スピリトファイト
ボービの提案した「スピリトファイト」の誘いを受けて、アギラの拠点内部にある、リング場にまで来た。
リングは、六角形。六本の木材と、紐で作られた簡単なものだ。
「今、準備をしてるとこだからちょっと待ちな」
ボービはウォーミングアップをしており、部下達が準備をしている。
部下の奴らが何をやってるのかはわからないが、リングを囲む木材の柱や、リング上の地面に、何やら文字を書いている。
「あれ、なんの準備なんだ?」
シルバが答えるよりも先にボービが、
「スピリトファイトは、人間の持つ『力』を精霊に誇示するための儀式だ。今じゃ、ただの競技に過ぎないが、こうやって、精霊様に観戦してもらうってわけだ」
「ボービ!なぜ、私の解説を奪うのですか!」
「いや、解説役は誰でもいいよ……。つまり、この文字みたいな書き込みで、精霊がこの戦いを見れるようになるってことか?」
「寸分の狂いなく、その通りだ」
なるほど、そういう競技なのか。
いやまて、まず肝心なルール知らないぞ!
「ルールは簡単だ。武器や魔法は禁止、ただ素手で相手を倒せばいいだけさ。敵が負けを認めるか、十秒間地面に伏させることが出来れば勝ちだ」
なるほど。ほとんど禁止行為はないってことか
「俺はこの競技が大好きでなぁ。通算で千回は戦っている。だが、負けたことは一度もねぇ」
「凄まじい勝率だな」
「まぁ、嘘なんだけどなぁ」
「お前、何がしたいんだ……」
ボービの冗談に呆れ顔になる。
こいつもバカなのだろうか。
「へへへ、ちょっとためしてるだけだぜ」
「ためす?」
「あぁ、そうさ。普通の奴なら、俺を相手にスピリトファイトなんてやろうとはしねぇ。さっきの冗談にも眉一つ動かさねぇし、テメェはプロだってことだよ」
ボービは薄気味悪い笑みを浮かべて、
「俺もお前も、戦う場所は違えど、戦闘のプロだ。仕草でわかるんだよ。そういう立場のちげぇ奴と戦うのが、一番の楽しみだ」
なんとなくこの競技を理解出来た。素手なら何でもありという、極限までルールが削ぎ落されたこの戦い。ファイトスタイルの異なった奴らが競い合う、絶好のフィールドってわけだ。
「準備が出来ました!リングの中央へ来てください」
互いに、柵を乗り越え、リングの中央で睨み合う。
「右手を出してください」
差し出した手に、何か文字が刻まれた。
「おい、これ風呂で消えるんだろうな?」
「心配無用だ。試合が終われば勝手に消える」