長女の反旗
長女視点です。
アリエル・フラン
私はアリエル。ドール国の辺境伯の長女に生を受けた。
父は長男として生まれたが私の家系は女が生まれる事が多い。
ゆえに辺境伯といっても女領主を輩出する事が多く、私も父の後を継ぐだろう。
それは例え弟が生まれても変わらない。
そのため幼い頃から威厳や気品を備えられるよう厳しく、いっそ冷たく育てられた。
しかし、父はやはり娘を可愛がりたかったのだろう。妹が生まれると溺愛し始めた。
妹は要領が良く、どのタイミングで誰に甘えればいいか感じて甘える。父はもちろん、母もつい、仕方ないという感じで可愛がる。そのうえ妹は自分の事をマリアと名前で呼び、仕草も可愛く、愛想がいいため使用人にも受けがいい。
私とは真逆の妹を羨ましい。私も甘えたい。愛されたい。褒めて欲しい。一緒に笑い合いたい。たくさんの話をして、抱きしめられて、キスしてもらいたい。
叶うことのない私の小さな望みを、妹は叶えることが出来る。妹が、羨ましい。
でもね、それ以上に私から見ても妹は可愛く、誰よりも私に優しい。
私が本当は甘えたり、一緒に遊んだりしたいのを感じているかもしれないからだ。
しかし、それができない理由も、私が実際にはしないだろう事も知っているのだろう。
人前では決して見せないが、私に花の冠を乗せたり、人形を持たせたりしようとする。
上手に作れたから、遊んで欲しかったからと、自分がわがままを言っている体で私に付き合わせる。
私は特別に何かしたかったわけではないが私の為にこっそり思ってくれる優しい妹を可愛く思えないわけがない。
ただ、今日はタイミングが悪かったみたいだ。
妹が育てている花が綺麗に咲いた。
いつものようにそっと、妹が私の髪に一輪の花を挿した。一番きれいに咲いたのよって笑って花をくれた。
それを、父に見られた。
「何をしている!?」
怒鳴りながら父が庭に向かってきた。
「お前にこんなものは必要ない!女であるだけで見下されるのに、女々しく振る舞うな!領主として威厳を持てとあれ程言っているだろう!」
そう言って髪に挿した花を無造作に掴み地面に叩きつけた。
騒ぎを聞きつけて母も来たが、散った花と私の乱れた髪を見て何が起きたか察したのだろう。
しかし、母も父と同じ考えだ。可愛がりたくとも跡取りとして厳しくしないといけないと考えている。
それが度を過ぎているとは、この家庭において誰も気付きはしない。
「あなたには跡取りとして高度な教育や、権利、財産も与えています。その期待を裏切るつもりですか?今までの私達の努力を忘れたわけではないのなら、今すぐ部屋に戻りなさい。もっと自覚し、二度とこのような事がないよう反省しなさい。」
今日は厄日かもしれない。
そんな事を言う両親に腹が立ったからだ。いけないとは思いつつも口ごたえをしてしまった。
妹は既にショックでぽろぽろと涙を零していた。
「お言葉ですが」
両親の目を見てはっきりと言う。
「妹が育てた花をくれる事、また、それを髪に挿してくれようとする事を拒むほど野暮ではありません。私はいずれ領主になります。父とは違う領主になるでしょう。私は女領主になるのですから。その為に今勉学に励んでいますが、妹を省みない冷たい人格は相応しくないと考えます。また、花を貰って喜ばない感性も相応しくありません。女々しいと仰るのは偏見です。それで威厳がなくなるのなら、大した領主ではありません。」
思った以上に嫌味が篭ってしまったが、妹を泣かせた代償は大きい。
今まで大人しかった娘に突然反抗された両親は驚いていた。侮蔑が篭っていると分かったら顔を赤くしてしまったが、何かを言う前に私は妹の頭を撫でて言った。
「ごめんね、せっかく花をくれたのに。泣かないで。また頂戴?」
妹は更に泣いて抱きついて来た。
「あげ、ます!たくさん!あげます!私こそ、ごめ、なさいっ!お願い、また、もらって、ね?」
一生懸命言ってくれる妹が可愛くて、申し訳なくて、頭をぽんぽんと叩いて離れた後、またねと言ってその場を離れた。
あとは両親が妹を宥めてくれるだろう。
初めて両親と喧嘩をしたこの時、私はもう両親に甘える機会を失ったと感じた。漠然とした寂しさを覚えたが、意地がある以上、文句のない立派な女領主にならなくてはと、目を逸らすのに精一杯だった。
長女あるある。「甘え下手。我慢させられる。芋が羨ましい。お姉ちゃん頑張るね、の気持ちを持つ。」