リーダーの責務
「魔術なしで、こういう芸当は止めてほしいね……」
仰向けで倒れたカウリィは、よろよろと、地面に手を突き、起き上がる。
気絶させるつもりの一撃だったのだが、これは、魔術による防御だろうか?
だが、奴の手から杖は離れ、立ち上がるのも精一杯の状態……かなり優勢だ。
カウリィは真剣な眼差しで、俺を見据えて、
「ボービは愚直な男だ。卑怯の類を嫌った、とにかく真っすぐな奴でね。僕はいつも、こう言ってたんだ……そんなことにこだわらずに、アギラの利益のみを最優先にしてくれとね」
「なんだよ突然、何が言いたいんだ?」
カウリィの言いたいことがわからない。
「あれを見てくれ」
カウリィが指差す方向を見つめる。
「な……っ!?」
そこには、アギラのメンバーに、ナイフを突きつけられたオーリオさんの姿があった。
「こういうことさ。僕はアギラのリーダーだ。組織を活かすためなら、どんな卑怯なことでもやってのける。それが、長としての義務なのさ」
「オーリオさん……!」
「わしに構うな!カウリィを潰せ!」
そんなこと出来るわけないだろ……。
俺の責任だ。シルバからカウリィの性分について、知らされていたのに油断していた。
場が硬直する中、周りを見回すと、何かが足りないような違和感がある。
なんだろう、この感覚は。
あっ……!
ドボルフィッシュさんの姿がいない!
ついさっきまで、俺に容赦なく野次を飛ばしていたのに……。
目だけを動かして、周囲を探す。
ボロ屋の影となる、細道。そこに置かれたドラム缶の後ろから、にょきっと棒が生えている。
あ、ドボルフィッシュさんの棒だ!
ドラム缶の位置は、オーリオさんの10メートルほど後ろ。
後ろから奇襲して、人質の解放を狙っているみたいだが……。
ドラム缶で体を隠せているが、棒が、がっつり出ている。
俺とオーリオさんとの距離は30メートルほど、流石にリミッターを解除しても、一瞬で距離を詰めるのは厳しい。
もう少し上手く隠れてくれないかと文句を言いたいところだが、彼に頼る他なさそうだ。