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ラストピース・ヒーローアウェイクン ~チェンジヒーロー・アスタリスクより~

作者: ホムラ

仮面ライダー、戦隊ヒーローのような特撮ヒーロー

アメコミ的なヒーロー

そんなテイストで書いたヒーロー短編小説です。

●0●


「"No More Hero(ヒーローなんて、居ない)"」


 どんなに泣いても。

 どんなに嘆いても。

 どんなに苦しくても。

 どんなに悲しくても。

 ヒーローは居ない。

 ヒーローは来ない。

 それが、真実。

 それが、本当。

 

「――だって、来てくれなかったじゃない」


 私はそう言って、笑った。

 嗤った。

 嘲笑ったのだ――

 

●1●


 この世界には、超人がいる。

 生まれつき鋼鉄の肉体を持ち、空を飛ぶ者。

 人体改造によって、人外のチカラを得た者。

 秘められた外道知識――魔法を行使する者。

 超能力者、宇宙人、未来人――様々な、人を超えた存在達。

 そのチカラで人に仇なす超人もいれば――そのチカラで人を護る超人もいた。

 人を護る超人は"ヒーロー"と呼ばれ、人々の羨望を受け取っていた。

 

●●●


 俺の名は日下部ダンテ。またの名を"チェンジヒーロー・アスタリスク"と言う超人――ヒーローだ。

 コスモシティという都市のヒーローチーム"クルセイダーズ"に所属し、日夜ヒーローとして活動している。

 その日、俺はいつもと同じようにヒーローとしての任務を受けていた。

 任務内容は、とあるカルト研究集団のビルに囚われた、ある女の子の救出。

 資料に添付された写真の彼女は、手術着のままベッドに縛り付けられ、怪しげな機械から伸びたコードに繋げられた痛々しい姿をしていた。老人のような白の長髪に、諦観に満ちた光の無い目が、彼女の受けた過酷な状況を物語っていた。

 任務を受けてから一時間後。目標ビルの前に俺達"クルセイダーズ"は集合していた。

 全身タイツにマントのヒーローや、緑色の肌を露出した人外姿のヒーローといった多種多様なヒーローが集まっている。

 その中に、"変身"した俺――黒のパワードスーツに身を包んだヒーロー"チェンジヒーロー・アスタリスク"の姿もあった。

 さあ全員で突入するぞ、と言う時だった。その異常(・・)が起きたのは。

 

「――光?」


 突如として世界の全てを、真っ白な光が覆い始めたのだ。

 光は、空から降り注ぎ、徐々に強くなっていく。まるで全てを真っ白に塗りつぶす様に。――漂白するかのように。

 

「――アスタリスク!!」


 異常な光に包まれ茫然自失となっていた俺に、仲間のヒーローの一人――白衣に白い仮面のヒーロー"ドクタータキオン"が強い口調で叫んできた。

 時空間を操る彼は、俺の目の前に真っ黒な空間の「穴」を作り出しながら、言葉を続ける。

 

「説明している時間は無い! ()()特異点(・・・)()! ()()最後(・・)()希望(・・)だ!(・・) 世界(・・)()――()てを(・・)()ってくれ(・・・・)!!」

「最後!? 救う!? どういうことだドクター!!」

()んだぞ(・・・)


 そう言って彼は、俺を「穴」に向けて蹴り落した。

 俺は混乱したまま「穴」に落ちた。

 どこまでもどこまでも。果ての無い闇の中を、俺は落ち続けた――

 

●●●


「――う、うわあああああああ!!!」


 気づいた時には、俺は空中に放り出されていた。

 上空500メートルほどの距離。見える景色は、夕焼け色に染まったコスモシティの高層ビル街。

 

 ――時空間転移!?

 

 ドクタータキオン。彼の能力は時空間を操り、時間と空間を越えた「穴」を作り、様々なモノを移動させることが出来るというものだ。

 

 ――ならば今はいつ(・・)だ――!?

