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南のアギラ

早朝。日の光が部屋に差し込み、わずかに暖かくなる。

宿屋の外では、目を覚ましたであろう、謎の生き物がピーピー鳴いている。


ビリビリに破れたカーテンをめくり、窓から外を見下ろす。

大きさは犬くらいで茶色い毛がもふもふしてる、よくわからん生物を見つけた。


鼻をすんすんと鳴らしながら、短い手足で歩き回っている。

エサでも探しているのだろうか。


「なぁ、あの生き物って何?」

もふもふ生物を指差す。


「パケオだよ」

フーリエが食事の手を止めて答える。


「普通は森で暮らしてるんだけど。食べ物を探しに村に来て、そのまま村の家族になったんじゃないかな~」

「食べ物が落ちているというわけですよ。居住区として認められてないこの村には、ゴミを回収する業者も、治安維持の魔術師も、誰も来ませんからね」

シルバは杖の手入れをしている。


「この村は変わらなければなりません。今回の作戦はそのための第一歩です。水貴さん、フーリエさん、村のためにも必ず成功させましょう!」

シルバは腰を上げて、手入れを終えた杖を内ポケットにしまう。


「なぁ、作戦のことなんだけど、やっぱり、俺とフーリエの役割変えた方がよくないか?」

俺とシルバで、アギラと戦い、フーリエ一人でローリを相手にする作戦だが。


やはり、フーリエ一人に任せるのは心配だ。

「ですが、この中で一番強いのはフーリエさんですし、彼女自身も言っていたじゃないですか、この村の住人全員を相手にしても勝てると」


強いのはわかったが、女の子一人に戦わせるのは気が引ける。

「水貴は心配しすぎだよ~」

フーリエの顔には余裕がある。


「わかったよ。ローリのメンバーで捕まえるのは二人だけだから間違えるなよ」

「はーい」


部屋を出て階段を降りる。家主に挨拶してから、外へと出た。

朝早いため、周囲を歩く人はいない。


「それじゃあ、フーリエ。気を付けて」

「うん、またね!」


シルバに顔を向けて、

「よし。アギラの拠点に行こう」



アギラのメンバーで逮捕をするのは二名。一人は幹部のボービ。もう一人はアギラのリーダー兼この村の村長でもある、カウリィ。


アギラのリーダー兼村長のカウリィは、村の権力者。

この村に帝都が介入することを、こいつの耳に入れば、必ず反対、妨害活動をするとシルバが言っていた。

だからこそ、先手を打って逮捕したいとのことだ。


アギラのナワバリは宿屋から三十分ほど離れた、村の南部に位置する。

南部はメンバーが巡回をしており、中央にある拠点までたどり着くのは難しい。


と思っていたのだが、巡回してるメンバーが意外にも少なかったため、拠点の入り口前までは来ることができた。


拠点の中と外は有刺鉄線で区切られており、入り口の門前には、見張りが一人、椅子に座って寝ている。


「やる気のねぇ、門番だな」

「どうしましょうか?」

「俺が気絶させるわ」


かがみながら忍び足で、眠る門番に近づく。

しかし、後方で見守るシルバが、

「はっくしょん!」


シルバ、てめぇ……。

目を覚ました門番と、バッチリ目が合う。


「おぉ!交代の時間ですか!」

「え……」

「いやー、退屈すぎて寝ちゃいましたよ!」

「……」


どうやら、俺のことをアギラの仲間と勘違いして、交代の時間だと勘違いしてるみたいだ。

「いやいやー、4日連続で見張りはきつかったっすよー」

男は頭をポリポリかきながら、満面の笑みを浮かべる。


「いや、もう風呂入ってないから、体中が痒くて~」

「あ、お前、4日って文字通り、連続4日間ずっとここにいたってことか?」

「そうっすよ」


長時間労働……可愛そうな奴だ。

「あ、そうそう!黒い髪の男が、村に侵入したみたいだぜ~。こんな時に大変だよな~」


目の前に黒髪の男いるけど、気が付かないんですね。

「気になったんだけど『こんな時に』ってのはどういう意味?」


男は、「そんなことも知らないのか?」という顔で、

「そりゃあ、ボスがいない時にっていう意味っすよ」


おい、どういうことだシルバ。

本命のアギラのリーダー、不在じゃねぇか!

後ろにいるシルバを睨みつける。


シルバは、ばつの悪そうな顔で、目を合わせようとしない。

「それじゃあ、ボービって奴はいるか?」

「ボービ様ならいるっすよ~」


後ろでシルバが、手でゴーサインを送ってくる。

ボービだけでも捕まえようってことだな。


門番さんには気の毒だが、気絶してもらおう。

だが、その前に。

男の手を掴み、ひねる。


「いだだだだだあああ」

「おい、入り口の鍵出せ」

「な、何するんっすか」

「このまま腕を雑巾みたいに、ぐるぐるねじることも出来るんだぜ」

「わ、わかったから止めてくれ!」


男は尻ポケットの中から、あっさりと鍵を取り出した。

キーリングの付いた鍵は、大きく、ずっしりとしている。


鍵を受け取り、手刀を叩き込み、男を眠らせる。

「もういいぞ、シルバ。出てこい」


家の影から、シルバが出てきて、

「お見事です。早速中に入りましょう」


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