フーリエの握力はチンパン3匹分?
冷たい床で、頬がひんやりとする。
フーリエは「隣で寝てもいいよ」と言ってくれたが、女の子と添い寝は恥ずかしいので断り、結局、床で寝ることにした。
一瞬で夢の世界に旅立ったフーリエに対して、シルバは眠れずにいるようだ。
彼は、なんか貴族っぽいし、不衛生な部屋で寝るのが苦痛なんだろう。
「スー……スー……」
静寂な夜の中、フーリエの寝息だけが聞こえる。
そんな静かな部屋に、シャウトが響く。
「んなあああああああああああああ!」
「…!?」
俺とシルバは同時に飛び起きる。
ちなみに叫び声の犯人はシルバだ。
「ど、どうした!?」
敵襲だろうか?やはり、村の中で寝泊まりするなんて、甘い考えだったのだろうか。
「枕が臭すぎる!!」
「……」
何も答えずに、体を横にする。
心配して損をした。バカに構わず早く寝よう。
コツコツとした足音、床が微かに軋む音が聞こえる。
今度は何だと、薄目を開けて、
「あのー、シルバさん、トイレですか?」
嫌な予感がしたので、一応聞いておく。
「枕が臭くて眠れない。家主に異議を申し立てる」
「……」
シュパッ!
首の後ろを手刀で叩き、眠らせる。
「これで眠れたな」
シルバを担ぎ、ベッドまで運ぶ。
「よいしょっと」
ベッドに上げて、ボロ布を一枚かける。
これだけ騒いでるのに、余裕で寝てる奴が一名。
横目でフーリエを見ると、笑いながら眠る姿が見える。
気持ちよく熟睡しているようだ。
数時間前の腕相撲を思い出す。
彼女のすらっとした細腕には、ゴリラレベルの腕力が秘められていた。
どんな筋肉をしているのか気になる。
鉄のように固いのか、鉛を詰めたかのように重みがあるのか。
好奇心だ。
ちょっとだけ、少しだけ触ってみよう。
忍び足で、のそりのそりと、フーリエに近づく。
シルバの叫び声で起きない奴が、足音で目を覚ますわけがないのだが。
ごくりと唾を飲みこみ……。
薄暗い部屋の中、雪のように白く輝く彼女の二の腕を、つんと指でつつく。
ん……ぷにぷにだ!
重さはどうだろう。
腕の下に手を差し込み、ひょいと持ち上げる。
だが、羽のように軽い。
普通に女の子の腕だ。
この細さで、あれほどの力を発揮できるとは、流石ドラゴン、恐ろしい。
その時であった。
フーリエの手が、がしっと水貴の手首を掴む。
ま、まさか起きた……!
しかし、フーリエは目を開いていない。
「寝ぼけているだけか……」
ふぅと肩を落とし、昔の出来事を思い出す。
昔、タンザニアで、チンパンジーに手首掴まれたことあったなぁ。
フーリエの方が握力あるわ。
手首の骨がメキメキ鳴っているので、そろそろ引き剥がす。
フーリエの手を無理やり開かせて、脱出する。
明日は、朝の5時に起きる予定だ。
寝床である冷たい床に戻る。
目覚まし時計がないけど、誰か一人くらいは起きるよな……?
一抹の不安が心をよぎるが「まぁ大丈夫だろう」と眠りに着くのであった。