始まりの村が、治安悪すぎる件
俺とフーリエは、二日間歩き、やっと村に辿り着いた。
村の雰囲気は、お世辞にも良いとは言えない。
木製の家が立ち並んでいるが、乱雑に家が配置されており、計画的に整備されて作られたようには見えない。
唯一の所持品だったパンツも燃やされ、フルチン状態なので、こっそりと人に見つからないように、裏道を通る。
ところどころにゴミが捨てられており、大きなリスみたいな生き物が足元を走り回っている。
「あの、リスみたいなやつは何?」
「リス?あれはビビットって言うんだよ、人間を襲うモンスターじゃないから大丈夫だよ」
「やっぱり、ここ日本じゃないよなぁ……」
あの不思議モンスターを見た瞬間に、水貴の淡い期待が崩れ去った。
総合的に考えても、日本とかそんな話じゃなくて、世界が違う……。
でも、家を追い出された俺が、仮にあのまま日本にいたとして、希望があっただろうか。
本心を述べるなら、俺はニート生活を送りたかったわけで、あの世界にこだわりがあったわけではない。
道の端に捨てられたボロ服を拾い、家の影に隠れて、二人はそれに着替える。
「よし!これで村の人に話を聞けるぞ!」
周りを見回し、話を聞けそうな人を探すと、道の端に座り込む男を見つけた。
営業スマイルを浮かべて、男に近づき、
「すいません、ちょっと話いいですか?」
「殺すぞ」
ダメだった。
変な人に声をかけてしまったようだ。
笑顔で後ずさりして、急旋回。
別の人を探す。
今度は女性だ。50代くらいだろうか、年配の女性に話しかける。
「あの、すいません、ちょっと話いいですか?」
「坊や殺されたい?」
殺伐とした村だなぁ、オイ。
なんでこんな治安悪いんだ……。
周りを見回すと、大柄な男性が4人。
こちらに近づいて来ていることに気が付いた。
男達の目は、「にーちゃん殺されたいか?あぁ?」と言いたげだ。
というか、剣持っているし、バイオレンスな未来しか想像できない。
「フーリエ、下がるんだ!」
「ほぇ?」
フーリエは、のほほんとした表情を浮かべ、首をかしげる。
「いいから下がるんだ!」
男達は目と鼻の先まで近づいて、
「てめぇ、ここで何してやがる?」
4人の中で一番大きな、大男が荒々しい息づかいで言った。
どうしたものか。
命の危険だ、フーリエも守らなきゃいけない。
ぶん殴って沈めるしか……。
冬滝の一族では、リング外での暴力はダブー。
だが、そんなこと俺は気にしない!
戦いの定石は先手必勝!
先制攻撃の一発で相手のHPをゼロまで減らすこと――それこそが喧嘩の必勝法!
「どりゃあああああ!」
大男の顔面を殴り、すかさず、残りの3人にも、鉄拳をお見舞いする。
「ふぅ、危ないとこだった!」
男達は全員、一撃のパンチで気絶した。
4人とも剣を持っていたが、どれほどの腕前かはわからない。
なにせ、一回も剣を使わせずに沈めたから。
「逃げるよフーリエ!」
「え……うん!」
フーリエの手を取り、町を走る。
騒ぎになっちゃったし、なんか治安もよくないし、村から離れよう。
振り返ると、さっきとは別の奴らが追いかけて来ている。
「なんなんだよいったい……」
今度は、正面を刺客が待ち構えている。
挟み撃ちを脱するために、道を曲がる。
――すると、男達は悔しそうな表情を浮かべて、追いかけるのを諦めた。
なんだ?……なぜ追って来ないんだ?
あんなに血眼だったのに、急に引き返すなんて……。
「あぁ、ごめんフーリエ、急に引っ張って」
「うーうん!全然へーきだよ!」
フーリエには緊張感が無いらしい、ニコニコと笑っている。
最後、道を曲がったところで、また町の内側に入ってしまった。
町から出ないと……。
しかし、1分も経たないうちに一人の老人に見つかってしまった。
フーリエの手を握り、逃げようとすると――。
「おぉおぉ、ちょっと待つんじゃ」
老人は慌てたように言った。
「そっちは危険じゃから、とりあえず中に入りなさい」
そう言うと、老人はボロ家の中に入っていった。
敵じゃない?匿ってくれるのかな。
優しいおじい様であることを、心から願うのであった。