シルバの魔術
入り口を抜けて、アギラの拠点内部に侵入する。
「水貴さん、ここから先、潜伏して進むのは無理です。正面突破で、敵は全てなぎ倒して行きましょう!」
「りょーかい」
さっそく、いかつめな男が3人、こちらに向かって歩いてくる。
「な、テメェら、なに入って来てやがる!」
今度は、背中の入り口から3人、家の影から4人のメンバーが顔を出す。
「シルバ!」
「わかってます!」
四方を完全に囲まれて、俺とシルバは背中合わせとなり、構える。
よし、飛び道具を持ってる奴は一人もいない。
アギラのメンバー達は、剣や、棒を腰にぶら下げている。
シルバは、内ポケットから、小さな杖を取り出して、
「現出せよ!アイスキューブ!」
呪文を唱えると、立方体のドライアイスのようなものが、六つ出現した。
大きさはサッカーボールほどで、赤色だったり、青色だったり、それぞれ色が違い、色に応じた煙をゆらゆらとまとっている。
アイスキューブはシルバを取り囲むように、ぐるぐる周っており、「飛べ!」という掛け声とともに、敵に向かって発射された。
これが、シルバの魔術か……って関心してる場合じゃないな。
アイスは一人、一個。六人がターゲットとなっている。
残った四人に向かって、走る。
敵が魔術に目を奪われているスキに、間合いを詰めて、昏倒させる。
振り返ると、残りの奴らも地面に伏して、伸びている。
「アイスキューブの重さは四十キロ。腕に当たれば腕が、足に当たれば足に装着される」
攻撃をくらった奴らは、全員、体にアイスがくっついている。
「なんだ、これ……取れねぇぞ」
アイスは取れず、立ち上がることが出来ないみたいだ。
「水貴さん、これが私の魔術です。普通の人間なら、一つでもくらえば動けなくなります。これを使ってボービを捕まえます!」
なるほど、手錠の代わりにもなるわけだ。
騒ぎを聞いて、わらわらと、敵が集まってくる。
その中に一人、身長二メートルは超えてるであろう、大男がポキポキと指を鳴らしている。
「あの大男が、ボービです」
シルバが耳打ちするように告げる。
「おい、デカブツ。お前を捕まえるために、俺達はここにきた」
「デカブツだと!ボービ様になんて無礼な!」
ボービがのしりのしりと、巨体を揺らして近づいてくる。
「アギラをボコした黒髪ってのはお前のことだな?坊主、魔術は使えるか?」
「使えねぇよ」
ボービは困った表情で、
「そんじゃあ、戦えねぇな。俺は魔術を使えねぇ奴に、魔術は向けねぇ主義なんだわ」
「俺のことなら構わず、魔術を使いな」
「彼は、元軍人です。それも、魔術で戦う軍人なので、かなりの腕前ですよ」
「ボービお前、やっぱり魔術使うな」
正々堂々、拳での戦いだ!
「こうなったらおめぇ……スピリトファイトだ!」
「は……?」
なんだそれ?
初めて聞く名前に、口をあんぐりさせる。
「スポーツの名前ですよ。リング上で拳を使って戦う競技です」
シルバが補足してくれる。
ボクシングみたいなものかな。
「そいつで、お前が勝つことが出来たら、大人しく捕まってやるよ」
そこまで言うからには、ボービは相当な自信があるのだろう。
「やりましょう、水貴さん!総力戦よりは被害が少ないです!」
「……そのやるってのは、俺がだろ?」
「もちろんです!」
「……」
シルバにいいように使われている気がするが、言ってることは事実だ。
「わかった。なんちゃらファイトって誘い、受けるぜ!」