 

 ドクタータキオンの能力によって「穴」をくぐったのならば、時間も先ほどとは違うハズだ。

 俺はスマホ型情報端末ガジェット"アスタフォン"を取り出し、落ちながら時間を確認する。アスタフォンは衛星とリンクし、地球上であればいつでも正確な情報を表示してくれる。

 アスタフォンの画面に映った現時刻は――

 

「2028年!? 10年後の世界だと――!?」


 叫びながら、俺は地面へと落ち続けるのだった――

 

●●●


「10年後の世界、か。ドクターは何のつもりで俺をこんな時間に送ったんだ……?」


 無事地面に着地した俺は、変身を解いてコスモシティの街中を歩いていた。

 モノクロボーダーのシャツに赤いネクタイ、黒のジャケットに黒の中折れ帽という私立探偵じみた俺の服装は、幸いにも10年後の世界でも特に目立つようなモノでは無いようだった。

 10年後のコスモシティは、見た目上は俺にとっての現代――10年前、2018年と変わっていないように見えた。

 時刻は17時。黄昏色に染まる都市の中を歩くのは、会社に帰ろうとするサラリーマンや、帰宅する学生達だ。

 それだけなら、俺の知るコスモシティと変わらないのだが――

 

「何だあれは……?」


 ビル街を歩く人々の中に、まるで警備員の様に立つ人型の存在がある。

 灰色の人型ロボットだ。彼らはその場に直立し、首だけを動かしている。

 まるで――

 

「人を監視してるみたいだな」


 そんなことを思いながら、俺はアスタフォンで10年後の世界を調べ始める。

 10年前のあの時、何が起きたのか。あの謎の光は何なのか。ドクターが俺を10年後の世界に送るような事件が起きているのか。

 2018年。事件。コスモシティ。

 そんな簡単なキーワードで、ネットは情報を教えてくれた。


 ――"オールデリート"。

 その"事件"はそう呼ばれていた。

 2018年11月24日――俺がこの時代へと送られたあの日、あの時間。謎の光が世界を覆いつくし――()てのヒーローが(・・・・・・・)()えた(・・)

 まるで消しゴムをかけたかのように。まるでキーボードの削除(バックスペース)キーを押したように。

 全てのヒーローの存在が、完全に消えてしまったのだという。

 そしてその日、ある超人が世界に姿を現した。

 アルティマクイーン。白の長髪に黒のゴシック衣装の少女。彼女は、あらゆる存在を意志一つで改編できる、現実改変能力を持った超人だった。

 アルティマクイーンは世界に向けて宣言した。

 

『全てのヒーローは私が消した』

『世界よ、私に従え』

 

 彼女は世界に向けて宣戦布告。自身の能力で生み出したロボット兵を世界中に送り込み、世界を征服。

 ――現在、2028年。世界はアルティマクイーンによって支配されている。


「――マジかよ……」


 アスタフォンに映し出された情報に、俺は低く呻くことしか出来なかった。

 ヒーローと呼ばれた仲間達は全員消えている。

 世界はアルティマクイーンというただ一人の超人によって支配されている。

 絶望的だ。目の前が真っ暗になるほどに、絶望的な状況だった。

 

「俺に、何をしろって言うんだよ、ドクター……」


 俺はただ、力なくそう呟くことしか出来なかった。

 

●2●


「――あぁっ」


 夕焼けに染まるコスモシティのビル街。ロボット兵の監視の下、人々が歩く通りに、不意に声が聞こえた。

 見れば、一人の子供がこけて、倒れていた。ランドセルを背負った、小学生ぐらいの子供だった。


「あ、ああ、あああああああ……!」

「――なんだ?」


 子供が、顔を真っ青にして悲鳴を上げている。その余りの真に迫った様子に、俺は違和感を覚える。

 何事か、とその子供に俺は駆け寄ろうとする。しかし、俺よりも先に子供に近づく影があった。

 ロボット兵だ。


「異常行動ヲ検知。異常行動ヲ検知」


 目を赤くピカピカと光らせながら、ロボット兵は警告音(サイレン)の様に「異常行動ヲ検知」と繰り返し、子供に近づき――


「異常ハ、排除シマス!」


 腕を銃に変形、銃口を子供へと向けた。

 

「何やってんだお前ェ――ッ!!」


 叫び、俺は子供とロボット兵の間に割り込む。背中に子供を護りながら、ロボット兵に対峙する。

 

