炎のソルテオ
ルーシャト所属の魔術師――プンクは腰にぶら下げた革袋をガサゴソとまさぐり、中からリンゴのような果実を取り出す。
「それは、ソルテオ!」
フーリエが驚き、指を差す。
「な、なんだそれ?」
フーリエが答えるよりも先に、プンクは赤い果実を、蛇のように丸呑みした。
「魔術を使うための果実だよ!私も戦う!」
プンクの喉を通る大きな膨らみは、軽々と胃まで到達し、消化される。
「ちょっと待って、危ないから、フーリエは後ろに下がって!」
「えぇ!?」
フーリエは不安そうな顔で、距離を取る。
それを確認してから――。
ゴクリと唾を飲みこみ、勢いよく地面を蹴る。
敵の魔術が炸裂する前に、勝負を決めたい……!
瞬間――地面から、マグマが噴火するように、炎の柱が噴出される。
「熱っ!」
空へと伸びる灼熱は、周囲の酸素を奪いながら、行く手を遮る。
「おっと、避けたかぁ!でも、この間合いじゃあ、お得意のパンチは届かないよなぁ」
「何だよ、知ってるのか……」
拳が武器だってこと、バレてるみたいだな。
距離を詰められないように、二人の間に炎柱を作ったわけだ。
接近戦はさせてくれないらしい。
「ならば、こうだ!」
足元に転がる石ころを拾い上げて……投げる。
「痛ァ!」
「よし、ヒット!」
「何するテメェ!危ねぇだろ!」
プンクも負けじと投げ返してくる。
「はい!」
敵の投石は、水貴の顔面へと真っすぐに飛ぶが、簡単にキャッチする。
「な、お前……」
プンクは、苦い表情を浮かべて、後ずさる。
「おっと、おふざけはこれくらいに……真面目に倒させてもらうぜ」
「何なんだテメェ……。まぁ、その、悪いけどもう終わりだ」
何だ……。も、もしかして必殺技が来るのかっ!?
水貴は、どんな攻撃にも対処できるように、神経を研ぎ澄ませる。
「うんにゃ、俺の負け」
プンクはそう呟くと――糸が切れたように倒れる。
「……は?」
芋虫の如く、うつ伏せに倒れたプンクはピクリともしない。
「ソルテオだよ!」
「最初に食べた果実のことか?」
フーリエは、俺の横まで来て、
「ソルテオはね、呪われた果実なの。食べれば少しの間、魔術が使えるようになるけど、効果が切れたら、高熱で動けなくなっちゃうの」
なるほど……。
って、効果切れるの早すぎるだろ!?
線香花火のように儚く散った、敵を尻目に、
「それにしても。フーリエにも知ってることがあるんだな」
「食べ物のことなら、何でも私に聞いてよ!」
得意げな顔で、大きく胸を張る。
「で、こいつ大丈夫なの?死んでないよな?」
「二日間は安静にすれば大丈夫ですよ」
答えたのはフーリエじゃない。
家の影から、土を踏む音が聞こえる。
姿を表したのは、目つきの悪い男。
晴天に恵まれた、暖かな日差しにも関わらず、暑そうな軍服を身にまとっている。
マントをなびかせ歩く姿は、貴族のように優雅であった。
身なり、たたずまいから、この村の人間では無いことは理解できた。
一体、誰なんだろうか……。
「初めまして、お二人に相談があります……が、まずは村から出るのはどうでしょうか?」
男は、薄氷のように冷たく、美しい声で言った。