地獄に落ちたヒキニート、全裸の痴女に燃やされる。
ゆさゆさ……
誰かが俺の体を揺さぶっている。
「あれ~、全然起きないな~。もしかして死んじゃってるのかなぁ」
さらに強く揺さぶられる。
「う、う~ん……」
まぶたをこすりながら、体を起こす。
「よかったぁ!生きていたんだね!」
どこだ、ここ……。
目を開けるとそこは暗い密林であった。
水貴はガバっと立ち上がり、慌ただしく周りを見まわす。
「げぇ!どこだここ!」
周囲の異変に気が付き、寝ぼけていた頭が一瞬で覚醒する。
魚のように口をパクパクさせていると、少女が近づいてくる。
「人間なんて見るの何年ぶりだろ~、どこから来たの?」
「え、あぁ俺は……って、えぇ!?」
そこで初めて、少女が全裸であることに気が付いた。
こいつ……変態だ!
ち、痴女なのか……ってあれ?俺もパンツしか履いてないじゃん……。
水貴は思い出す――道場でモ〇バーガー食べていたのを父に見つかり、身ぐるみを剥がされて、パンツ一枚で家から追い出されたことを。
「と、とりあえず服!」
近くに、古着と木の枝で作られたボロボロテントがある。
水貴はそれを両手で掴み、勢いよくひっぺ返した。
「それ、私のお家~」
痴女が何か言っているが気にしない。
縫いつけられた古着たちを、マントのようにして体に羽織る。
「お前もとりあえず、これ着てくれ」
もう一枚、少女に差し出す。
ふぅ……これで目のやり場に困ることはない。
彼女は俺と同じ、高校生くらいだろうか……。
燃えるように真っ赤なロングヘアーに、ルビーのようにキラキラしたひとみ。
人当たりのよさそうな、柔和な笑顔を浮かべている。
少女は今、喜々とした目で、俺の体の周りをぐるぐる回り観察している。
時々、マントの隙間から、大きな胸元が見えてドキドキする……。
さっきはモロで見てしまったし……顔を合わせるのが恥ずかしい……。
「君、名前なんて言うの!」
少女は興奮気味に、俺の肩を揺らす。
「冬滝水貴……です」
逃げるように一歩後ろに下がり、答える。
「私はフーリエだよ、よろしくね!」
少女は一歩前に進み、俺の両手を握るや、上下にブンブン振る。
掴まれた両手を振り払い、一歩後ろに下がり、
「あの……ここどこ?」
一番気になっていたことを質問する。
「森だよ」
「……えっと、どこの森?」
「……?森は森だけど?」
少女は「何を言っているのだ」と言わんばかりに首をかしげる。
「わかった、じゃあ、町まで案内してくれないかな?」
「いいよ!でも、遠いけど大丈夫?」
「どのくらい……?」
ゴクリと唾を飲む。
「二日くらいかかるかなぁ」
まじか……。本当にどこなんだここ……。
周りは樹木ばかりで、樹海のようだ。
一人で帰るのは難しそう……。
「じゃあ、悪いんだけど、町まで案内してよフーリエ」
「よし、じゃあ出発だよ!」
フーリエは、右腕を高く掲げると、すたこらと歩き始めた。
「行動するの早っ!もう行くのかよ」
置いて行かれないように、駆け足で後につづく。
フーリエは太陽のような笑みを浮かべて森を歩く。
一方の俺は、魂を抜かれたカエルのような顔で、歩を進める。
時々、こちらを振り向き、何か言っているようだが、よく聞こえない。
この異常事態に、脳みそがパンクしかけている……。
「~~~~!」
あれ、なんかちょっと怒ってないか……?
フーリエが眉間にしわをよせて、餅のように頬を膨らませている。
そして、次の瞬間――口から火を吹いた。
なんだろう、俺の体が火で包まれているような気がする。
いや……気がするじゃなくて!本当に燃えてる!
「ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
地面を転げまわり、体を走る炎を消す。
焼きガエルにされ、横たわる俺の肩を、フーリエが乱暴に揺らす。
「もぉ!ちゃんと私の話を聞いてよ!」
追い打ちをかけるフーリエから、逃げるように転がる。
「なんなんだお前!」
震える手足を使い立ち上がる。
服は全部燃えてしまったので全裸だ。
「あぁ!言ってなかったね!聞いてよ、私ドラゴンなんだよ!」
怒りの表情は一瞬で、満面の笑みとなる。
「ドラ……ゴン……なるほど」
いや、全然わからないけど、怒らせたら怖いやつってことは理解した。
「あれ、もしかしてフーリエは空飛べたりするの?」
「ドラゴンなんだから、飛べるわけないでしょ~」
「そ、そうですよね!飛べるわけないですよね!」
うんうんと頷くフーリエ。
なんかやっぱり、ここは俺の知っている世界じゃない気がする。
ドラゴンだか何だか知らないが、こいつも普通じゃない……。
神様はきっと、ヒキニートの俺を地獄に突き落としたんだ。そうに違いない。
それが、ドラゴン――フーリエとの出会い。
二人で魔術師と戦う物語。
毎日更新していきますー