。
「今日、ある有名な貴族主催のパーティーがある。その貴族が、えらく我が劇団を気に入ってくれててな。今回の舞台の主役二人を招いてくれたんだ。俺と、レティーなんだけどな。
だけど急なことで衣装がギリギリ間に合うかどうかなんだ。だが、レティーは他の仕事もあって採寸できない。だから……」
だからレティーの代わりに採寸受けてくれないか? 体型が似てるんだよ。アーサーの言葉にグレイスはすぐさま頷いた。いつもお世話になっている人たちだ。
マザー・アグネスは常日頃からそういう恩は、忘れてはいけないと言っている。
それなら今回のことも引き受けなければいけないだろう。パーティーに出てくれ、と言うわけではないのだし、採寸と言うことはグレイスがやることはじっとしていることだ。ならば簡単だろう。
「いいわよ。だけどレティの方がスタイルいいってことは忘れないでね」
大して考えもせず頷いた。そうするとアーサーはぱぁ、顔を輝かせた。なまじ顔が整っているだけに、なかなか眩しいものがある。
「まぁ、それはなぁ? ともあれ、良かったよ。助かった」
それだけ言うと、アーサーはすぐさま部屋から出て行った。時間がないというのは本当なのだろう。採寸はものの十分で終わってしまう。
もともと仕立て屋は大抵の型を作っていたらしく、グレイスの横で体型に合わせて布をつめたりしていた。
そして、何度か試着させられる。その間も何人かの女が出入りし、髪形を考えたり、見につける宝石を選んだりしていた。
一時間も経つころには、リハーサルとでも言うように完璧にドレスアップされている。
「おぉ、グレイス。似合うじゃないか。う~ん、やっぱ美人なんだよなぁ。お前って」
アーサーが手放しに褒めるので、グレイスは恥ずかしくなり下を向いた。『からかうのはやめてよ』と小さく反抗するものの、『お世辞じゃないぞ』とかわされてしまう。
と、その時。
「アーサー・ユニグル様。レティー・ブレム様。お迎えにあがりました」
朗々と、高々と流麗な言葉が聞こえてきた。
予定よりかなり早く、迎えの馬車が来たのだ。正確に言えば、約束の時間の二時間ほど前。早すぎだろう、と思わないこともない。
「嘘だろう?」
アーサーが呟くように言った。隣にいるグレイスにしか分からないような、小さな声。しかし、従者は恭しくアーサーに頭を下げた。
「我が主人がお屋敷にて、大変お二人をお待ちかねでございます。どんなにこの日を待っていたことでしょう? 主は昨日から興奮しておられました」
そう言うと有無を言わせず、アーサーとグレイスを引っ張る。
「さぁ、早く。今日のパーティーには政界の偉大な方たちも沢山いらっしゃいます。その方々より遅いお着きになるなんて、いけません」
ぐいぐいと抵抗を許さない強い力で引っ張る。アーサーはそれでもその力に抵抗した。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ。俺はいいんだが、レティーがまだ来てない」
そう言うと、従者はフンと鼻で笑う。まるで、お前の目は節穴か、と笑っているようで。
「何をおっしゃいます。アーサー様。今まさにあなたの目の前にいるではありませんか」
フン、ともう一度だけ笑うと、今度こそ有無を言わせない力でグレイスたちを馬車に押し込んだ。
「もう、マザー・アグネスに何て言ったらいいのかしら? アーサー?」
ジロリ、とアーサーを睨む。アーサーはそれを見て、そっと肩をそびやかした。
おお、恐ろしい。とその顔が語っている。しかし、そんな顔をしてもやはり好男子は好男子に違いはない。
そっと息を吐く。暗くなっても帰らないのを心配し、アグネスはどれだけ心配するだろう、とグレイスは目を閉じた。
ついたらすぐ、アーサーに事情を知らせてもらわなければ、と思いながら。
周りの淑女の視線が痛い。チクチクと刺さるような、不快な視線。
「おいおい、グレイス。そんなに怒るんじゃないよ。今頃レティーの方が怖いだろうな」
クスクスと面白そうに笑う。その姿さえ様になっていて、グレイスはフイっと横を向いた。
「貴族様にばれるわよ? 私、美人でも何でもないんだし、このドレスだってきっと似合っていないわ……」
そう言ってグレイスはパーティードレスを広げて見せた。
青い、体にぴったりとしたドレス。俗にいう、イブニングドレスだ。胸の上部分からは布がなく、肩も背中も大きく開いている。
露出度が高ければ高いほど正式な服なのか、と疑いたくなるほど、アフタヌーンドレスとは打って変わって布で隠す部分が少ない。
青い、鮮やかな布に美しい刺繍が施してある。濃い青と白の糸で、小さな花が。胸の辺りには密集して、下に行くほど少なく施されており何とも華やかだ。
腰から下のスカート部分は二重の布でできており、外側の布は淡い、薄い青色。内側の布は濃い、刺繍の糸と同じ布が使われている。
大して斬新というデザインではないものの、動くたびに変わる二枚の布のコントラストが美しく、周りの人間の視線を縫いとめた。
そのドレスにショールをかけ立っているグレイスは、隣にいるアーサーと並ぶほど目立っていた。
「いやぁ、似合ってる似合ってる。それで、じっとしてたらダンスの申し込みがわんさか来るさ」
アーサーは明るく笑う。それをグレイスは不機嫌そうに見た後、ふうと息をついた。
「髪を結って、美しい飾りがついてるのはいいけど、重いわね」
グレイスの淡い金髪は、アップで纏められていて大きな、青い花飾りがついている。
露出した首にはドレスの色同様、上品なサファイアのネックレスがしてあり、どこからどう見ても、立派な淑女である。
チラチラと男性たちがグレイスに視線をよこすのに、グレイス自身はアーサーに向けられる女性の視線に辟易していた。
そんなグレイスを見て、アーサーが笑っているのは内緒だ。
「ねぇ、私のことはいいから女性たちの相手をしてきたら? さっきから視線が痛くて、痛くて」
疲れたように、首を振るとアーサーを見ていった。アーサーはそれを聞くと、にやりと笑いそれからグレイスの耳元に顔を寄せた。
「いいのか、グレイス。お前、大変だぞ?」
何が。
グレイスはそう言って、アーサーにシッシと手を振った。それを見るとアーサーは笑い、グレイスの傍から離れる。それと同時に数人の女性から囲まれた。
「まぁ、レティーが妬かないわけないがないはずね」
チラリ、といつも親切にしてくれる美女の顔が浮かんだ。亜麻色の美しい髪を持ち、それに劣らぬぐらい美しい金色の瞳で人々の目を釘付けにして離そうとはしない、女優。
そんな彼女の心を唯一動かせる人物は、爽やかな笑顔で淑女たちのお相手をしていた。
あとで報告しなくっちゃ、そう思った後、グレイスはくるりと屋敷を見回した。
高い、聖堂よりも高いのかと疑うぐらいの天井に、シャンデリアの数々。壁にも無数の絵画が飾られ、なおかつその壁さえも芸術品のように美しい彫りが施されている。
周りにいる女性や、男性も着飾っていて美しく、煌びやかだ。毎日貧しい人たちへ、とパンを配っているマザー・アグネスの行動さえ無駄に思えてきた。
何故こんなにここは食べ物や、お金が溢れているのかしら……。そう思わずにはいられなかった。
舞踏会ー。
ドレスの描写は書いてて楽しい。だけど頭の中で綺麗に再現できないので、ちょっと残念。
誰かドレスのデザインください。