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姫と騎士  作者: いつき
番外編
65/127

お蔵入り 『オヒメサマの夢』 ~再会~

 すでに5ページ掲載。

 16ページまでしか書いてないけどね。……展開の大筋しか考えてないけどね。

 ティアちゃん、ドSでお送りするこのお話です。えぇ、すっごく嫌な役だけど、彼女じゃないとできない役なので。

 彼女が出てくるのはもう少し先です。

「ねぇ、マザー」

 夕食を終えたグレイスは食器を片付けながら、マザー・アグネスに話しかける。白い小さなエプロンを解きながら、マザー・アグネスの傍に駆け寄る。

「なんです。グレイス」

 それに対して、マザー・アグネスは刺繍台を膝に置き答えた。

 この国の国花である、白薔薇の刺繍が美しくなされていた。この教会は教会本部からの援助と、町からの援助、そしてマザー・アグネスの刺繍から成り立っていた。

「わたしね。前から少しずつ働いていたんだけど、来月からは本格的に働こうと思っているの」

 今月のお給金なの。そう言ってグレイスは机に数枚の札と硬貨を出した。少しだったけれど、それを見て、マザー・グレイスは唖然とする。

「グレイス!! あなたは……」

 そこまで言って、マザー・アグネスは押し黙った。何かを飲み込むように、コクリとのどを鳴らす。隠し事や、嘘とは無縁のマザー・アグネスの飲み込む言葉とは一体何なのだろう。

 しかし、やがて何かを決めたように、きっと前に向き直り、グレイスを見据えた。

「グレイス、働く必要なんてありません。あなたはまだ一七歳……否、もう一八歳になりますが、まだ子どもです。成人しているといってもまだ子どもなのですよ?」

 諭すような話し方だった。柔らかいいつも通りの声に聞こえても、グレイスを宥めて、止めさせようとしていることが分かって、グレイスは下唇をかむ。

「だって、わたしは、今まで何の心配もせずに育ってきたわ。教会がお金持ちな訳ないでしょう? わたし、少しでも役に立ちたいの。この教会のために何かしたいの」

 駄々をこねるようにグレイスは首を振った。

「わたしは何の役にも立たない、お荷物なんかじゃないもの」

 ぐっと胸の前で、両手を握り締めた。

 そうだ、お荷物なんかじゃない。そんなんじゃ、ないもの。

「分かりました。グレイス」

 どこか諦めたような声が、グレイスの耳に届いた。そっと顔を上げるとマザー・アグネスはやれやれ、と首を振っている。そして、首に下げている五芒星を握った。チャリ、と金属の音がする。

「あなたの言いたいことは分かりました。ですが、感心しませんね」

 もし、危ない目に遭ったらどうするつもりですか? とマザー・グレイスは困ったように、眉を寄せた。心配性なのは今に始まったことではない。

 幼い頃、遅くなるまで外で遊んでいて、アグネスを泣かせたことだってあるのだ。グレイスは。

 泣くほど心配をかけてしまった負い目があり、それ以来グレイスは日が沈むまでに帰るようになっていた。

「で、でも」

 何か言い訳しようとして、しかし何も浮かばずに再び下を向く。今日のことが頭をよぎった。

 誰かが助けてくれなかったら、間違いなく自分はこけていたのだから……。マザー・アグネスの手前、そんなこと口にはできなかったが。

「では、グレイス。こうしましょう?」

 穏やかに、マザー・アグネスはグレイスに呼びかけた。しおらしく下を向いていたグレイスは、ゆっくりと頭を上げる。そして、上目遣いでマザー・アグネスを見た。

「今度の日曜日、ミサをするときに、あなたが全て準備なさい。わたくしはそれを見て、どうするか決めましょう」

 にこり、と笑うともうこの話はしません、とでも言うようにまた刺繍をし始めた。

 もとより、マザー・アグネスはこうする、と決めたら絶対に覆さないのだから、反抗しても無駄だということは分かっている。

「分かりました」

 そう返事だけすると、おやすみなさいと言い、自分の寝室に下がった。

 マザー・アグネスは階段を上るグレイスを見やり、ふぅと息を漏らす。そして、掛けていた老眼鏡を外すと、刺繍台を裁縫箱の中に入れてしまった。

「主よ、我らが御神よ。どうか、どうか」

 マザー・アグネスの声は闇に吸い込まれ、やがて聞こえなくなった。

「あの子を、お守りください。どうか、誰にも見つからず、ずっとここにいることができますように。あの方たちに、見つからないように――どうか」





「ふぅ、つーかーれーたー」

 誰もいなくなった教会で一人、グレイスは息を吐いた。それと共に、間延びした声も出る。なんとか、成功したはずだ。不備はなかったはずだし、いつもとなんら変わりはなかった。

