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姫と騎士  作者: いつき
短編
55/127

『帳』

2人で最上のエロはここまでです。わたしにこれ以上は無理っ!! ってことで、苦手な方は注意です。

 夜のとばりが降りる。それが合図。日を遮る布を固く閉める。それが始まり。それは誰も知らない――。

 知られてはいけない秘め事。



 帳を下ろそう。夜が始まる。




 その部屋は私室の奥にあり、数人のメイドと許された友人、そして家族しか入らない場所だった。

 広い空間を占領するかのような大きなベッドと、一目で高級と分かる家具、そしていくつかの写真があるだけだ。

 おおよそ成人女性である女王の寝室に見えない。壁は淡いクリーム色、光を遮る布はそれに対し濃いグリーンだ。

 その広いベッドから人物が一人抜け出した。手身近にある衣類に手を伸ばす。が、もう一つの手によってそれは邪魔された。シャツを掴む腕より細く、たおやかな手だ。

「また、黙って出て行く、つもりだった……」

 声はかすれて不機嫌そうだ。絡まりそうな細い金髪がばさりとベッドの上へ広がった。

「いや?」

 むくりと邪魔した人物はシーツを体に巻きつけたまま、出ようとした男へよる。

 ふわり、と鮮やかなブロンドが揺れた。昨夜の余韻を残してか、ウェーブがなお強くなり、乱れている。それを男がそっと撫でて、手で梳いた。そして再びシャツを手に取る。

「もうすぐ、夜が明ける」

 立ち上がって外を確かめようとする男を、少女は後ろから抱きしめて止める。

 シーツ一枚越しに互いの体温を感じ、どきりとしたが、少女はあえて感じなかったふりをした。カーテンが閉められている間は、自らが守る民が眠っている間は、自分は女王から少女へ戻る。

「カーテン、開けるまでのアレクは、わたしのアレクでしょ」

 なら日が昇ってしまうまでは、カーテンを開けないで。

 少女の声は昨夜の余韻を残してか、甘く掠れていた。剥き出しの腕がぎゅっと力を込めて、相手を抱きしめる。

「ティア。放して」

「いや。逃げる」

 いつもなら決して出さないような声だった。

 その声には凛とした響きも、厳しい気配も、威厳に満ちた王の音もない。ただ相手を想う少女の甘い声だけ。

「逃げないから。ベッドに戻ろう。まだ寒いから」

 アレクの声にようやくティアは手を緩めた。嘘を吐かないことをよく知っているからだ。かと言って、完全に離すわけではない。

 アレクはそれに頓着することなく、シーツを引きずったままベッドから出てきたティアを抱き上げた。

 そして抱きしめたままベッドのふちへ座る。そっとティアの髪を撫でると、ティアはおとなしく体を預けた。

「夜の帳が下りる間だけ、か」

 それを開けば、いつもどおりの主従関係に戻る。お互いに何も言わず、立ち位置の違いだけを感じる。守る側と守られる側、圧倒的な違いを痛感せざるをえない。

 こんなふうに、ただ二人だけでいることさえ許されない。

「わたしの護衛なのに」

 自分を護る人間で、いつも一番近くにいる人なのに。触れ合うことさえ許されない。弟が成人するまで、自分はあくまで女王だ。そうティアは思い出した。

 今更、思い出したのだ。

「何、考えてた?」

「多分、アレクと同じこと」

 王国のこと、王位のこと、弟のこと。


 ……自分たちのこと。


 すると突然、ティアの視界が回った。ぐるりと、見えていた風景が一変する。ベッドの天蓋が目に入る。ほんの一瞬の出来事で、ティアは反応できなかった。

 気が付けばアレクが両手でティアの手首を掴んでいる。

「アレク?」

「俺といるのに、また国のこと考えてただろう」

 唇が近づき、額にそれが当たった。

「ティアといるとき、俺はティアのことしか考えてないのに」

 ティアはいつも違うとこを見ている。

「ちがっ」

「違わない」

 今度は唇に。

 いつもよりほんの少しだけ強引に、噛み付くようなキスをする。昨夜あれだけしたキスをまた、繰り返し続ける。深く、甘く、まるでティア自身に酔うように。

「イリサが、来るわよ。そろそろ」

 口付けの合間に、吐息のような声が漏れる。

「イリサ? 気遣い上手だろ、昔から」

 シーツを引き下ろす手を邪魔されたアレクは不機嫌そうに眉をひそめる。

 そしてまた、キスを再開した。昨夜の熱を思い出させるかのように。ティアの息が上がってもかまうことはなかった。

「怒っ、てる、の?」

 切れ切れにティアが問うと、アレクは笑った。優しいが、どこか毒をも含む笑顔である。

「いや? ただ……」

 ただ夜が明けるまでもう少し時間があるから。二人が二人に戻るまで、まだ時があるから。

「もう少し、ティアのことだけ考えていたいと思って」

 そして。

「ティアも俺だけのことを考えてほしいと思って」

「何も、こんなことしなく……」

 全てを言わせず、首筋に噛み付いた。ほんの少し跡が残る程度、ドレスから見えるか見えないか、ぎりぎりのところへ。

 夜の帳がたとえ開けられても、わずかに残るように。

「アレク」

「見えないよ」

 ドレスからは、ね。

 夜の帳が開くまであと少し。ならばそのときまで、せめて甘い時間を。

「お願っ、もう、やめ」

 せめて夜が明けても、その身が自分のものであると主張させて。

 見える部分は、民にくれてやる。だけど見えないものは、どこまでも自分のものだと思わせて。


「愛してる」


 まだそう伝えられないから、その証を残した。

 す、すみません。こんなもんです。もうちょい、艶っぽくしたい。

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