「お前、その銃で何をするつもりだ!」

「異常存在ノ排除。異常存在ノ排除」


 ザッザッザッ。

 統一された足音が、俺達の周囲に近づいてくる。

 

「世界ハ平穏デ無ケレバイケナイ」

「ソレガ"あるてぃまくいーん"様ノ命令」


 周りを歩いていた人々は俺達を避けるように引き、その前に複数のロボット兵が姿を現した。

 ロボット兵達は俺と、背中の子供を囲むように集まってくる。


「平穏ニ異常ハ要ラナイ」

「画一化サレタ"普通"ノ行動ヲ取リ続ケナケレバナラナイ」

「"普通"カラ外レタ"異常"ナ個体ハ」

「排除スル!!」


 ロボット兵達が銃口に変形させた腕を一斉にこちらに向けてくる。

 

「ああ……嫌だ……誰か……助けて……」


 背中からは、怯え切った子供の声が聞こえる。もう駄目だ、という諦め、絶望が入り混じった声色だった。

 だから(・・・)俺は、後ろを振り返り、子供に笑いかける。

 

「大丈夫。君は絶対に、死なせない」

「え――?」


 俺はベルトのスイッチを入れる。変身ベルト"アスタドライバー"は、電子音と共に起動する。


『レ・デ・ィ』

「――変身!!」


 瞬間、光が爆裂する。

 俺は真っ白い光に包まれ――次の瞬間、黒のパワードスーツに身を包んでいた。

 

『ヒーローライド! "アスタリスク"!!』


「チェンジヒーロー・アスタリスク! さぁ――行くぜ!!」


 "変身"した俺は拳を握りしめ、ロボット兵達へと突撃する――

 

●●●


「"ひーろー"ダト!? "ひーろー"ハ10年前ニ消エタハズデハ!?」

「異常! 異常!! 異常存在!! 異常ハ――排除スル!!」


 一体のロボット兵が警告音(サイレン)のように叫びながら、腕を剣へと変形させ、俺を迎撃しようとする。

 

「"剣"には"剣"だ。"チェンジヒーロー"の力、見せてやる」


『ヒーローライド! "宮本武蔵"!!』


 再び変身ベルトから電子音が響き、光が爆裂。次の瞬間、俺の姿は黒から赤へと変わっていた。

 赤い装甲のパワードスーツに、二本の刀を持った姿。

 

「二天一流……ってな!」

「姿ヲ変エタ所デ! コノ豪剣ハ受ケラレマイ!!」


 ロボット兵が剣腕を叩きつけてくる。その人を容易く両断しそうなその豪剣を、俺は両手の刀で軽く受け止める。

 まるで、剣の天才――宮本武蔵の様に。

 

「馬鹿ナ! 人間ニ受ケキレルハズガナイ!!」

「ただの人間には無理でも――英雄なら話は別だ」


 これがチェンジヒーロー・アスタリスクの能力。"英雄"と呼ばれた存在の力を一時借り、その身に宿すことが出来る。

 俺はたった一人で、無数の英雄の力を奮えるのだ。

 

『"宮本武蔵"! クリティカルブレイク!!』


 ベルトの電子音と共に、俺は必殺技を放つ。赤いエネルギーを纏った二本の刀が、ロボット兵を受け止めていた剣腕ごと×の字に叩き切る!

 

「馬鹿……ナ……」


 ――爆散。

 

 剣腕のロボット兵は火柱を上げて爆発四散した。

 

「オノレ! ヨクモォ――!!」


 ロボット兵の一体が、銃に変形した腕を俺に向けながら突撃してくる。

 

「"銃"には"銃"!」


『ヒーローライド! "ビリー・ザ・キッド"!!』


 電子音と共に、俺の姿は茶色へと変わる。右手には出現するのはリボルバー拳銃だ。

 

『"ビリー・ザ・キッド"! クリティカルブレイク!!』


 電子音と共に、エネルギーを纏った必殺技――リボルバー拳銃の六連射をロボット兵へと叩き込む。

 六発の弾丸は狙い過たず全弾ロボット兵を撃ち抜き――ロボット兵は静かに倒れた。

 