 いつも通り、マザー・アグネスのお話で始まり、お話で終わった。そう思い、グレイスはふふ、と笑う。これだけ頑張ったのだから、仕事をすることを許してくれるはずだ。グレイスは確信を胸に、拳を握った。

「それにしても」

 そう言って、グレイスは静かな教会内を見回した。

 物心ついた頃には、もうここにいた。ここ以外の家を、グレイスは知らない。だから他の子がうらやましいとか、両親がいて欲しいなんて思ったこともなかった。

 いないのが普通で、マザー・アグネスがいることが普通だった。いることが逆に、不自然にさえ見えてしまう。不自由なんて、思ったこともない。

 実の親の顔も、名前も、元々自分にあった姓名さえ知らない。マザー・アグネスが『グレイス』という名前をつけ、協会の名前である『クロレス』を姓としてくれた。

 それ以外に、一体何が必要だというのだろう。

「広い教会」

 だけど、何年いても慣れることがない、この教会の中の雰囲気。

 神に近い、天界に近い、場所。世の中の喧騒の中にありながらも、決してその色に染まることのない、そう――色で表すなら白の場所。

 白は最も染めやすいような色に見えて、最も染めにくい色。

 最も儚い色に見えて、最も強い色。

 最も静かな色に見えて、最も過激な色。

 染まることを嫌う、穢れを寄せつけない神の色。

 ここだけが別次元のような、そうここにさえいれば自分を捨てたと言う両親のことも、自分が孤児だということも忘れてしまう感覚。

 この感覚が好きなようでいて、嫌いだった。

 凛と静まり返る、清浄な気が支配する教会の中。その空気をグレイスは体一杯に詰め込んだ。

 “カタン”と教会の中においてあるピアノのイスに座った。幼い頃からマザー・アグネスに習ってきたピアノ。この異質とも取れる雰囲気の中で唯一緊張しない場所だった。

 ポーン。

 柔らかい音が教会中に響き渡る。少しだけくぐもった、優しい音色。ここで響く、この音が何よりも好き。

 何よりも綺麗だと、小さい頃から思っていた。ここで響くピアノの音は何にも勝る。きっと城で演奏するどんな楽器よりも美しい音に違いない、と配達のときに見える城を思い出した。

 そのとき。

「すばらしかったですよ、ピアノ」

 後ろから声をかけられた。

 その声は聞き覚えのある声だった。印象的過ぎて、忘れることのできない声といっても言い。優しい、まるで険の含まれていない声。その声を聞き、グレイスは慌てて振り向いた。

「おや、あなたでしたか」

 その声の主もグレイスに気付いたようだった。

 少しだけ目を見開いて、それでも穏やかな表情を崩しはしなかった。コツコツと靴の足音が教会に響く。近づいてくる男にグレイスは慌てて席を立った。

 あの後考えてみたのだ。

 何故、あの男たちはあんなに慌てたような仕草をしたのか。だって、普通の人に対してなら公爵家の名を楯に、もっと強く出ていたはずだ。

 なのに。なのに、あの男たちは押し黙ってしまったのだ。だとしたら、もしかしたら、この人は――。

 よくよく見てみれば分かることだ。仕立ての良さそうな、いかにも上品そうな服を着ている。靴だって、磨かれていて教会の淡い照明をはじく。

「その節は、お世話になりました」

 なんとか緊張している体を動かして、グレイスは頭を下げた。

「あなたは、ボールウィン家の人、ですよね?」

 確かめるように、噛みしめるようにグレイスは言った。警戒心を丸出しにして、品のいい男を見ていた。しかし男はその視線を受け取ると、小さな微笑を顔に浮かべた。

「そんな風に直接問われるのは、初めてです」

 そう言うと、すっとお辞儀した。完璧な、優雅な所作だった。なんとも貴族らしい、いかにも貴族らしいその所作にグレイスはドレスの裾をつまむことなく、頭を下げるだけにした。

