夜の激闘。シルバめっちゃ弱い!
俺達3人は、また村へと戻った。
ここは、3勢力のナワバリが接する境界線ライン。
作戦の決行は明日。
今夜は、村の宿屋に泊まろうとのことだが……。
「大丈夫なのかよ追われてるのに、村の中で寝泊まりだなんて……」
「騒ぎを起こさなければ、大丈夫さ」
フラグ立ててるみたいで、凄く不安だなぁ。
で、見つけた宿屋は、予想通りのボロボロ小屋。
「あの、すいません、泊めてもらいたいのですが」
ドアを抜け、主人に話かける。
無愛想そうな男は、頭をポリポリ掻きながら、
「3人で一晩、9ゴールド」
それだけ言うと、金を出せと手を差し出してきた。
「あの、自分から言うのもなんですが、俺たち追われている身ですけど大丈夫ですか……?」
「んなもん、バレなきゃいいだけだろうが」
「私がお支払いします」
シルバが硬貨を手渡すと、男は「2階」とだけ呟き、壊れかけのイスに座る。
木製の宿屋は、1階部分が家主の住まいとなっており、2階部分が貸し部屋となっているみたいだ。
軋む階段を上り、部屋のドアを開ける。
「なんて部屋だ……汚すぎるぞ……!」
ふと横目でシルバを見ると……青ざめた顔をしていた。
「俺は全然平気だぜ」
「私も気にならないよー」
俺とフーリエは平気みたいだ。
氷河の如く凍えた山、手ぶらでの無人島、大量の毒蛇が住む森――何度もクソ親父にぶち込まれて、野宿をしてきた。部屋がちょっと汚いくらい、なんてことない。
ベッドが二つしかないことも大きな問題ではない。最悪、床で寝ればいいだけだ。
でも、俺も人間だ。出来るならベッドで寝たい。
部屋の隅に転がってる、丸型のテーブルを取り出して、
「それじゃあ、腕立て相撲の時間だ」
「は……?水貴さん、突然どうしたんですか?」
シルバが哀れみの目を向けてくる。
「そんな目で俺を見るな!ベッドが二つしかないからな。腕相撲が一番弱かった奴が床で寝るってのはどうだ?」
「フェアじゃないですよ!水貴さんは腕っぷしが強いですし、フーリエさんはドラゴン。私に勝ち目が無いではありませんか!」
だから、このルールにしたんだろ。
「じゃあ、シルバの不戦敗で」
「わ、わかりました!勝てばいいのでしょう」
「よし。一戦目は俺とシルバでやるぞ」
シルバは上着を脱ぎ、腕をまくる。
どうやら、本当に床で寝るのが嫌みたいだ。
互いに、真剣な目つきで手を組み――力を込める!
「はい、勝ち~!」
秒速でシルバの手の甲がテーブルに着く。
「や、やっぱり私には、この条件きつすぎます!」
シルバが涙目で抗議する。
「負けてから言われてもな~。はい、次はフーリエとシルバね」
「待って下さい!連戦の私が不利です!先に、水貴さんとフーリエさんでお願いします」
「いやいや、シルバさん。一瞬で負けたんだから、疲れとか溜まってないでしょ?」
シルバは苦しみの表情を浮かべて、右腕をさすっている……演技だ。
「どうせ最後に、シルバさんがフーリエに負けて終わるんですから、何やっても結果は変わりませんよ?」
「そんなのあんまりですよ!はい!第二回戦は水貴さん対フーリエさん!ピーピピピー!」
「なんですか、それ……」
シルバが段々と壊れ始めてるみたいなので、消化試合をやることにした。
「フーリエやるぞ!」
「うん!負けないよ!」
フーリエの手を握った瞬間に気が付いた。
こいつ……かなり強いな。
腕相撲は単純に力の強さだけで決まるものではない。
相手の手の握り方で、有利に勝負を運ぶことが出来る――つまり、技術で勝率を上げることが可能。
しかし、フーリエの握り方は、経験者のそれではなく、素人丸出しだ。
にも関わらず、水貴が相手の強さを確信したのは、数々の相手と手合わせした積み重ね。
つまり、直観であった。
これは、本気でやらないと……腕を折られる!
冷や汗が垂れ、膝が震える。
何を恐れているんだ……!
俺だって、あっちの世界では無敗だ!
「いくよ~」
フーリエが悪魔のような笑みを浮かべる。
「よし、来い!」
全身全霊、本気で力を入れる――。
だが、互いの腕はビクともしない。
互角の勝負だ。
「うーん!うーん!」
フーリエが奮起すると、水貴がやや押される。
「負けるか!うおおおおおお!」
始めの場所まで、押し戻し、そのまま流れで決着を図る。
だが、フーリエの手の甲がテーブルに着くことはなく――ボロテーブルの脚が折れた。
「あ……」
木材が折れる鈍い音と共に、終戦を迎えた。
「あ、テーブル壊したので、水貴さんの負けですね!」
「おいシルバ。そんなルール知らないぞ」
「では、私はこちらのベットを使います」
「じゃあ私はこっちで寝たい!」
「……」
え、俺の負けなの?
「それにしても、水貴さん凄いですね、肘でテーブル壊すなんて、まるでボノゴゴみたいです」
いや、ボノゴゴって誰だよ。その例えわからないから……。
テーブルは後日、シルバが弁償することになった。