村を支配する3勢力
「オーリオさん、ありがとうございます」
俺とフーリエを助けてくれた、この老人の名前はオーリオさん。
この村の人間は悪い奴ばかりだと思っていたが、そうではないらしい。
オーリオさんは、テーブルに料理を運んでいる。
森の中では、フーリエが取った果物を少し食べただけで、正直お腹が空いている。
「あの、オーリオさん、この料理って何ですか?」
テーブルに出された料理はどれも初めて見るものだ。
「こっちはカプトの燻製!これは、ユッカの粉を水で固めて、炭火焼きしたものだね!」
オーリオが口を開くよりも早く、フーリエが興奮気味に説明する。
「聞きたいことがあるんですけど、俺達を襲った奴らって……」
「ふむ、アギラの仕業だな」
椅子に座り、そう答える。
「アギラ?」
「この村にあるグループの名前じゃ。村には三つの派閥があるんじゃよ。ローリ、ルーシャト、そして、アギラ。普段から悪さばっかりしとる厄介者じゃよ」
「オーリオさんも、どこかのグループに?」
「わしゃ、どこにも入っとらんよ、3つの派閥を合わせても村人の40パーセントくらいじゃ、ほとんどの人は普通の暮らしをしとるよ」
なるほど、ああいう攻撃的な連中は、村の一部分というわけか……。
「あんたの黒髪は目立つんじゃよ。パトロールに引っかかったんじゃろう」
「パトロール?」
「縄張りに侵入者がいないか巡回してるんじゃよ」
オーリオは続ける。
「ちなみに、ここはルーシャトの縄張りじゃ」
「そうか。だから、アギラの奴らは急に追いかけるのを止めたのか」
さっきから、フーリエが一言も話していないので、気になり目を向ける。
彼女は心底美味しそうに料理を食べている。話どころじゃないみたいだ。
「オーリオさん、信じてもらえないかもしれないけど、俺はこの世界の人間じゃないんです。この世界のことも何も知らなくて、どうしたらいいんですかね?」
「ふむ、事情はわからんが、行く当てに困った人間なら、何人も見てきたわい。そいつらに、わしが勧めてきたのは、『帝都ハントヘカテ』じゃ。最近になって情勢が悪くなっとるが、それでもここらでは一番安全な場所じゃな」
帝都ハントヘカテか……よし、そこに向かおう。
「オーリオさん、本当にありがとうございました、俺はハントヘカテに向かいます」
真剣な眼差しで、別れを告げる。
「ちょっと待つのじゃ、今晩は泊まっていきなさい、噂は広まってる、村を出る前に見つかるのがオチじゃ」
「ありがとうございます。でも、俺達がここにいたらオーリオさんも危ないですから……。出て行きますよ」
そう言って席を立つと、壊れかけのイスが静かに軋む。
「ほら、フーリエもお礼言えよ」
「ありがとうおじいさん!ユッカ美味しかったよ!」
「ハントヘカテまでの地図じゃ、持っていきなさい」
オーリオさんから、一枚の羊皮紙を受け取る。
「気をつけて行くのじゃよ」
「はい、ありがとうございました」
別れを告げ、外に出る。
さて、見つからないように慎重に、まずは村から出なければ。
周囲を見回すが、人の気配はない。
木製の家の裏、大きな通りを避けて、道を進む。
時間は正午といったところ。
昼食の時間なのか、ところどころの家から、魚を焼くような香ばしい匂いがする。
誘惑されたのか、フーリエがだらしなく、よだれを垂らしている。
「フーリエ……お前さっきあんなに食べていたのに、まだ食欲あるのかよ」
「ふわぁ……いくらでも食べられるんだよ~」
トリップしかけているフーリエを尻目に、
「太るぜ?俺の兄貴みたいに」
俺の兄貴こと、デブニート。
体重に似合わず、めっちゃ動けるやつ。
流石、冬滝の血が流れているだけあって、格闘技の才能は抜群だが、ニートである。
そのせいで、弟の俺が兄貴の分までビシバシとしごかれたものだ。
もっとも、俺もニートとなり、破門――からの異世界転移。
一族最後の希望となった兄貴は、今頃、ヒーヒー言わされているのだろうか。
そんなことを考えていると、一人の男が待ち構えていることに気がつく。
「姿が消えたから、もう村から出てったかと思ったが、いやはや、偶然俺に見つかるなんて不運だねぇ」
男の瞳は、獲物を狙うハンターの目だ。不吉な笑顔を浮かべながら、
「おっと自己紹介がまだだったな。俺の名前はプンク。ルーシャトに所属している魔術師だ」
ルーシャト……。この村に巣くう3勢力のひとつだ。
しかし、魔術師とはなんだ……。
この世界にはそんなものが存在するとでも言うのか。
「アギトのクソ共をボコった黒髪は、お前のことだな?ルーシャトの俺としては、その件は感謝しているが、よそ者が村に入るのは許せねぇよなぁ」
「……」
「まぁそう言うことだ。ボスのとこまで、連れて行ってリンチするけど構わねぇな?」
どうやら、会話が出来る相手ではないらしい。
魔術師なんて奴と戦うのは始めてだが、やるしかない……。