「改めて、初めまして、ですね? 僕の名前はセシル・ボールウィン。あなたのお察しの通り、ボールウィン家の長男です」

 貴族の中の貴族、公爵家。帰属の順位、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。

 その下にも色々いるが、主な貴族の中で最も高位な位置にいるのだ。その中でも特に有力なボールウィン家――。

 次期宰相、と噂されるボールウィン大臣は政治の世界で敏腕を振るう、切れ者だ。それが彼の、生まれた場所。育って、生きていく場所。遠い遠い、幻のような世界。

「ところで、何であなたがここに?」

 セシルが不思議そうに言った。

 普通の女の子が教会で、ピアノを弾いているなんて中々ないだろう。そう思い、グレイスは慌てた。別に、孤児だからといって引け目に感じていたのではない。

 馬鹿にされるような境遇だとも思っていない。孤児が、人に恥じるものだなんて、マザー・アグネスは言わなかった。それもまた、神の思し召しだと。そう言っていた。

 だけど、なんだか、この人には知られたくなかった。

 後ろめたいというよりも、初めてこの身分を恥じているのかもしれない。初めて、知られたくないと思ったのは、そういう想いがあるからなのかもしれない。

「あなたこそ貴族のご子息が、こ、こんな教会に、何の用なんですか?」

 動揺をそのまま言葉にしたようなグレイスの様子に、セシルはくすりと笑みを浮かべた。そしてグレイスに一番近い席に座ると、もう一度笑みを深くする。

 少々粗野に脚を組むが、その中に隠しきれない品がにじみ出る。

 足を組むよりも、そっとイスに座っているほうが似合っているはずなのに、どうしてか足を組んでいる姿もよく似合っていた。

「気分転換に外へ出ていたら、綺麗なピアノに誘われて、ね」

 グレイスの方を見て、セシルは笑った。何かを含んだような言い方に、グレイスはむっと眉を寄せた。

 褒められた、と言うよりはからかわれた、と言った方がしっくりくるような言い方だった。グレイスは皮肉を返そうと、セシルの方を向いた。

「わたし、公爵家のご子息がそんなに簡単に、外へ出られるなんて知らなかったです」

 恐れを知らないような口の利き方に、セシルは驚いたような顔をした。

 こんな物言いをされたのは、生まれてこの方過去一回しかない。それも言われたのは自分より身分が上の人間だった。大切な弟を奪って行った、憎き我が国の姫君だ。

 だから、あの時は我慢したけれど……。今はあの時のような腹立たしい気持ちにはならなかった。

「確かに、気軽に外に出ることはできないよ。でもね、僕が住んでいるのは別邸。父も偶にしか帰ってこないし、使用人は詮索しない、いい人間ばかり。母と妹は、領地にいるから面倒ではないしね」

 そう言いながら、セシルは持っていた帽子をかぶりなおした。そして近くにおいてあるステッキを持つ。その手も純白の手袋に覆われ、彼が貴族であると言うことを証明していた。

「ま、と言っても、さすがに帰りが遅いと実家に連絡されかねないからね、今日はもう帰るよ。では、また機会があれば」

 そういい残して、セシルは教会の扉を開けて外へ出た。グレイスはその背中を静かに見つめていた。

 何なのだろう、あの人は。

 自分から、何も望まなさそうな人だと思った。望む前に、必要なものは全て目の前にそろっている、そんな感じのする人だと思った。

 貴族らしくない、あの態度も――結局は隠しきれていない洗練された物腰をより鮮やかに浮かび上がらせていた。

 何故、自分はこの教会で育てられている孤児だと言えなかったのだろう。

 あの人の環境を羨ましいなんて思えない。わたしには、マザーがいる。誰よりもわたしを愛し、大切に育ててくれた……。

 マザー・アグネスがいる。

 目指すのは、シンデレラ→ロミジュリ→人魚姫ハッピーエンドですが、正直ここらへんで怪しくなってる。

 セシルさんのキャラが定まりません。

 一応外行き『僕』または『私』、気を許した人は『俺』かなーくらい。

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