「目に留まらぬ早撃ち――ってな」

「エエイ! 全員デ囲メ――ッ!!」

「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解!」「了解ィ――ッ!」


 残ったロボット兵達が全員で俺を囲もうと集まってくる。腕を銃やら剣やら、様々な武器へと変形させて、俺を袋叩きにするつもりのようだ。

 

「"一"対"多"なら――彼の力だ!」


『ヒーローライド! "ニコラ・テスラ"!!』


 電子音。再変身。俺は黄色のパワードスーツへと姿を変える。

 

「ニコラ・テスラは発明家にして電気技師。彼の力は、これだ!」


『"ニコラ・テスラ"! クリティカルブレイク!!』


 両手を、俺を囲もうとするロボット兵達へと向ける。黄色い両手には、バチバチと電気が唸りを上げていた。

 

「交流電気! ハァッ!!」


 稲妻が俺の両手からロボット達へと走る。交流電気の濁流がロボット兵達を飲み込むように放たれ、彼らに命中・スパークさせる。

 

「ガガガガガガガァ――――――ッッッ!?!?!?!?」

「馬鹿ナ」「馬鹿ナ」「馬鹿ナ」「馬鹿ナ」「馬鹿ナ」「馬鹿ナ」「馬鹿ナァ――ッ!?!?」


 ――轟ッ!!


 ロボット兵達はまとめて悲鳴を上げ、爆発・炎上した。

 後に残ったのは、炎上し黒い煙と赤い炎を上げるロボットの残骸と、俺・アスタリスクと――呆然とこちらを見る、子供だけだ。

 

「もう大丈夫だ。君は逃げろ」


 その言葉に弾かれるように、子供は立ち上がり、一目散に走りだした。周りで俺達の戦闘を見ていた人々の中に紛れ込み、その姿は見えなくなる。

 

「さて、思いっきり喧嘩を売っちまったが……どうしたもんかね」


 そう思案する俺の頭上から、不意に声が聞こえてきた。


「――まさか、本当に"ヒーロー"が現れたなんてね」

 

 その声に頭上を見上げると――そこには宙に浮かぶ、一人の女の姿があった。

 長い白髪。黒のゴシックドレス。

 この世界の支配者。世界唯一の超人にして、最強の現実改変能力者。

 アルティマクイーンが、夕焼けに照らされてそこにいた。

 

●3●


「いきなりアンタが出てくるとはな……!」


 頭上に浮かぶ白黒の姿に、俺は緊張を覚えながら両手を相手へと向ける。黄色い両手に、俺は唸りを上げて電気をチャージ、いつでも放電出来るようにしておく。

 

「一応名乗っとくぜ。俺はチェンジヒーロー・アスタリスク。アンタはこの世界の支配者――アルティマクイーンだな?」

「ええそうよ。私は貴方なんて知らないし――知る必要も無いけどね」


 言って、彼女は底冷えするような冷たい瞳でこちらを見やる。こちらの存在の全てを否定するような瞳。塵芥や害虫を見るような瞳だった。

 

「女王様だ……」「アルティマクイーン様……」


 俺の周りにいた人々は、彼女の姿を見た途端跪いていた。

 その絶対服従っぷりに、俺はゾッとする。

 

「"世界の支配者"ってのは嘘じゃないみたいだな」

「ええ、本当のことよ。貴方達(・・・)ヒーローと(・・・・・)()ってね(・・・)


 妙に棘のある言い方だった。俺は違和感を覚え、問いただそうとするが、その前に彼女が口を開く。

 

「私は"ヒーロー"を認めない。その存在を許さない。だから――消えて」


 ――"No More Hero(ヒーローなんて、居ない)"

 

 瞬間、俺の意識が遠のきかける。世界が白い光に満たされ、身体の感覚が希薄になり――

 

「――()()! ()はここにいる(・・・・・・)!!」


 全力で、彼女の言葉を否定する。そうしなければ、彼女の意志に流されるまま"俺"という現実は改変され――"無かったこと"にされそうだったからだ。

 

「――へぇ」


 彼女がこちらに向ける視線の色が、少し変わる。ゴミを見る目から、少し興味深いゴミを見る目へと。

 

