親の心境
三女視点です。
緊張しながらお姉様と一緒に庭に向かって歩いていると案の定、石段に爪づきました。
ぶつかるっ!と思った衝撃は一向にこなくて、そろりと目を開けました。
いつもより高い位置から視線を伸ばしています。ふいに薔薇の香りがして振り返れば綺麗な翡翠色の瞳がありました。
「痛い所はない?」
いつの間にか一番目のお姉様の腕の中にいました。助けてくれたのはすぐにわかりましたが慌てて、そして香りとお父様に似た、いや、それ以上に綺麗なお顔が間近にあって鼓動が早くなります。
「だ、大丈夫です!ありが、っとうございます!」
思いっきり噛みました。
マリアお姉様がクスリと笑いました。忘れませんよ。
「良かった。せっかくのめでたい日に怪我をしたら大変だ。些細なものだけど贈り物も用意したんだよ。受け取ってくれる?」
そんな事間近で仰られては断れません。
「も、勿論です。」
お姉様は微笑んで私を降ろしました。
きっとお父様ならこのまま席まで運んでくれる所ですが、なんだか一人前になった気がしてむしろ嬉しかったです。だって自分の足がありますもの!自分で歩くべきですね。
あと、心の平穏のためにも良かったです。お姉様に近いとなんだかどきどきします。
席に着いてチョコレートの皿を開けると小さな妖精がいました。きらきらと光り、卓上を、そして私の周りをひとしきり飛び回り、最後に首元をぐるりと回ると宝石の着いたネックレスに変身しました。
私の瞳と同じ青空の色をした宝石です!
なんて綺麗なのでしょう。
こんなに素敵な魔法、見た事がありません!
「お姉様!ありがとうございます!」
お姉様はとても綺麗な笑顔を、優しく向けてくれました。
優しくて、かっこよくて強くて、とても綺麗で素敵なお姉様が大好きになりました。
マリアお姉様の方を見るとほらね、というように片目を瞑っていました。
私も笑顔を返し、ネックレスを握りしめました。
ずっと大切にします。
あまり接する事ができないお姉様に初めて頂いた宝物です。
この時の私の笑顔は満面だったと思います。
その光景を影から見ていた伯爵夫妻は微笑みを浮かべていた。いつか全員で過ごせる一時を夢に見て。
娘が花を頭に挿しただけで激怒した親はもういません。
親も子と共に成長するという。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。




