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第六話 オレ達冒険者は、お前のような存在を認めねぇ

「ごめんなさい!」


「謝罪の気持ちは受け取りましたから、頭を上げてください」


 そうしてくれなければ、主に俺の命が危ういから。

 慌てて両手を振り、ソフィーに頼み込む。

 直ぐに自分のミスに気づいてくれたのはいいんだけど、逆に目立っているような気がするよ。


 勢いよくソフィーに叫ばれてから暫し、俺達はギルド内で注目を浴びてしまっていた。

 近隣の者と会話を交わす冒険者に、品定めする目つきで観察する受付嬢達。

 正直、居心地が悪くて悪くて仕方がない。


《まあ、これがスキルの効果でしょう》


 だろうな。

 小説で同じような場面を読んだ事がある。

 無名の主人公が強力なモンスターの討伐証を持ってきて、ギルド内で注目を集めるような場面を。

 つまり、ソフィーもそのスキルの効果で、ついミスを犯してしまったのだろう。


「本当にごめんなさい。

 最近はこんな失敗をする事はなかったんですけど」


「……最近は?」


「あ、はい。

 実は、私が新人の時にはよくやらかしちゃってまして」


 えへへとはにかむソフィーは、その容姿と相まって凄く可愛い。

 可愛いんだけど、よくクビにならなかったと思わずにはいられない。


 おい、ここのプライバシーは大丈夫なのか?

 辺りを見回してみると、皆しょうがないなぁといった面持ちで微笑んでいる。


 え、なにこの優しい流れ。

 子供が初めての買い物をする時のような、こっそり見守ろうとする雰囲気が漂っている。

 受付嬢達なんかは、またかと言わんばかりに肩を竦めているし。


 ……流石、ファンタジー。

 現代日本とは、人々の暖かさが断然違いますね。


「あの、とりあえず話を進めてください」


「は、はい。

 それで、ケントさんは【神の寵愛を受けし者(ユニークホルダー)】ですので、ギルド登録料が無料になります」


「え、そうなんですか?」


 目を丸くした俺に頷き、ソフィーは値段が書かれた羊皮紙を見せる。


「こちらをご覧ください。

 一般的には、この一番下の登録料が必要です。

 しかし、こちらの【叡智を見通す物(ステータスプレート)】によって将来が有望だとわかった方は、ギルドがバックアップを取る制度になっているのです」


 なるほど。

 今のうちに恩を売って、唾をつけておこうというわけだな。

 こうすれば、期待されたルーキーはこのギルドに愛着が湧くだろうし、ギルドとしても新たな戦力が手に入れられてウィンウィン。

 よく考えられていると言えば、よく考えられている。


 ただ、こういうのは一般登録した冒険者との亀裂を生む事になり……


「──おいおい、ソフィーちゃん。こんなやつに優遇登録する必要はないんじゃねーの?」


 後ろから声が飛び、俺達の間に降り注いだ。

 振り向くと案の定、ニヤニヤとした冒険者がこちらに近づいてきている。


《イベントが来ました!》


 うん。

 歓喜の声を上げるティナは無視しておこう。


「あ、イガルさん」


 ソフィーにイガルと呼ばれた男は、俺の前で立ち止まると視線を上下させていく。

 舐めるように見つめ、やがてはっと嘲笑を零して首を振る。


「普段から鍛えているわけでもなさそうだし、装備も貧相ときた。

 服はそこらの貴族より良さそうだが、どっかの没落ボンボンか?」


「えーっと、そんなところです」


 生活水準が下がったし、あながち間違いでもないよな?

 曖昧に頷く俺を見て、イガルは鼻を鳴らす。


「はんっ。

 ここはお前のような貴族様が来る場所じゃねーんだよ」


「ケントさん、ケントさん。

 イガルさんは、最近Dランクになった冒険者です。

 あ、ランクはGからSまでの八つあって、イガルさんは上から五つ目ですね。

 普通の冒険者はDランクで頭打ちになるので、実質イガルさんは一般枠最強です」


 ご丁寧な解説ありがとう。

 改めてイガルを見てみると、使い込まれた鎧や素人目でもわかる隙のない佇まい。

 年齢も二十半ばといったところなので、才能の面でも凄いのだろう。

 他の冒険者達も一目置いているのか、イガルの動きを注視しているし。


 と、現状の把握は程々にして。

 俺としては、イガルの言い分もわかる。

 冒険者として誇り高いというか、自分の職業に自信を持っているというか。

 だからこそ、物見遊山の出で立ちで来た俺を、彼は許せないのだろう。


「と言われても、こっちにはこっちの事情があるから」


「だったら、一般登録にすりゃいい。

 貴族様もあくせく働いて、オレ達冒険者の辛さを味わえばなぁ!」


 俺は貴族じゃないんだけど。

 まあ、それはいい。

 というか、別にイガルは冒険者になるのを阻止したいわけではないのか?


 ……まあ、なんとなく察しはつく。

 要は、俺が優遇登録するのが気に食わないのだろうな。

 ぶっちゃけ、少し面倒になってきた。

 こちとら、朝から歩きっぱなしで疲れているのに、こんなところで時間を潰したくない。


「あのですね、イガルさん。

 これはギルド内で決められた規則ですので、ケントさんの優遇登録は決定事項です」


「でもよぉ、ソフィーちゃん。こんなひょろひょろなんだぜ?

 こいつが【神の寵愛を受けし者(ユニークホルダー)】なんて信じられるかぁ?」


 語尾を上げて尋ねるイガルに、ソフィーは困った様子だ。

 オロオロと目を泳がせた後、ふと閃いたように顔色を明るくさせる。


「大丈夫ですよ、イガルさん。

 先ほど、ちゃーんと私が確認して見たんですから」


「……まあ、ソフィーちゃんも見たんならそうなんだろうが」


 【叡智を見通す物(ステータスプレート)】に目を向けながら、口元を歪めたイガル。

 不愉快だと示すよう舌を打ち、俺を睨みつけて踵を返す。


「な、なんですか?」


「ソフィーちゃんに免じて、今回はお前を見逃してやる」


「はぁ、そうですか」


「けどな──」


 そこで言葉が区切られた瞬間、俺の身に言い知れぬ悪寒が襲いかかった。

 思わず跳び上がって肩を震わせる俺を尻目に、振り向いたイガルは黄色い瞳を細める。


「──オレ達冒険者は、お前のような存在を認めねぇ」


 酒場の方に向かうイガルの背中を見つめ、やがて安堵から深いため息を漏らした。


 こ、怖いわ!

 今って、多分殺気だよな?

 数時間前まで平凡な人間だった俺に、そんな恐ろしい物を浴びせないでくれよ。

 いや、今現在も普通でなんの取得もないから、今後も殺気を向けないでほしい。


「イガルさん凄かったですねぇ」


 ソフィーはソフィーで、その脳天気な顔をなんとかしてくれ。

 大物なのか、ポケポケなのか判断に困るから。


 頭が痛くなりながらも、再び俺はソフィーから説明されていく。

 結局、これ以上は特に大きな問題もなく、無事にギルドを後にする事ができるのだった。






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