「私の現実改変に抵抗するなんて。貴方は現実改変能力者ってわけじゃないみたいだけど――あれかしら。あらゆる概念的な干渉を受けない存在――"特異点(・・・)"って奴」


 特異点。そういえば、そんなことを俺をこの未来に送った人――ドクタータキオンが言っていた気がする。


「アルティマクイーン。お前の能力は俺には効かないみたいだな」

「みたいね。でも、それがどうしたというのかしら。それならそれで(・・・・・・・)いくらでも(・・・・・)方法(・・)はあるわ(・・・・)


 言って、彼女は視線を俺から外し――俺の周り、跪く人々へと向ける。

 

「民達よ、命令です。――その"ヒーロー"にしがみ付きなさい」

「「「「「はっ!」」」」」

「――何ィ――!?」


 彼女の命令に従い、人々が俺にしがみ付いてくる。振りほどこうにも、彼らは必死な形相で腕に、脚に絡みついてくる。

 無理に振りほどこうとすれば、彼らを傷つけてしまいそうだった。

 それゆえに抵抗できず、俺は人々にもみくちゃにしがみ付かれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

「――クソっ」

「無様ね。人々を護るのがヒーロー……だっけ? その偽善のせいで貴方は動けない。動けない貴方なんて、現実改変能力を使わなくても殺せるわ」


 地面に静かに降りた彼女は、手の中に短剣を出現させる。身動きの取れない俺に近づきながら、短剣をこちらへと向ける。

 

短剣(これ)で心臓を一突き。それで終わり。あっけ無かったわね」


 やがて彼女は動けない俺の目の前に立つ。手にした短剣を俺の心臓の位置に向け、冷たい目でこちらを見る。

 

「さようならヒーロー。やっぱり、貴方達には何も護れないのよ」


 失望に満ちた言葉だった。

 その言葉と、彼女の目。それに、不意に俺は思い出した。

 あの(・・)()()彼女(・・)のことを(・・・・)


●4● 


 ――老人のような白の長髪に、諦観に満ちた光の無い目――

 

 あの日。俺がこの時代へと飛ばされた日。アルティマクイーンが、全てのヒーローを消した"オールデリート"の日。

 俺達は、あるカルト研究集団に囚われた少女を助けようとしていた。

 カルト研究集団によって囚われ、改造されていた少女。

 彼女の瞳と、アルティマクイーンの瞳が重なる。

 瞬間、俺の中で全てが繋がった。

 あの日、俺達が助けようとした彼女こそ――アルティマクイーンだったのだ。

 

「八坂、ルナ」


 俺の言葉に、アルティマクイーンが動きを止める。

 

「資料に載っていた。あの日、俺達が助けようとした少女の名前。そして――君の名前」

「――ええ、そうよ。私は八坂ルナ。あの日まで――貴方達ヒーローが助けてくれなかった存在」


 彼女はあの日の資料通り、絶望と諦観に満ちた瞳で俺を見る。

 

「貴方達ヒーローは助けてくれなかった。私がどんなに辛い思いをしても。どんなに泣き叫んでも。決して、決して助けに来てはくれなかった。

 その結果私は――最強の現実改変能力なんて、バケモノのチカラを得てしまった。

 助けようとした? それに何の意味があるというの? 現実に、私は助けられなかった。

 だから私は、私の現実を世界に突きつけたのよ。

 ――ヒーローは居ない、ってね」

 

 彼女は口角を上げ、笑みの表情を作る。

 

「ヒーローは居ない。ヒーローなんて居ないのよ。それが真実。それが現実」

「――違う」


 彼女の言葉を、俺は否定する。

 

「ヒーローは、居る。

 どんな絶望的な状況でも、どんなに理不尽な運命に晒されても。

 ヒーローは必ず――助けを求める人の下に、駆けつけるんだ」

「それは、嘘よ。だって――貴方は、ここで死んじゃうんだから!!」


 叫び、彼女は短剣をこちらへと突き刺してくる。

 

 ――今だ!

 

「脱出王!!」


『ヒーローライド! "ハリー・フーディーニ"!!』


 俺の変身ベルトから電子音が鳴り響く。同時に、俺が纏うパワードスーツの色が青へと変わる。

 宿した英雄はハリー・フーディーニ。通称――脱出王。

 

『"ハリー・フーディーニ"! クリティカルブレイク!!』


 瞬間――俺の身体は人々のしがみ付きという拘束を抜け出し、彼女の短剣をつかみ取っていた。

 あらゆる拘束からの脱出。それがフーディーニという英雄の力だった。

 

「くっ――拘束を逃れたから、何だと言うの!? それくらいで私に勝ったつもり!?」


 アルティマクイーンが短剣を離し、再び宙へと浮かぶ。

 

「ヒーローなんて居ない! 居ないのよ!! 居るって言うのなら――その人達を護ってみなさい!!」


 ――"Deus Ex Machina(全てを終わらせる神はここに)"!!

 

 彼女の悲鳴にも似た思念波と共に、現実が書き換わる。

 コスモシティのビル街に、突如として巨大な――500メートルを超える巨体を持つ、機械仕掛けの巨神が現れる。

 巨神はその拳を握りしめ、俺へと――俺の周りの人々ごと叩き潰すように、叩きつけてくる。

 

「護るさ。全部!」


『ヒーローライド! "ジークフリート"!!』


 ベルトの変身音と共に、俺は白銀のパワードスーツを纏う。宿すは竜殺しの英雄、ジークフリート。手には魔剣バルムンク。

 

『"ジークフリート"! クリティカルブレイク!!』


「バル――ムンクッッッ!!!」


 叫び、必殺技を放つ。バルムンクに宿したエネルギーが、巨大な光の衝撃波となり、巨神へと突き刺さる!


「O……O……OOOhhhh……!!!」


 巨神は光の濁流に飲み込まれ、そして――

 

 ――轟ッッッ!!!

 

 巨大な光の爆裂となり、四散した――

 

●5●


「――負け、た……」


 ぺたり、と地面に座り込むアルティマクイーン。その表情は茫然としたそれで、信じられない、という心情を物語っていた。

 そんな彼女に、俺は"変身"を解き、私立探偵姿で近づく。

 それに気づいた彼女は、びくりと身体を震わせ、怯えた視線をこちらに向けてくる。

 

「ヒッ――」

「遅くなって、ごめん。君を、助けにきた」


 俺はそう言って、右手を彼女へと伸ばす。

 

「たす――けに? ――私を?」

「10年前から随分と遅くなってしまったけれど。今度こそ――君を助けに来たよ」

「――無理よ」


 俺の伸ばされたままの手を見ながら、アルティマクイーン――八坂ルナは震える声で続ける。

 

「私が何をしたと思ってるの? 私は、全てのヒーローを消したのよ?」

「罪は、償えばいい。失ったものは取り戻せばいい。君の現実改変能力なら、可能じゃないのか」

「――何かを消すのは、簡単なのよ。それは嘘だ、って言えばいいから。

 でも、取り戻すのは難しい。私は、消してしまったヒーロー達のことを何も知らない。

 知らないモノを、取り戻すことは出来ないのよ――」

「それなら、大丈夫」


 そう。知らないのなら、知ればいい。それだけのことだ。

 

「俺はチェンジヒーロー・アスタリスク。無数の英雄――ヒーロー(・・・・)を知り、その力を宿すヒーローだ。

 君が消してしまったヒーローの事を、全部教える。

 そうすればヒーロー達を戻せるだろう?」

 

 そんな俺の言葉に、彼女は泣き笑いのような表情を浮かべる。

 

「嘘――嘘よ。そんな、だって――もうこの世界は終わってて、取り返しなんてつかなくて――

 ずっと、そう思ってたのに――」

 

 彼女は俺の手へと手を伸ばしながら。

 

「本当に、助かるの? 世界も、ヒーローも」

「助けるさ。全てを護るヒーローが、ここにいるんだから」


 しっかりと彼女の手を握りながら、俺はそう答える。

 

 ――ヒーローは、確かに、ここに居る。

 ――助けを求める人の元に、必ず駆けつけるのだ。

 

ラストピース・ヒーローアウェイクン ~チェンジヒーロー・アスタリスクより~ END


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